第26話 情報の整理

 しばらく重い空気が流れた後、俺は空気を変えるように口を開いた。


「とりあえず状況を整理しよう」


 それを聞いたティアは短く「そうね」と返事を返し、幾分かこの場の空気がましになったように感じた。


「まずわかっていることはこの王都で何かをしようとしている奴がいること。そしてそいつはなぜか人族の始祖が使っていた術式の魔術を使うこと。そうだな?」


 俺はティアに一つずつ確認するように話していく。


「ええ。それであっているわ」


 ティアも俺の言ったことに頷きながら肯定の言葉を発する。


「まず、あいつの目的は何だと思う?」


「あの男がやっていることは道具なのか魔術なのかはわからないけど、魔法陣を使って不自然に強い魔力を発して魔獣を操っていることね。そして王都へ向けての物流を遮断しようとしている」


 ティアは今の状況から推測できることを話していく。だがそれらをまとめても目的が見えてこない。奴は何がしたいんだ?


「物流を止めてしたいこと......」


 だめだ。わからん。


「わからないわね」


 ティアも考え込むように眉根を寄せて呟いた。


「しかたない。今の話をちょっと遅いかもしれないが国王のところに話しに行ってくる。ティアはリースを見ていてくれるか?」


 俺はそう言いながら立ち上がる。


「わかったわ」


 ティアが頷いたのを確認した俺は王城に向かって家を出るのだった。





 王城の門の前に着いた俺は門のところに立っていた門番に声をかけた。


「すまないが国王に会えないかな?」


 声をかけた俺に怪訝そうな眼差しを向ける門番。


「誰か知らないがいきなり陛下に会えるわけないだろう」


 ごもっともで。でも俺も緊急の用事なんだよなぁ。てか、俺も緊急でアポをとる方法も教えてもらってないんだけど、国王はどうするつもりだったのだろう。


「いや、緊急なんだけど」


「そうは言われてもこちらも困る」


 怪しいからっていきなりしょっ引こうとせず冷静に会話しようとしてくれる門番さん。この人絶対いい人だな。


「うーん。どうしたものか」


 俺は困り果ててつぶやいた。


「あら? リョウ様ですか!?」


 ふと、門番の後ろから聞いたことがある声がした。


「!? ルシル様!? なぜこのようなところへ?」


 振り向いた門番が驚いたように声の主の名を呼んだ。


「ああ、王女様。ちょうどよかったです。ちょっと国王陛下に緊急っで話したいことがあったんですけどアポイントメントの取り方がわからなくて困ってたんです」


 俺はこちらに来たルシルに事情を話す。


「事情は分かりました。では、私についてきて下さい」


 ルシルは俺についてくるように言った後、門番さんの方を向いて微笑んだ。


「この方は私が信頼している方です。ですから次からは素通りでも構いません。後ほど私から通行の許可証は発行しておきます」


「はっ」


 門番さんはルシルの言葉に敬礼をして返す。まあ、なんにせよ。これで用事を済ませられそうだ。


「門番さん。手間を取らせて悪かったな」


 俺は少しの罪悪感と共にそう言った。


「気にするな。私はこれが仕事だ」


 そう言って苦笑する門番さん。仕事熱心な事だ。こんな風に信念を持ってやっているならば、きっと色んな人から頼りにされることだろう。


「行きましょう、リョウ様」


 ルシルが呼びかけてきたため俺はルシルに「今行きます」と答えてからもう一度門番の方を向き


「じゃ、俺はこれで失礼するよ」


「ああ」


 こうして俺はルシルのおかげで無事、王城の中に入れたのだった。


 ルシルの後をついていきしばらく無言で王城の廊下を歩いているとふとルシルが口を開いた。


「ところでお父様になんの用事なんですか?」


 そりゃ気になるよね。俺はどうルシルに伝えるか考えながら口を開いた。


「最初にここにきて国王さんに会ったときにちょっと頼まれごとをしてね。その報告......かな?」


 内容は話さなかったが嘘はついていない。ルシルも「そうですか......」と返事をしたきり黙ってしまった。


 そしてしばらく歩くと豪華な扉の前に着いた。ルシルはその扉をノックして呼びかける。


「お父様。リョウ様をお連れしました」


 すると中から「入っていいぞー」と気の抜けたような声が聞こえた。中に入ると書類の山に囲まれて死んだような顔になっている国王がいたのだった。


「はあ。お父様。仮にも国王なのですからしゃんとなさってください」


 ルシルはため息をついた後、国王にそう苦言を呈した。


「だって、ルシルちゃん。書類が多すぎるんだもん」


 そう言って拗ねたような表情で言う国王。おっさんがそんな口調をしても可愛くないぞ。それが許されるのはうちのリースだけだ。


「ルシルちゃんはやめてください!」


 ルシルはそう言って抗議した。苦労してるんだな、ルシル。俺は哀れんだような表情をルシルに向ける。ルシルはその視線に気づいたのかこちらを見て顔を赤くした。てか、本題に早く入りたいんだけど。いつまでそのやり取りを見てなきゃいけないのかな?


 それからしばらくは国王とルシルの親子のやり取りに時間を取られたのだった。

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