第15話 貴族トラブル
「あー、俺たちは無理に闘う気はないんだが?」
俺はとりあえず貴族の部下たちに向けてそう声をかける。貴族の部下たちは俺が急に声をかけたのに驚いたのか一瞬で警戒の態勢に入った。
「そんなこと言われても信用できるか! 現に仲間が何人も死んでいるじゃないか。それに私たちがお仕えするデブリ侯爵に歯向かったのは変わらないだろう?」
どうやら現在絡んできている貴族の男はデブリ侯爵と言うらしい。そのデブリ侯爵の部下たちは、数で勝っているためか自分たちの勝ちは揺るがないと考えているのか、余裕のある表情を浮かべている。
「俺たちは絡まれたから自分の身を守るために対処しただけだ。もう一度言ってやるからよく聞けよ? 諦めて帰ってくれ。俺たちに闘う意思はないんだ」
「もう遅い。デブリ侯爵様が不敬罪だと言ったら不敬罪の罰を受けてもらわないとな」
「そうか……。もういいぞティア。こいつらは俺たちと会話をする気はないようだ」
「そうね、私もそう思う」
俺はこれ以上話をするのは無駄だと感じ、ティアに待ってもらっていたのを諦めた。まあ、正直こいつらには俺もイライラしていたし、リースやウルラを人質に取ろうとしていたことにも怒りを覚える。これ以上、俺たちが不愉快なのも気に入らない。こんな貴族関連の話はこれっきりにして欲しいものだ。
「へっ?」
結局、デブリ侯爵の部下たちはティアが何かしたことに気付かずに逝くことになった。最後に発することができたのは、間抜けな疑問の声だけである。それを見ていたデブリ侯爵は、今度こそ腰を抜かして尻もちを着いた。
「さて、守ってくれるお友達はみんないなくなったが、他に何かあるかな?」
俺はデブリ侯爵に笑いかけながらそう問いかける。顔を真っ青にしたデブリ侯爵はぶるぶると震えながらも気丈に、そして何とか上に立とうと高圧的な態度を崩さない。
「私にそんなことをしていいと思っているのか!?」
「逆に聞くが、これ以上お前は何ができる?」
「そ、それは……」
俺の問いに対して言葉を詰まらせるデブリ侯爵は、傍から見ると滑稽以外の何物でもない。この場には俺たちとデブリ侯爵、そして宿の従業員しかいない上にデブリ侯爵の味方になるだろう人はみんなこの場ではいなくなってしまっている。
「貴族と言うものは確かに平民とは違うんだろう。だがな、それだからと言って横暴なのが許されるわけではないし、お前を守って来たものがなくなると途端に立場はがらりと変わる。今の状況を冷静に見てみろ。ここにお前の味方はいるか?」
「ぐぅ」
俺の問いかけにデブリ侯爵は言葉を発することができずに唸る。デブリ侯爵の頭の中ではこの場を切り抜けるために必死になているのだろう。だが、もう好き放題させる気は俺にもない。
「と、言うわけで、もうさよならだ。俺たちに絡んだのは失敗だったな」
「ちょ、まtt―――」
俺はそう言いながら、デブリ侯爵の息の根を止めた。そんな光景を宿の従業員一同は息を飲んで見ている。俺はそんな従業員たちの視線に気付きながらも無視してティアに話しかける。
「さて、ティア。ここを少し片付ける必要があると思わないか?」
「そうね。こんなところで寝ている人がいるのも困るわ」
「じゃあ、燃やして捨てるか」
「そうしましょう」
俺とティアはそろって魔法で火を生み出すと宿に影響が出ないようにデブリ侯爵たちの亡骸だけを焼却する。そして数秒後にはデブリ侯爵がいたということがさっぱり分からないくらい綺麗になっていた。
「さて、俺たちは今日ここに泊まりたいんだが部屋は空いているかな?」
俺は、俺たちの行動を一部始終見ていた従業員たちに声をかける。声をかけられた従業員以外はびくっと体を震わせてこちらを見守っている。対して俺が声をかけた人をよく見ると、俺たちが最初に見たデブリ侯爵に連れ込まれそうになっていた受付の人である。そしてその受付の人は俺に対してまっすぐ視線を合わせると、普通の受付対応をしてくれた。
「一泊でよかったですか?」
「ああ、二部屋あればいいかな。空いてるか?」
「は、はい。立った今、部屋が必要なくなったお客様が居まして、ちょうど空いております」
俺の質問に受付の人はにっこりと答える。それにしてもなかなかブラックなことを言う人だ。俺はそんな受付の人に対し笑いかけながら言葉を返す。
「そうか、キャンセルが入ったんだな。それはちょうどよかった。料金はこのくらいでどうだろう?」
俺はそう言いながらデブリ侯爵から殺す前に掏っておいた金貨を渡す。受付の人も満足そうだ。そう言えば後で外にあるデブリ侯爵の馬車とかも片付けておかないと行けないな。
「じゃ、そう言うことで。案内してもらってもいいか?」
「勿論です」
俺たちのやり取りをウカは少し呆れたような表情で見ている。だが反対する気はない様子で黙って見ている。ティアやリース達は既にもろもろの興味を失ったみたいだし、既に自由にしている。
こうして俺たちは受付の人に案内してもらいながら、部屋に入っていくのだった。
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