第12話 魔獣素材の売却・辺境伯領散策

 受付での登録を終えた俺たちは今度は買取をしてくれるカウンターに向かった。


「ここで買い取りをしてくれるのでよかったか?」


 俺はカウンターにいたおっさんに声をかけた。


「おう。ここが買取するところであってるぞ。普段の担当は俺じゃないがそいつが今日は休みなんでな。俺は普段さらに奥で魔獣の解体をしているガルっていうもんだよろしくな」


「ああ、よろしく。俺はリョウだ。こっちはティア」


「で、お前さんらはどんな要件で? 見たところ手ぶらだが?」


 手ぶらで来た俺たちに若干の訝しんだ表情で問うてくるガル。それに対し俺は苦笑して


「魔獣の素材を買い取ってほしい。どこに出せばいい?」


 と、聞く。


「それなら奥の部屋で運んでもらうんだがどこに置いてるんだ?」


「とりあえず案内してくれ。そこで出す。収納の魔法で持ち運んでいるんだよ」


「なにっ!?」


 薄々わかってはいたがやはり驚かれるのか。まあ、隠すのも面倒だし今更か。驚いて固まっているガルを再起動させて奥の部屋に案内させる。奥の解体部屋と思われる部屋につくなり俺は収納にしまっていた魔獣を取り出す。


「こいつとか結構あるんだが買い取ってもらえるか?」


 そう言いながら取り出したのは俺がこの世界に来て最初に追い掛け回された黒い犬の魔獣だ。


「こいつは魔の森の魔獣か? フォレストウルフの上位種じゃねーか......」


 犬じゃなくて狼だったらしい。いや、違いなんて分かんねぇよ。


「どのくらいの数あるんだ?」


「そうだなあ。五十体分くらいはあるんじゃないか? あいつら群れで向かってくるから。ティアも持ってなかったか?」


 そう言いながらティアのほうを見る。


「そうねリョウの持ってる数の倍以上あるわね」


 さらっとそう答えるティア。そりゃそうか。あそこにずっと住んでいたしな。


「頼むからやめてくれ。値段が崩れる」


 さっきから驚きっぱなしのガルが慌てたようにそう言う。


「わかってるよ。だが定期的に買い取ってくれないか? それなら値段もそちらである程度コントロールできるだろう?」


「そうだな。その方が助かる」


「それに......」


 俺は言葉に含みを持たせる。


「ん。なんだ?」


「まだほかにも違う魔獣が結構あるんだが......」


 ガルの表情が引きつる。俺はそれを見て苦笑した。


「ま、定期的に売りに来るから買い取ってくれればいいよ。基本は魔の森のやつらだが。次来た時に何があるか一覧にして渡すよ」


「あ、ああ」


 終始驚きっぱなしのガルだった。











_________________________________________________________________


 



「さて、軽く何か食べるか」


「ええ。待ちかねたわ」


 俺たちは、ガルに黒い犬改め狼の魔獣を十体ほど渡して代金を受けとった後、街の散策に出た。ちなみに狼の魔獣は一体金貨一枚前後になった。値段がぶれているのは魔獣を倒した時の損傷具合のためである。


 ちなみにこちらの貨幣価値は日本と大きくは変わらなさそうだ。ちらっと露店の八百屋をのぞいてみたところ大きなトマトっぽいのが銅貨で十枚だった。一銅貨十円くらいで考えたら一つ百円くらいか。その十倍で小銀貨。ほんとにちっさいな。そして小銀貨の十倍で銀貨。その十倍で金貨となっているようだ。さらに大きい額で白金貨もあるそうだが額が大きいため商取引ぐらいでしか使わないのであろうと思われる。


「なに食べたい?」


 俺は特に何も思いつかなかったため、ティアに決定を委ねることにした。


「そうね。あれなんてどうかしら?」


 そう言いながらティアが指し示したのは何かの肉を串にさし、たれをつけて焼いている屋台だった。


「じゃあ、そうしよう」


「やった」


 本当にお腹がすいていたのだろう。ティアが普段とは少し違う無邪気な笑顔を浮かべ小さくつぶやいた。これはやばい。早く何か食べさせねばだんだん不機嫌になるやつだ。以前魔法の練習に集中しすぎて飯を作るのを忘れたときはやばかった。問答無用で血を吸われたし。


「おっちゃん。一ついくらかな?」


 俺は銀貨を取り出しながら聞いた。


「おう、にいちゃん。一つ小銀貨一枚だよ」


 なるほど。百円くらいか。


「じゃあそれをに「十本」......十一本ください」


 十本も食べるんですかティアさん......。そう思いながら銀貨一枚と小銀貨一枚を屋台のおっちゃんに渡す。おっちゃんも苦笑してるし。


「まいど。ちょっと待ってな」


 そう言いながらおっちゃんは大きめの葉っぱに串焼きをくるんで渡してくれた。


「ありがとう」


 お礼を言ってから俺たちは近くのベンチに座ってそれを食べ始める。


「うまいな、これ」


 一口食べ思わずつぶやく。しっかりたれの味がついているのに肉のうまみを消していない。調和のとれた味だった。


「おいしいわね、これ」


 そう言うティアも笑顔だ。


「ちょっと追加で買ってくる」


 一気に食べてしまい、それを少し残念に思った俺は追加を買うことに決めた。


「あ、じゃあ私のをあと十本」


 まだ食べるんですか、ティアさん。まあいいや。ほんとにうまいしな。


「わかった」


 そう言ってさらに十二本購入した。屋台のおっちゃんがすっごい驚いていたけど。ティアのところに戻ると、もう串焼きを食べ終えていた。はっや。


 こうして俺たちはそれぞれ串焼きを食べてから、街の散策にもどる。それからしばらくぶらぶらと街の露店やら店やらを見て、観光していき夕焼けが見える時間になったころ、俺たちはアリスがいる辺境伯邸に戻るのだった。








「お二人ともひどいです」


 辺境伯邸に戻った俺たちを見て開口一番に拗ねたようにアリスがそう言った。


「どうしてだい?」


 なぜ拗ねているのか分からずそのまま聞き返す。


「街の散策に行かれるのでしたら私も連れて行ってほしかったです......。それに私に何も言わず出発するなんて酷いです」


 なるほど。置いて行かれたのに怒っていたのか。


「ごめんよ。じゃあ、次に街の散策するときは一緒に行こうか」


「はい。絶対ですよ?」


 そう言いながら若干のウルウル目で見上げてくるアリス。


「うっ。ああ、約束な」


 俺は若干たじろぎながらもそう返す。その返事を聞いたアリスは先ほどとは一転目に見えて上機嫌になる。


 それからしばらく夕ご飯まで俺たちは、アリスと今日あった出来事などを話しながら待っていたのだった。

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