第36話 王城を出ると

 アデオナ王国の王城をウカ達と共に出て宿の方面に進むと見えてきたのは、たくさんの警備兵とハラハンの手の者と思われる暗殺者みたいな見た目の集団が宿に向かって怒鳴り声を上げながら向かっている所であった。それに加えて王城に向かっているときにも聞こえた爆発音も聞こえてくる。


 その集団を見送って俺とウカは顔を見合わせる。そしてそろって同じような溜息を吐いた。


「ティアのやつ、まだやってたのか?」


「そう、みたいですね。これどうやって収集つけるつもりなんでしょうか?」


「さあ、どうせ俺に丸投げされるんだ。頭が痛いよ」


「ご愁傷さまです」


 ウカは俺に苦笑いしながら慰めの言葉をかけてくる。ウカも俺に丸投げするつもりだな。そうはさせるか。


「何言ってんだウカ。お前も一緒にやるんだよ」


「え?」


 俺はそう言ってにやりと笑うと、引きつった表情でこちらを見るウカの肩に手を置いて頷く。そしてウカは震えた声で俺に尋ねた。


「私に何をさせるつもりですか?」


「今は特に何も。でも、この状態って俺がさっき忠告したのにも関わらずまだ手を出してきているってことだろ? 約束を守らないやつらにはお仕置きをしなきゃなぁ?」


 俺の言葉に含まれている意味に気付いたのか、ウカはハッとなって俺を見る。俺の言葉の意図に気付いたようだ。


「まさか、最初からこれを狙ってティアさんを暴れさせたんですか? それと同時に向こうも脅して?」


「脅すなんて人聞きの悪いこと言うなよ。俺は丁寧に伝えたはずだぞ? ウカも聞いていただろ?」


「よく言いますよ、ほんとに。では、私の仕事はそのあとの交渉ですか?」


「そうだ」


「はぁ……」


 俺の意図を完全に察したウカは溜息と共にこれ以上何かを言うのをやめて進行方向に視線を戻す。それにつられるようにして俺も視線を向ける。その先では相変わらず小さな爆発音や怒声が聞こえてきている。


 ティアのやつ、相変わらず派手にやっている。


「ま、こうしていても仕方ない。さっさとティアとリースを回収してこの場を離れて王城に戻ろう。さっそくこの約束を破ったつけを払わせてやろう」


「なんだかノリノリですね?」


「そうか?」


 ウカの言葉に俺は少し考える。どうやら知らないうちに鬱憤でもたまっていたらしい。それが張らせるようになるのだから知らずにテンションでも上がっていたのだろう。俺はそう結論付けて肩をすくめ、気持ちを切り替えるようにしてウカに向かって口を開く。


「とりあえずティアのところに行こうと思ったんだが……。この人込み、どうするよ?」


「そうですねぇ。事情でも話して通してもらいますか?」


「まさか。こいつらが素直に通してくれると思うか? 見ろよあそこ。完全に道をふさいでやがる」


「これは面倒ですねぇ。でも、これで私たちの邪魔をするようでしたらハラハン公爵が破る約束が増えるだけじゃないですか?」


「それもそうだな。じゃあ、押し通るか」


 俺はそう言って通行止めをしている警備兵の方へと近づいて行く。この世界には携帯電話や無線といったものはない。そのため俺たちがハシーム国王やハラハンと話した内容は今だ末端には届いてないだろう。まぁ、それについては俺もわかっていてやっているのだが。


「止まれ。ここから先は通行止めだ」


 俺たちが近づいてくるのに気付いた警備兵は剣を抜いた状態で俺たちに向けて警告してくる。俺は後数歩で剣での攻撃が届く距離で立ち止まり口を開いた。


「逆に聞くが俺たちとハラハンが話した内容はまだ聞いていないのか?」


「なに?」


「俺の邪魔をするなって伝えてるんだけどな。どうしても通さないつもりか?」


「ハラハン公爵様が貴様のような奴とお話されるわけがないだろう」


 俺の態度が気にくわなかったのか、警備兵は俺に対して怒鳴るようにして返事をかえす。額には青筋が浮かんでいて怒りで顔が真っ赤になっている。


 きっとハラハンのことを呼び捨てにしたのも好ポイントだったのだろう。


「いいのか? ちゃんと確認しなくて。後悔しても知らないぞ?」


「世迷言を。こっちの指示に従わないとこの場で切り捨てるぞ!!」


「それが答えか?」


「くどい!!」


 警備兵はしびれを切らしたように俺に向かって切りかかる。俺はそれを特に避けようとせず、その剣を掴んで止める。そのまま俺の方に剣を引っ張るようにすると面白いように抵抗を見せる。そのタイミングを待って今度は力を抜いてやる。すると警備兵は踏ん張った分だけよろけることになる。


「なっ!?」


 俺の行動に驚いたようにバランスを崩して一瞬の硬直を見せる警備兵。その隙は、俺たちからすると十分すぎる時間になる。その間に俺は警備兵を殴りつけ、そのまま意識を奪った。一連の流れをウカは呆れたような視線で見ている。俺はウカに視線を向けて口を開く。


「よし」


「よしじゃないですよ?」


「いいだろ? 邪魔な奴はいなくなったし」


「それでもすぐに増援が来るんじゃないですか? 実際に兵士っぽい気配も近づいてきてますし」


「俺の邪魔をする兵力じゃないことを祈ってるよ」


「最近よく祈ってますね」


「そうか?」


 俺はウカに適当に返事をしながら歩みを進める。俺たちが取っている宿はまだ数ブロックは先である。この調子でゆっくりしていたら夜になってしまう。


「先を急ごう。邪魔する勢力は適宜対処する、と言うことで」


「はい」


 俺たちはこうしてティアがいる場所に向けて進むのだった。

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