第4話 送迎

 はじめて転移を経験した王子の部下たちが目を白黒させて、立ち直るのに少し時間を要したが、元デルマ侯爵領に転移した俺たちはそのままウォリック達がいるであろう場所に向かう。


 やがて騎士たちが使っているテントの前にやって来た。


「ウォリック! いるか!」


 そこで立ち止まり俺は騎士たちが気付くように声を上げる。


「なんだ? リョウか?」


 ウォリックがテントの一つから出てきて俺に気が付くとそう答えた。そして俺に気が付いたほかの騎士たちは若干震えているように見える。何かに怯えているようにも見える。


「リョウ殿。何かしたんですか?」


 そんな騎士の様子に疑問を感じたのか、俺の後ろにいる王子がそう尋ねてくる。騎士たちの視線が俺に向いていたからだ。


「心当たりはないが?」


 俺はそう言葉を返す。それを見ていたウォリックがため息えを吐いた。俺の後ろの人物には気が付いていないようだ。まあ、見えないだろうしな。


「あれだけ俺たちを脅しておいてそれはないぞ?」


「脅すだなんて人聞きが悪いな。俺は正当な主張をさせてもらっただけだ」


 俺はウォリックの言にそう主張する。ウォリックがひどく頭痛を感じたような顔をした。


「それで?」


 ウォリックは切り替えたのかそう聞いてくる。


「ああ、国王さんがそろそろ終わったんじゃないかって。だから迎えに来た。ついでに代官の送迎だ」


 俺はそう言って後ろにいる王子たちに視線を向けた。俺の視線の先にいる人物に気が付いたウォリックは焦りだす。


「先に言えよっ!?」


 焦ったウォリックは俺を恨めしそうに見ながら王子に対して臣下の礼をとる。


「よい。気にするな。ここまでの任務ご苦労だった」


「恐縮です」


 王子がウォリックを労う。それに対してウォリックは本当にうれしそうに返事をしていた。


「それで王子さんはこのままここでいいのか?」


「ああ。世話になった」


「気にすんな」


 ここからは王子がこの場の指揮なり、領地経営なりしていくのだろう。俺は王子にそう言ってウォリックを見る。


「ウォリックは報告書とかあるか? 国王さんが話を聞きたがっているぞ」


「わかった。まとめてある」


「じゃあ、行くから準備してくれ」


 俺はそう言ってウォリックに準備をするように促す。そしてウォリックが準備をしている間に俺は王子に尋ねる。


「ここにいる騎士たちは返さなくていいのか?」


「ああ、ここで私の部下として働いてもらうことになった」


「そうか」


 こんな王都から遠い場所でご苦労なことだ。


「待たせたな」


 王子と会話している間にウォリックの準備が終わる。


「随分と速かったな」


「もともとまとめてあったからな」


 ウォリックはそう言うと手には報告書の束を持ち、準備を完了させた。


「じゃあ」


 俺は王子にそう声をかけてからウォリックを連れて王都に向けて転移をする。場所は王城の庭でいいかな。


「到着」


「きゃ!?」


 俺が声を出すと驚いたような短い悲鳴が聞こえた。


「ん?」


 俺は悲鳴がした方に視線を向ける。そこには金髪の少女がいる。この国の王者であるルシルだった。


「リョウ様! 驚きました」


 ルシルは現れたのが俺だと気が付くとほっとした様にそう言った。


「ああ、悪い悪い。驚かせてしまったな」


「いえ。それよりもどうかしたのですか?」


「ちょっと、国王さんの頼みでウォリックを迎えに行っていたんだ」


「そうでしたか」


 そう言ってルシルは微笑んだ。


「じゃあ、お父様の場所に行くのですね? 私もついて行っていいですか?」


「俺は構わないが……」


 俺はそう言ってウォリックに視線を向ける。


「俺が断れるわけないだろう?」


 ウォリックはそう言って肩をすくめた。まあ、王族が言ってることをそうそう否定できるわけないか。


「いいってよ」


「ありがとうございます」


 俺がそう言うとルシルは嬉しそうにそう言った。ルシルの先導についていくように俺とウォリックは国王さんのいる場所に向かう。


「お父様、私です」


 そう言って扉をノックするルシル。


「入れ」


 俺が来た時と同じような返事がして、中に入る。


「ルシル、どうしたんだ?」


「リョウ様達が来られましたのでついてきましたの」


「そうか」


 国王さんはそう言って俺とウォリックの方に視線を向けた。


「無事に届けてくれたようだな。問題はなかったか?」


「もちろん。王子も無事に向こうで仕事を始めようとしていたよ」


 俺はそう言って肩をすくめた。これくらいじゃ、失敗する方が難しいと思うしな。ただの送迎だ。


「あとはウォリックとじっくり話してくれ。俺はもう帰るよ」


「そうか、助かった。礼を言う」


「気にするな」


 俺がそう言うとルシルがこちらを見る。


「もう帰られるのですか?」


「ああ、用事は終わったからな」


「では、お茶をしていきませんか?」


 ルシルがそう誘ってくる。時間的には問題ないが、やりたいこともあるしな。どうしようか。


「だめ、ですか?」


 少し考えて黙ってしまった俺に、寂しそうにそう言って見つめてくるルシル。


「わかったよ。時間的には大丈夫だしな」


 俺はそう言ってルシルに折れるのだった。

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