第25話 情報の片鱗
「お前は何者だ? この惨状、何か知っているのか?」
俺は軽薄そうな笑みを見せてこちらを見ている男に問う。
「何者かっていうのはこちらのセリフなんですけどねぇ。どうしてここに来たんです?」
質問に質問で返す男に俺はいら立ちを募らせる。
「質問しているのはこっちだ」
俺はいら立ち交じりにそう言って男をにらみつける。睨めつけられた男はなおも軽薄そうな笑みを崩さずこちらを見ていた。
「はぁ。まあいいでしょう。この惨状でしたっけ? 勿論知っていますよ」
へらへらと笑いながらそう言った男になおもいら立ちが募る。
「ですがこれを見られては帰すわけにはいきませんねぇ。あなた方にも魔力を増幅させるための生贄になってもらいましょうかっ!!」
「!?」
男は最後には絶叫するぐらいの声を出し、こちらに飛び掛かって来た。手にはナイフを持っていた。
「あぶねぇっ」
俺は慌ててリースと共に少し離れた場所に転移する。少し遅れてティアもこちらに転移してくる。男は俺たちを見失いきょろきょろしている。
「なんか変な人ね。あの人」
ティアが首をかしげながら言う。問題点はそこじゃないと思うぞティア。
「とりあえず制圧して話を聞くぞ」
「そうね」
二人で頷きあった後、俺はリースの方を向いた。
「リース。ちょっと隠れることはできるか?」
「うん。わかった」
そう言ったリースはスーッと消えていった。さすがゴースト。そんなこともできるんだな。
「よしっ。行くか」
「ええ」
俺はリースが隠れるのを見届けた後、ティアと共に男の前方に転移した。
「おやぁ? 自分から出てきてくださったんですねぇ?」
男はそう言いながら、またもナイフを振りかぶってこちらに向かってくる。
「ちぃっ」
俺は舌打ちをしながら収納から出した剣でそれをはじいた。
「へぇ。なかなかやるようですねぇ」
男は余裕そうな笑みを崩さず言う。
「そりゃどうもっ!!」
俺はそれに対して適当に返しながら男に向かって身体強化の勢い任せに突っこんで行く。そして踏み込みと共に袈裟懸けに剣を振り下ろし、男の腕を狙った。
「そんなんじゃあたらないですよ?」
男はひらりと避けながら笑みを浮かべて煽るように言う。
「それは俺だけだった場合だろっ!」
俺はそう叫びながらも剣を振るのをやめずに攻撃を続ける。すると俺の後ろから電撃が飛んでくる。
「何!?」
男は慌てたようにその場から飛びのいた。が、その電撃はもちろん自然現象ではなくティアの魔法だ。電撃はよけようとする男を追跡し、そしてついに当たる。
「ぐわああっ!!」
電撃が当たった男は短く叫び、その場に倒れた。
「さて、洗いざらい吐いてもらうぞ」
俺はそう言いながら男の太ももに逃亡防止のために剣を突き刺そうとする。
「そう言う......わけには......いきません、ねっ!!」
そう言ってとっさに起き上がり飛びのいた男はこちらを見て笑いながら懐から何かを取り出した。
「させるか!」
俺はそう言いながら男に突っ込んでいくが間に合いそうにない。
「今回はここで引かせてもらいましょう」
そう言いながら取り出した何かを地面にたたきつける男。すると瞬く間に地面に魔法陣が広がる。
「これは......転移よっ!」
どんな魔術の魔法陣かを一目で見破ったティアだが止めるのは間に合わず男を逃がしてしまう。
「ちっ。逃がしたか」
俺はいら立ちもあらわにそう吐き捨てる。
「でもあいつの気配は覚えたわ。次は逃がさない。それにしてもあの術......」
ティアはあの術に見覚えがあるのかそう呟いた後から考え込むようにして何も話さなくなってしまった。
「......もういい?」
そう言ってスーッと姿を現したリースは恐る恐るこちらをうかがうように見ながらそう言った。
「ああ。もういいよ。とりあえず今日はもう帰ろう。王様には後で報告を入れようか」
それから俺はその場に残っていた死体の身元が分かるものがないかを確認した後、死体を燃やし、その下にあった魔法陣を壊した。
「じゃあ行くか、リース」
俺はそう言ってリースの手を引いて家の方に足を向けたのだった。心に何とも言えないいら立ちを残しながら。
「あー!! クソがっ!!」
家に一度帰り、リースを寝かしつけた俺は抑えきれなかった感情を露にした。
「リョウ。ちょっと落ち着きなさい」
それを見たティアが冷静に言う。
「だけど、ティア「わかってるから落ち着きなさい!!」......おう」
なおも言いつのろうとした俺にティアがかぶせて叫んだ。俺は普段とは違うティアの様子に短く返事をし、黙ったのだった。
「あの転移の術の組み方......人族の始祖が使う魔法に似ていたの......」
ティアは唐突に呟くように話し始める。その表情は感情が読み取れないほどの無表情だった。
「どういうことだ?」
俺はティアの呟きの意味が分からず聞き返す。
「だからあの転移の魔術は人族の始祖が関わっているってことよ」
ティアは何かを押し殺しているかのような声音で俺の質問に答えた。
「そうか......」
俺はティアの様子に何も言うことができずそう返すのが精一杯だった。ティアはそれっきり喋らなくなってしまい静かな、しかし重苦しい空気が流れるだけなのだった。
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