第14話 アデオナ王国の街

 ウッドをディール王国に送った日の翌日。ついに国境から一番近いアデオナ王国の街の一つに到着した。


「活気がねぇな」


 街に入った俺は、街の様子を見てそう呟いた。俺たちは今、街の中心の通りを馬車でゆっくり進んでいる。しかしそこから見える範囲で見る限り、誰もかれもが何かに不安に思っているのか浮かない表情をしていて、楽しそうにしている人は誰一人としていなかった。


「まずは宿に行きましょうか」


「そうだな。とりあえず今日の宿を確保してから、……観光しようにもなにもなさそうだな。今日はゆっくりするか?」


「そうですね。この街には特に何もないと思います」


 ウカが苦笑しながらそう言った。街としての基本的な店や施設はあるようだが、それ以外、遊ぶところや楽しめそうな物はなさそうだった。


「あるとしても貴族用の物だったりしますし、近づかないのがいいと思います」


 ウカはそう言って注意してくる。


「そうだな。わざわざ自分たちから面倒に突っ込んでいくこともないしな」


 ウカの言葉に同意しつつ、俺たちは宿に向かう。この街の宿は一軒しかないようでその唯一の宿に向かっている途中、別の道から馬車を伴った集団が俺たちと同じように宿を目指しているのが見えた。


「あれってこの国の貴族の馬車か?」


 俺はその集団を指してウカに問いかける。


「そうですね。この国の貴族だと思います。あの大きさの馬車を移動に使えるほど余裕があるのは貴族くらいですし」


 ウカの言葉に俺は天を仰いだ。結局、こうやって自分から行かずとも側に来るのだ。ティアと揉めないことを願おう。


「俺たちから関わらなければ問題ないと思うか?」


「いや、それはどうでしょう。向こうから絡んで来るということも十分あり得ますが」


 俺の言葉に否定的に返すウカ。まあ、分かってはいるんだが。


「今気にしても仕方ないな。とりあえず宿に向かって後は何もないことを願おう」


 俺はそう言って、宿への道を進むのだった。




 宿に入ると、そこには貴族らしき人と受付の人が揉めているのが見えた。


「貴様!! この私の言うことが聞けないと言うのか!?」


「やめてください!!」


 どうやら貴族の男が受付の人を無理やり部屋に連れ込もうとしている現場に入り込んでしまったようだ。俺は無言でティアやウカを見る。この現場、どうしよう……、と。


「ん? なんだ貴様たちは」


 貴族の男は俺たちが見ていることに気付いたようだ。そして男がティアに気付くと、気色の悪い笑みを浮かべる。


「おい、そこのお前。私と共に来い」


 そして貴族の男がティアに高圧的に命令を下す。あーあ、知らねーぞ。


「え、嫌よ。気持ち悪い」


 ティアは嫌悪感を露にして、そう答える。ティアの言葉に一瞬ポカンとした表情をする貴族の男。どっからどう見ても間抜けな表情だ。


「貴様も貴族たるこの私の言うことが聞けないと言うのか!?」


「私、この国の人じゃないし、関係ないわね。例えそうであってもあなたの言うことは聞きたくないわ」


「もういい。この受付の女とそっちの女を無理やり私の部屋に連れてこい」


 貴族の男はその周囲にいた自分の部下にそう命令した。命令を聞き、動こうとした貴族の部下達の頭部が一瞬で爆ぜる。まだ動こうとしていなかった部下たちは、同僚が一瞬で殺されたことに驚き、腰を抜かしている。


「なっ!?!?!!???」


「愚かね」


 ティアは貴族の男を見下しながらそう呟いた。その眼は完全に冷めきっていて、今にも視線だけで殺せそうだ。ティアの視線に押されて後退る。しかし、それに屈辱を覚えたのか、貴族の男は声を張り上げた。


「おい、私にそんなことをしてもういいのか?!? 不敬罪だぞ!!」


「そう、だったらどうするの? 私を殺してみる? できるの? あなただけで」


 ティアは冷笑を浮かべて貴族の男に問いかける。


「ひゃー、ティアさん怖いですねぇ」


 ウカはそんなティアを見て、間の抜けた感想を漏らしている。そんなウカの様子に俺は呆れながらツッコミを入れる。


「お前はもう少し緊張感とかないのか?」


「そんなこと言われましても、ティアさんをどうにかできそうなのってリョウさんくらいじゃないですか?」


「俺でも無理だぞ」


 俺たちの間抜けな会話は、その場でやけに大きく聞こえたようだ。貴族の部下達の視線が一気に俺たちの方へ向く。そして俺たちが連れているリースやラピス、ウルラを見つけると、貴族の部下たちが勝機を見つけたと言わんばかりの表情を浮かべる。


 大方、人質でも取ればティアに言うことを聞かせることができるとでも考えたのだろう。そんな魂胆が丸わかりの人たちに対して俺たち一同は「うわぁ」という表情を浮かべる。


「リース、ウルラ。好きにしていいぞ。ティアを手助けしてやれ」


 俺はじわじわと向かってくる、貴族の部下たちを見ながら二人に指示を出す。俺の指示を受けた二人は、ティアを手伝えることを嬉しそうにしている。


「大人しくしろっ」


 貴族の部下たちが一斉にこちらに向かってくる。単調な動きに呆れてしまう。そんな部下たちにリースとウルラは冷静に対処していき、全員の無力化が完了した。まあ、生きているのはほとんどいないが。


「リョウお兄ちゃん、終わったの!」


 リースが嬉しそうに結果を報告してくる。


「ああ、見てたぞ。偉いな」


 俺はリースを褒めて、頭を撫でる。それをウルラは羨ましそうに見ていた。


「ウルラもお疲れさん。よくやったな」


 俺はそんなウルラにも労いの言葉をかけて褒めてやる。俺の言葉を聞いたウルラもリースと同じように嬉しそうな表情を浮かべた。


「何かありましたか!?」


 宿の中の様子がおかしいと気付いた貴族の部下が外から大勢入ってくる。大勢の部下が来たことにより、貴族の男は安心したのか勝ち誇ったような表情を浮かべた。


「おお、お前たち。ここに居る者たちを捕らえろ。不敬罪だ」


 貴族の男は偉そうに部下たちに指示をだす。


「捕らえた後は好きにしてもいいんですかい?」


「勿論だ」


 貴族の部下が下卑た笑みで貴族の男に問いかけると、同じような表情で言葉を返している。


 めんどくさいなもう。俺はそう思いながらもどうしてくれようか考えるのだった。

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