第5話 ルシルとティータイム
ルシルに連れられた俺は案内されるがままにルシルの部屋に入る。室内はルシルらしいというか、実に女の子らしい部屋ではあった。しかし、若干ルシルがそわそわしている。
「どうした?」
俺はルシルの様子が気になりそう問いかける。
「私、男の人を部屋に入れたのは初めてです」
そんなことを顔を赤らめて言うルシルに俺はため息を吐く。
「そうか」
「あら、冷たい反応ですね」
俺の返事にクスクスと笑いながらルシルが答える。やっと調子を取り戻してきたようだ。
そんな会話をしていると、メイドがお茶の準備を終えたのか、カートにティーポットやカップ、そしてお茶請けのお菓子を乗せてやってくる。
「ありがとう」
ルシルがカップを受け取り、メイドにお礼を言うとメイドは静かに頭を下げた。そしてそのままメイドは下がっていく。
「それで?」
俺は一口お茶を飲むとそう聞いた。
「何がですか?」
ルシルはきょとんとしてそう聞き返してくる。
「何がも何もどうして俺を誘ったんだ? 何か話したいことでもあったのか?」
「ありませんよ?」
俺の問いにルシルはそう答える。
「しいて言うなら、最近のリョウ様の話が聞きたかっただけです」
そしてルシルは少し不安そうにそう言った。
「そうか。それじゃあ、何が聞きたいんだ?」
「怒らないんですね?」
俺の態度にルシルは不思議そうに聞いてくる。
「怒る? 何に?」
「だって、特に用事もなく無理やり連れてきたようなものじゃないですか」
「そうか? まあ、そこまで時間に追われていないから気にするな」
俺はそう言ってルシルの頭に手を置いてポンポンとしてやる。それだけで不安そうにしていたルシルは嬉しそうに笑った。
「で、俺の最近の話か?」
「そうです」
「と、言われてもなぁ。デルマ侯爵領での話とかは知っているだろ?」
俺はそう言って考える。
「それも詳細は聞いてませんよ?」
「そうは言っても商人を締め上げて情報を搾り取った後に騎士たちに渡しただけだしなぁ」
俺は苦笑い気味にそう言う。
「そのあと商業国にも向かってませんでした?」
「そうだな。そう言えば今日の午前中なんだがウカの仕事を手伝ってな―――」
俺はふと次に向かうアデオナ王国のことをルシルに言っていないことを思い出してそう説明を始めた。
「――で、次はアデオナ王国に向かうことになったんだ」
俺がそう説明を締めくくると、ルシルは難しい顔をする。
「よくもまあ、そんな問題のありそうな国に向かいますね」
ルシルは苦笑しながらそう言った。そんなルシルに俺は言い訳するように言葉を続けた。
「まあ、メインは遺跡探索だから、問題はそう起こらないと思うが」
「あそこはいい噂を聞きませんし、十分に気を付けてくださいね」
ルシルは心配そうにそう言った。仕草もそろって心配そうにして、手を胸元できゅっと握られている。
「まあ、噂程度なら俺も聞いたし、さっきは国王さんにも情報をもらいに行っていたんだけどな」
「そこからウォリックさんを向かいに行くことになったんですか?」
「そうだ」
「忙しい人ですね」
ルシルの表情が曇る。そんな人を引き留めてよかったのか悩んでいるような表情だ。
「だから、少し休憩だ。気にするな」
俺はそう言ってルシルに笑いかけてやる。そんな程度のことで今更不安がられてもな。
「リョウ様は心でも読めるんですか?」
俺がルシルの内心を見透かしたように感じたのかそう聞いてくる。見るからに不思議そうな、なおかつ驚いたような表情をしている。
「そんなわけないだろ。顔に出てるぞ?」
「おかしいですね。普段から相手に表情を読まれないようにしているつもりですが……」
ルシルはそう言って自分で顔をムニムニとほぐすようにしている。
「まあ、気にするな」
俺はそんなルシルの様子に笑いながらそう言った。
「もうっ、なんで笑うんです?」
「そりゃ、ルシルの行動が面白いからだな」
ルシルの不満そうな抗議に俺は笑ったまま答える。俺に対してはなぜか甘えているようにも見えるが、どうしてか。
「もういいです」
そう言ってルシルは少し膨れながらもお茶を飲む。明らかに照れ隠しなのがバレバレである。しかし、俺はあえてそれを指摘するようなことはしなかった。
「悪い悪い。これやるから落ち着け」
俺はそう言って、いつだったかに作ったクッキーをお茶請けの皿に追加で出してやる。
「あ、おいしい」
手に取って一口かじったルシルがそう呟く。
「どこで買われたんですか?」
興味を持ったのかルシルはそう聞いてきた。
「いつだったかは忘れたが俺が作ったんだよ」
俺はそう言って説明する。俺が作ったことを知ったルシルは驚いたような表情を見せる。
「リョウ様はお菓子作りもできるんですね」
ルシルは感心した様にそう呟いてこちらを見る。そこに俺は追加で情報を追加する。
「料理も一通りな」
そんな俺の話にルシルは驚いたように笑う。
「ふふっ、なんでもできるんですね」
「さすがに何でもは無理だが」
ルシルの言葉に俺は苦笑する。
それからしばらくは料理の話や日常生活の話をルシルと続けるのだった。ルシルは自身にとって馴染みのないような生活に、時に楽しそうに、または羨ましそうに聞くのだった。
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