第34話 情報源が向こうからやって来た!
王子のもとから転移した俺はウォリックが騎士たちの指揮を執りながら捜査を続けているデルマ侯爵領に来ていた。
「ウォリック、いるか?」
俺は騎士たちが詰めているテントに顔を出す。
「おお、リョウか。どうした?」
ウォリックが俺に気付いて返事を返した。
「昨日から何か変わったことや分かったことがないかと思ってな。それに侯爵と取引していた商人についてとか分かったことはないか?」
俺がウォリックにそう聞くと少し困ったような顔をして首を振られる。
「そうか。まあ、わかったら連絡してくれ」
「ああ」
そう言ってウォリックのところを後にしてデルマ侯爵の屋敷を後にしようとしたとき、俺が吹き飛ばしてフリーパスになっている門の方から人影が見えた。
「どうかしたか?」
俺は不振に思ってその人影に近づいて声をかける。
「え、いや。ここってデルマ侯爵様のお屋敷ですよね?」
俺が声をかけた男は不思議そうに門の残骸を見ながらそう言った。
「そうだな」
俺は肯定の言葉を返す。男はほっとした様にこちらを見る。
「これは何があったんでしょうか?」
「さあ、俺にはわからんが?」
男の質問に「さっぱりだ」と、いう風に返す俺。やったのは俺だが。
「それであなたはデルマ侯爵の関係者ですか?」
男は俺の嘘に気が付かないようにそう聞いてきた。ふむ、関係者か? と、問われたら関係はしているな。
「ああ、そうだ」
俺がそう返すと男は嬉しそうに言う。
「私は商業国の商人、バスク様の使いのものです。デルマ侯爵につないでいただけますか?」
男はそう言った。言ってしまった。来た。手がかりが向こうからやってきてくれた。これには笑みをこぼさずにはいられない。
「なるほど。バスク様の使い、と。そうおっしゃるんですね」
俺が大仰にそう言うと、男は少し戸惑ったように「はい」と、返事を返す。
「すると、デルマ侯爵の地下の取引もご存じですかね?」
「え、ええ。あなたも知らされているんですね」
男は秘密を知っている俺に安心した様に肯定の返事を返してしまう。これはもう、笑いが止まらない。
「ははは、勿論じゃないか! 待っていたよ」
俺は嬉しそうに男に言う。
「男もバスク様も再度デルマ侯爵とお会いするのを心待ちにしておりました。取り次いでいただけますね?」
男も嬉しそうに言った。しかし、おふざけもここまでにするべきだろう。念話でウォリックに連絡を入れる。
『ウォリック。リョウだ。デルマ侯爵とつながっている商人の下っ端を見つけた。門まで来てくれ』
『な、なに!? わかった。すぐに向かう』
俺はウォリックと会話しながら男に歓迎の意を示すように握手を求める。
「よく来てくれた。伝えるので来てもらってもいいか?」
男は握手に答えながら「もちろんです」と返事をした。そうして男を連れてウォリック達がいたテントの方に向かって男を案内する。視線の先には完全武装した騎士たちが向かってきたのが見えた。
「あ、あの。何か物々しくないですか?」
男が騎士たちを見てそう聞いてきた。
「そりゃ、そうでしょうよ。デルマ侯爵の犯罪について知ってそうな人が来たんだから」
俺は自然にそう言ってのける。
「……ッ!?」
男は一瞬何を言われたのか分からなかったのか硬直し、理解が追い付くと驚愕の表情を浮かべた。
「あ、あなたはデルマ侯爵の関係者じゃ、なかったのですか?」
男は震えた声でそう聞いてくる。騙されていたのに気付いたのだろう。
「関係者だぞ? 最も、捕まえた側だが」
俺はそう言って魔力を使い威圧をかける。
「逃げるんじゃねぇぞ? お前は大切な情報源だ。全部吐くまで殺しはしないから安心しな」
俺がそう言うと男はガクガクと震えながら恐怖に耐えきれずに気絶したのだった。
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「お手柄だな。それに随分と機嫌が良さそうじゃないか」
そう冗談めかして声をかけてきたのはウォリックだった。
「ああ、向こうから情報がやってきてくれたんだ。これで一歩、話が進むんだ。うれしくないわけがない。俺としてはさっさとこんなこと、終わらせたいんだからな」
ウォリックは「違いない」と、言いながらククッと笑う。
「それで。なにかわかったか?」
「ああ。まず、あいつが言っていたバスク様ってやつの拠点と何をしているか、だな。下っ端だと思っていたら意外と情報を知っていて驚いたぞ」
「ほう? それはよかった。で、拠点の場所は?」
俺が急かすようにウォリックに言うと「まあ、まて」と制止させられる。
「奴は商業国の結構上位の商人だそうだ。俺たちが踏み込むと国際問題になりかねない」
ウォリックの発言にその場の空気が変わる。まあ、変えたのは俺なんだが。
「だから?」
「手順を踏みたいんだ。強制捜査に踏み込んでも問題ないという状況を整えたい」
ウォリックが俺を落ち着かせるようにそう言う。
「つまり、俺に待てと?」
「そうだ」
ウォリックが肯定する。公的機関のものならそう言うのは分かる。こちとらここよりも進んだ法治国家の出身だ。だが、
「お前、なんか勘違いしてないか?」
俺がそう言うとウォリックが戸惑ったような、焦ったような声を出す。
「勘違い?」
「そうだ。なんで俺がこの国のためにそこまでしないといけない? どこまで求めている? ただでさえ面倒なのを我慢してここまで騎士たちのやるようにさせているんだぞ?」
それを聞いたウォリックは苦虫を噛みつぶしたような表情になる。
「もともと旅行ついでに気になったところを王女に聞きに来ただけでここまで巻き込まれてんだ。ティアを抑えるのにも随分と苦労している。俺は好きに暴れさせてもよかったんだぞ?」
「そ、それは……。だが、王子殿下も関わられているじゃないか!」
ウォリックは焦って反論する。
「王子? ああ、あれはほかの貴族が俺たちに興味を持っても手を出しづらくするためのカモフラージュだ。正直、いらないんだがな。手を出されても自分で反撃できるしな」
俺がそう言うと、ウォリックは顔を青ざめさせた。
「いいか? 俺はいい加減、この件を終わらせたいんだ。さっさとバスクの情報をよこせ。商業国が敵に回って国際問題になるんだったらついでに滅ぼしとくから」
俺がそう言うと、ウォリックは諦めたような顔でバスクの居場所を言うのだった。
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