第35話 アデオナ王国王城にて②
「この国から手を引く、と言うのは本気かね?」
驚きの表情を浮かべていたハシーム国王は、一転冷静になったように表情を改めるとウカにそう問いかける。しかし、怒りのような感情を隠しきれておらず握った拳が震えているのが見て取れた。それにウカも気付いているだろうにわざと馬鹿にしたように笑って答えている。
「勿論です。私たちからしたら今回の一件でそちらに対する信用をすることができないと考えております。そうなれば、商人としては手を引くのも当然でしょう?」
「しかし、そちらから仕入れている商品はこの国では作られていない!」
「そうですね。でも、なくても生きていけるでしょう? ああ、ご安心ください。この国の国民に卸している食料の販売は続けますので。止めるのは嗜好品の類だけです」
ウカの言葉にハシーム国王やハラハンは焦ったような、必死な表情を見せる。それにしてもこの国に卸している嗜好品ってなんだ? こんなにも焦るなんて普通じゃない気がする。まぁ、後で聞けばいいか。
「それではこちらが困るのだ! どうしても、か?」
「ええ。困るのならそちらが今回の件のようなことをしなければよかったでしょう。違いますか?」
ウカの頑なな様子にハシーム国王は「ぐっ」と言葉に詰まりポツリと呟く。
「やむを得ない、か」
「何がでしょう?」
ハシーム国王の呟いた言葉にウカが問い返す。しかしハシーム国王はそれには答えずに右腕を上げた。それを合図に近衛兵と思われる集団が部屋に入ってきて俺たちを囲む。ウカは近衛兵の集団にちらりと視線をやって口を開く。
「何のつもりでしょうか?」
「分からか? お前たちは我が国に対する反逆者だ。それを捕らえようとしているだけのこと」
ハシーム国王がにやりと勝ち誇ったような表情を浮かべて近衛兵たちへと視線を向ける。近衛兵も国王の視線を受け、俺たちを捕まえようと動き出す。
俺はウカに視線をやり、口を開いた。
「ウカ?」
「ええ、仕方ないです」
「了解」
ウカの言葉に俺は笑って答えた。そして近づいてくる近衛兵たちに向かって魔法を放つ。選んだのは電撃。この世界に来てから一番多用している気がするが殺さずに無力化するには手っ取り早いのだ。俺はその電撃を俺に近づいてくる近衛兵達に向け感電させていく。
「ぐわっ!」
「ぐっ!」
「あばばばばばばばっ!」
その一撃で俺たちに近づいてきた近衛兵の大半が無力化されその場に崩れ落ちる。それ以外の俺の電撃を食らわなかった近衛兵たちも、一手で倒された仲間を見て動揺した様に驚きの声を上げる。さらには俺の一手になすすべもなくやられる近衛兵達を見て腰を抜かした国王やハラハンがいる。
「この程度で動揺しているようじゃ、近衛は勤まらないんじゃないか? 国王からしてあのありさまだ」
俺は統率を失いかけている近衛兵たちを見て呆れて呟く。俺の言葉にキコとヨウが同意するように苦笑していた。そしてウカが立ち上がり俺に視線を向けて口を開いた。
「もともとこの国は対外的に戦争してませんし、質も悪いのでしょう。それよりもリョウさん。交渉は決裂です。帰りましょう」
「交渉する気なんてなかったのによく言う。それよりもあれはほっといていいのか?」
俺は速攻でやられた近衛を見て俺たちに向けて怯えた視線を送ってくるハシーム国王やハラハンに視線を向けウカに問いかける。
「ほっといていいでしょう。宿の方に来ていた諜報員みたいなのもティアさんが片付けているでしょうし、私としては今回直接話をしただけで義理を果たしたと言えます。これ以上何かちょっかいをかけてくるなら別ですが」
「そうか」
俺はきっぱりと言い切ったウカに短く返事を返すと、ハシーム国王の方へとちらりと視線を向ける。そこには相変わらず腰を抜かしているのが見え、呆れてきって笑いすら出てこない。俺はウカにハシーム国王の方を示して口を開く。
「そう言えばウカ。俺もいくつかあれに質問しといていいか?」
「何をですか?」
「この国のことだよ」
「ああ。どうぞ」
一応ウカに確認をとるという体を取ってからハシーム国王に向けて質問する。
「なぁ、ハシーム。一つ質問があるんだが?」
「な、なんだ?」
俺が近づきながら声をかけると、ハシーム国王は面白く体をはねさせて震えた声で俺に答える。
「この国には王子が四人いると聞いたが一番下の王子はどこにいるんだ? 他の王子の悪評は聞こえてくるが第四王子だけは話が聞こえてこない。そいつはどこに行った?」
「あ、あいつならこの城にはい、いない」
「では、どこに?」
「分からない。ほんとに知らないんだ。小さなころから魔術を勉強してて気が付いたらこの城から出て行った。この城で飼っていた通信用の鳥と一緒に……」
ハシーム国王は特に隠すことではなかったのかそう説明して俺を見る。どうやら怯えようからして権力闘争は得意そうだが暴力関係は苦手なようだ。そのことからも嘘は言っていないように感じる。
「そうか、聞きたいことは聞けたしもういいよ。それよりももしこれ以上俺たちに手を出してみろ。今度は本気で潰しに来るぞ。ハラハン、お前もだ。お前が付けている暗殺者崩れの諜報員。気付いてるし何人も対処しているからな?」
「な、何のことだ?」
「しらばっくれるなよ。こちとら証言も取れてるんだ。帰ってこない奴がそれだ。それからこの国に所属する奴の変なちょっかいもやめさせろよ? 何かあればそっちの監督責任だからな?」
「し、知らない。私は知らんぞ!!」
「そうかい。忠告はしたからな」
怒鳴るようにして否定するハラハンに俺はそう吐き捨てると、俺が質問し終わるまで待っていたウカに視線を向ける。
「もういいのですか?」
「ああ、聞きたいことは聞けた。もう用はない。この城の中をくまなく探る手間が省けてラッキーだった」
「そうですか。じゃあ、行きましょうか」
「おう」
俺たちはこうして何事もなくアデオナ王国の王城から出るのだった。
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