第37話 ティアと合流
「おい、止まれっ!!」
俺たちはティアの待つ宿に向けて歩みを進めているのだが、いまだにちょいちょいと警備兵に声をかけられている。俺は呆れる気持ちを隠そうともせずにウカに声をかける。
「ウカ、まだこいつら声をかけてくるぞ?」
「そうですねぇ。そろそろお話が伝わっていてもいいと思うんですけど」
俺と同様にウカも警備兵の様子にあきれ顔で返事を返してくる。これが一度や二度であれば俺たちもこんな風に思わなかっただろうが、何度も何度もこうなると流石に情報の伝達が遅い異世界だとは言え、疲れてくる。
「黙って寝てろ」
俺はいちいち警備兵の相手をせずに電撃を食らわせて気絶させ、先を急ぐ。最初は俺のやり方に呆れていたようなウカも今では何も言わない。相変わらず情報共有ができていない警備兵たちに呆れた冷たい視線を向けている。
「ほら、もうすぐだ」
小規模な爆発音や警備兵たちによる怒声の発生源に近づいた俺はウカ達にそう声をかける。やがて見えてきたのは控えめに言って地獄だった。宿の周囲は空爆されたような壊れ方をして、その周囲には気絶して意識を失った警備兵や死んでいるハラハンの手の者が散らばって転がっている。どうやら殺す相手は暗殺者っぽい見た目で殺しにかかってくるハラハンの手下だけにしているようだ。
「あら、もう終わったの?」
俺達が近づいてきているのに気付いたティアは俺に視線を向けそう声をかける。その瞬間、ティアを囲んでいた警備兵やハラハンの手の者達の攻撃や怒声が一瞬止まり、俺たちに視線を集中させる。警備兵たちからしたらティアだけでも手こずっていたのに敵が増えて、困ってしまう状況だろう。まぁ、この国は警備兵までもが腐っているからあまり同情はしないが。
「ああ、ハラハンって奴やハシームって奴と話がついた。俺たちには手を出さないように言っていたんだが……。まだ情報が下まで降りてきてなかったみたいでな。鬱陶しかっただろ?」
「ええ、本当に。倒しても倒しても虫みたいに湧いてくるから疲れたわ」
「お疲れさん」
俺はそう言って警備兵の上を跳躍してティアの隣へと向かう。そして改めて周囲の状況を見て口を開く。
「それにしてティア。また派手にやったな」
「リョウたちが出た後にすぐに暗殺者みたいなのに狙われたわ。それを対処してたら話を聞かずに警備兵が増えるんだもの」
俺の言葉にティアはため息交じりに返事をしてハラハンの手下や警備兵を冷たい目で眺める。そして俺とティアの会話が気にくわなかったのか警備兵の一人が口を開いた。
「お前はなんだ? その女の仲間か? それとそこの狐もだ!」
その声を出した警備兵に俺とティアはそろって視線を向ける。見るとその警備兵はいつぞやの酒場で会った警備兵な気がする。
「お前、酒場でも絡んできた仕事をしない警備兵か?」
「なんだその言い草は! 私は男爵だぞ!! ん、そうだ思い出したぞ。お前は二日前に私から逃げた二人組だな?」
警備兵は喋っている内に俺たちのことを思い出したのか、確信を持ったように俺に言葉を向ける。
「ああ、お前の相手は疲れるからな。それよりも俺たちはこの後、王城に抗議しに行かなきゃならないから、そこを通してもらおうか?」
「何を言い出すのやら。そんな話が通るわけないだろう?」
警備兵は俺の言うことに対して相変わらずの反応を見せる。しかしよくもまぁ、ティアにこれだけやられていて自信満々になれるものだ。そのことに関してだけは感心することができるかもしれない。
「ま、俺はお願いしているわけじゃないし、通してもらうんだがな」
俺たちを囲んでいる警備兵達に対して俺は肩をすくめ、ティアを連れてウカのいる場所に転移する。一瞬で俺達が消えたのを見て、警備兵たちは動揺を見せた。
「また、堂々とそんなことをするんですね」
俺の行動にウカが呆れたようにそう口を開く。
「そうは言ってもな。隠して便利な魔法が使えないんじゃ意味がないだろ? こういうのは使ってこそ、だ」
「そうね」
俺の言葉にティアも同意し、俺たちの言葉に「しょうがないな」と言った風な反応を見せるウカ。俺はそんなウカの反応を見た後に警備兵たちに視線を戻して口を開いた。
「では、俺たちはこれで。言っとくけどついてきたりしてみろ。今度は本気で潰しに行くぞ」
「なっ! やれっ、お前たち!!」
俺の言葉に警備兵は頭に血を上らせて声を上げる。しかし、指示を出された警備兵は顔を見合わせて動かなかった。
「どうしたお前ら、何故動かない!!」
「だって隊長! ただでさえ遊ばれているようなものだったのに今動いたら本気でくるって……」
警備兵の中の隊長の言葉に言い訳するように言葉を発する部下。俺はそんなやり取りをしている警備兵に呆れてしまう。
「大した部下じゃないか。状況をよくわかっている」
俺はそう言ってもと来た道を戻ろうとする。行き先は先ほど出てきた王城だ。それに続くようにしてティアやウカ達もついてくる。そんな俺たちに隙ができたと勘違いしたのか、警備兵の隊長が怒鳴りながら突っ込んできた。
「ええい、お前たちは役に立たん!! 私が行く!!!」
俺はちらりと隊長に視線をやると名前を呼ぶ。
「リース」
「はいなの!」
俺の呼びかけに今まで隠れていたリースが警備兵の隊長の背後に現れ、首を折った。
「ぐぺっ」
警備兵の隊長はそんな声を上げながら崩れ落ち、この世から意識を永遠に閉ざすのだった。
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