第56話 知りたくなかった事実
「ただいま」
俺はそう言ってリビングに入る。中にはティアとリース。そして保護した少女たちがいた。
「おかえりなさいませ、リョウ様」
保護した少女の一人、吸血鬼の少女ウルラがそう言って近づいてくる。なぜかメイド服で。俺はそんなものを用意した覚えはない。
「その服はどうしたんだ?」
「マリー様にいただきました」
「そ、そうか」
俺はそう答えてマリーを探す。しかし、この部屋にはいないようだ。
「マリーはもう行ったのか?」
俺はティアにそう尋ねる。
「ええ。子供たちを連れて孤児院に行ったわよ」
ティアは答えながらも俺の後ろを見る。
「リョウ。あなたまたなんか拾ってきたのかしら?」
「拾うってなんだよ?」
ティアの言いざまに俺は反論する。
「その後ろにいる狐の子よ」
そう言ってティアはウカを指す。ティアに見られたウカは蛇に睨まれた蛙のように固まった。
「ああ、ウカか」
俺はウカに視線をやりながら答えようとした。
「あ、わかったわ。非常食ね」
「違うわっ!」
「なんてことを言うんですか!?」
ティアのとんでもない発言に思わずツッコミを入れる。大して非常食にされようとしているウカは「うがー」っと怒りながらもティアが怖かったのか俺の後ろに隠れた。狐耳と尻尾も荒ぶっている。
「そう言えばあなた、見たことある気がするわ」
しばらく俺の後ろに隠れているウカをじーっと見ていたティアがそう言った。
「そりゃそうだろ。昨日会ってるぞ」
俺はティアに向かってそう言う。
「昨日?」
しかしティアは思い出せないようだ。ひたすらに首をかしげている。
「昨日会議所に行ったときにいただろ?」
俺は呆れてそう答えを言う。ほんとに興味ないことには一切覚えようとしないやつである。
「ああ! ……?」
ティアは一瞬思い出したのか声を上げ、その後にまた首を傾げた。
「私、忘れられてるんですね……」
ウカはティアの様子を見て悲しげにそう呟いた。
「まあ、数千年単位で生きているんだ。興味ないものが記憶にないのも仕方ないか。人で言うなら婆ちゃんだs―――」
俺がそう言いかけると不意に殺気を感じる。
「誰が婆ちゃんですって?」
ティアから物騒な空気を感じる。めちゃくちゃ怒ってらっしゃる。
「それにリョウもそれくらい生きると思うわよ」
続けてティアがそんなことを言う。まさか、そんなわけあるまい。
「そんなことあるか? 俺は普通の人だぞ?」
俺はそう言ってティアの言うことを否定する。
「リョウ。この世界の生き物は魔力を持っている者ほど長生きするわ。私然り、そこの狐然り、ね。私と同じかそれ以上の魔力を持っているリョウがそこらの人族と同じ寿命なわけがないじゃない」
「な、ん、だと?」
俺はティアの話に驚く。
「もしかして、リョウさんは知らなかったんですか?」
そこにウカの追撃がかかる。
「もしかして結構、常識の類か?」
俺はウカに聞く。
「はい、普通知っていると思うのですが……」
ウカは何を言っているんだろうという表情で答える。
「もしかしてリョウ。教えてないの?」
ティアが何かに気が付いたようにそう聞いてくる。俺がこの世界の生まれじゃないということだろう。
「そりゃ、まだ会って二日だ。このことはウルラ達にも話してないだろう?」
「それもそうね」
俺の返事にティアも納得したような顔をする。
「それにしても、もしかしてこの世界じゃ鍛えた奴は鍛えただけ生きるということか?」
「そうなるわね」
「なんてこった」
俺は頭を抱えた。まさか俺がティアと同じスケールで生きることになりそうだとは。
「この世界ってどういうことですか?」
そこにウカが俺の話の中から気になったことを聞いてくる。このことはウルラ達も気になっているようだし話しておくか。
「ああ、そのことか。俺がこの世界の生まれじゃないというだけだ」
「「「「「「!?」」」」」」
俺はそう軽く答える。しかし聞いている側はすごく驚いた反応をする。狐耳のウカや犬耳の姉妹でマイアとエレクトラ、猫耳の少女のスピカは耳と尻尾がピンと立っているし、吸血鬼のウルラやエルフのリグリアも驚きで固まっている。
「そんなに驚くことか?」
「当たり前です!」
俺がウカに尋ねると、食い気味に返事が返って来た。
「異世界からの人なんて本に残ってるぐらいすごいことなんですよ!? それも歴史書とかに乗るぐらいの話なんです!」
ウカは必死にいかにすごいかを説明する。本に乗るとか知りたくなかったなぁ。
「そんなにすごいことならほかにも異世界人がいるってことだよな? まだ生きてるか?」
俺は気になってそう尋ねる。
「いえ、最後に確認されたのは300年位前です。魔力自体はそんなに持っていなかったそうなのでもうお亡くなりになっているかと」
ウカは少し考えてからそう答えた。
「そうか。まあ、いいや」
「軽いですね」
俺のあっさりとした返事にウカがそう聞いてくる。
「そんなに考え込んでも仕方ないだろ? この世界に来てから深く考えるのはやめることにしたんだ。そして自由に楽しく生きる。それだけだ。ちょっと寿命の話は驚きだが」
俺はそう答えてウカを見る。俺に視線を向けられたウカは苦笑していた。
「うらやましいですね。そんな風に考えられるなんて」
そんな風にウカが言う。
「そんなこと言われてもなぁ。向こうの世界にいた頃から親はもういなかったし、俺にあるつながりなんてこの世界にいるティアやリース達しかないからな。ここにいるみんなを守れたらあとはもう、観光するぐらいしかやることがないんだよ」
俺はウカにそう答える。俺の答えを聞いたウカは考えるように黙ってしまった。
「それにしてもリョウ。この狐はなんで来たの?」
黙ったウカを尻目にティアがそう聞いてくる。
「ウカがついてくるって言ったから?」
「なんで疑問形なの?」
俺があいまいに答えると、すかさずティアが突っ込んでくる。
「いや、最初は俺たちが保護したウルラ達に何かしてあげたいって話だったんだよ。それが気が付いたらついてくる話になっていてな?」
俺はそう言って今日あったことをティアたちに話す。その間にウカも復活したようだ。
「―――で、こうしてウカを拾ってきたってわけだ」
俺はそう話を締めくくった。ウカは「拾ってきた」と言うところに抗議をしたそうにしているが。
「なるほどね」
俺の話を聞いたティアが納得した様に呟く。そして、ウカの方をじっと見つめる。
「……」
「な、なんでしょう?」
ティアがじっと見つめてくるのに耐えかねてか、ウカがそう尋ねる。しかし、ティアは何も言わずに見つめるままだ。
「リョウの好きにしていいわ」
「へ?」
しばらく無言の攻防のあと、ティアがそう言った。そしてウカは間抜けな声を上げていた。
「よかったウカ。ティアが珍しく人を認めたぞ?」
俺はウカにそう伝えるのだった。
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