第26話 翌日、朝の出来事

 翌日。王城のベッドで目が覚めた俺は、まだ寝ているティア達を起こさないようにベッドから降りる。そして寝ている間に固まった体をほぐすように伸びをした。


「おはよう。リョウ」


 体をほぐしていると、ふと後ろから声がかかった。


「おはよう、ティア」


 声の主に返事を返しそちらを見ると、寝起きで少しボーっとしたティアのまだ眠そうな眼がこちらを見ていた。


「起こしたか? 眠いんだったらまだ寝ていてもいいぞ」


「気にしなくていいわ、大丈夫よ」


 ティアはそう言うとベッドから降りてこちらに近づいてくる。


「ん? どうした?」


 返事をしないまま眠そうな眼をして無言でこちらに近づいてくるティアに、俺は「ああ、なるほど」と一人で納得しティアの好きにさせる。ティアはボーっとした様子で俺に抱き着くと俺の首筋に向かって牙を立てる。しばらく俺に抱き着いた状態で血を吸っていたティアは「はふぅ」と妙に艶めかしい吐息を漏らして離れていった。


「ご馳走様」


 満足ですと言わんばかりの表情でこちらを見たティアはそう言って側にあった椅子に座る。そしてまだベッドで寝ているリースと名前のわからない少女に視線を向けた。俺はそれにつられるように同じく視線をベッドに向ける。


「今日はこの子のことわかるといいな」


 俺は視線を少女に向けた状態でそう呟いた。


「そうね。どうしても言いたくなさそうだったら頭の中から直接教えてもらいましょう」


 ティアが俺に同意するように物騒なことを言う。さらりと言う言葉が怖い。


「ティアってそんなことができたのか?」


 俺はティアの発言に恐怖を感じながらもそう聞き返した。何だよ、頭の中から直接って。


「できるわよ。頭に直接魔力を流し込んでちょっといじると簡単に。ね?」


 ね? じゃ、ないが。あと、ちょっといじるとってなんだよ。怖いよ。


「まあ、最後の手段として頼むわ」


 俺はすべてのツッコミを心の中に押し込めると、言葉を選んでそう伝える。


「わかったわ」


 ティアは満足そうに微笑むとそう答えた。その微笑みは何だろう。怖い。


 そんなやり取りをしながら少しするとベッドからリースが起き上がってくる。まだ、眠いのか目をこすりながらあくびをしていた。


「おはようなの」


 リースは起きて話をしていた俺たちに気付くとそう声をかけた。


「ああ、おはよう」


「おはよう」


 俺とティアはそろって挨拶を返す。リースはそのままふわふわとベッドから浮き上がってこちらにやってくる。忘れがちだが幽霊少女であるリースは相変わらず自由だな。


 それに続くようにもう一人の少女も目を覚ます。ベッドの上で体を起こすと誰かを探すようにきょろきょろとあたりを見回している。そして、ティアの方に視線を向けるとベッドから降りてティアの上に座った。


「随分となつかれているな」


 俺はからかい交じりにティアに言う。ティアは今まで子供とかかわった経験が乏しいのか困惑した表情を見せてこちらを見た。例外はリースぐらいだろう。


「特に何かしてあげた覚えはないのだけれど」


 ティアはそう言いながらも少女の頭を撫でてあげていた。


「ティアお姉ちゃんは優しいの」


 リースは満面の笑みでそう主張する。


「そうだな」


 俺はリースを撫でながら同意した。ティアからは助けてほしいのだけど? と言いたげな視線を向けられていたが少女が嬉しそうにしていたため無視しておいた。


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 しばらく他愛もないやり取りをしたり、着替えたりして時間を過ごしていた俺たちだが、ふと少女以外の視線がドアに向いた。少女は状況が分からずに首をこてんとかしげていたが、やがてドアからはノックの音が聞こえる。


「はいよ」


 俺は返事を返し、ドアを開ける。そこに立っていたのはこの城で働いているメイドさんだった。いや、まあ、近づいている人がいる時点でわかってはいたが。


「リョウ様、ティア様、リース様。朝ごはんの方はどうされますか?」


 メイドさんはこちらを見てそう聞いてきた。


「もちろん、いただくよ」


「わかりました。案内します」


 そう言ったメイドさんに案内されて食堂にしては豪華な部屋に通される。疑問に思いながらも少し待っていると国王さんと王女であるルシル、それに加えて初めて見るルシルに似ている女性と国王さんに似ている青年が入って来た。


「なるほど、国王さんが来る部屋だったから豪華だったのか」


 俺は入って来た面々を見て納得の表情をする。その横でティアは飯はまだかとそわそわしていた。もうちょっと落ち着けよ。リースと保護している少女はもう少し落ち着いているのに。


「すまんな、待たせたか?」


 国王さんはティアの様子を見て苦笑しながらそう声をかけた。


「気にしないでいいです」


 俺は諦めのため息とともにティアを見てそう答えた。


「そうか。それとこんなタイミングだが紹介させてくれ。私の妻と息子だ」


 国王さんの紹介と共に貴族風な礼をする二人。


「ルース・ディールです。よろしくお願いします」


「エディ・ディールです。お噂はよく妹から聞いています」


 二人ともよく似た金髪の親子である。


「リョウだ。よろしく。こっちはティアとリースと……」


 順番に紹介しながらティアが保護した少女のところで紹介が止まる。まあ、少女自身が名前を憶えていないし俺たちもわからんからどうしようもないのだが。


「事情は伺っておりますので大丈夫ですよ」


 俺がどうしようか考えていると王妃からそう言われる。


「それは助かる」


 その助け舟に乗っかる形で俺も紹介を終えて朝食が運ばれるまでしばらくの談笑に移る。


 やがて朝食が運ばれて食事が開始される。食事は意外とシンプルでパンとスープ、そしてハムの様な物が入ったサラダだった。味も普通で思ったよりも質素だった。やがて食事が終わると今日の予定の話になった。


「リョウ様は昼からまた向こうに行かれるのですか?」」


 王女であるルシルがそう聞いてくる。


「ああ。向こうにまだ騎士たちがいるし、侯爵だったっけ? とかをこっちに持ってきて聞かないといけないこともあるしね」


「そうですか。はやくすべてが終わることを祈っています」


 ルシルは少し神妙にそう言った。


「今回まではしっかりやるさ。商業国の観光も途中だしね」


 俺は冗談めかしてルシルに笑いかける。まあ、王女としては被害者がいる分のんびりとはしてられないんだろう。


「では、リョウ。頼んだぞ」


 俺たちの会話がひと段落着いたところで国王さんが立ち上がりながらそう言った。仕事に向かうのだろう。


「りょーかい」


 俺はそれにいつものように変わらずの適当に返す。それを見た国王さんは苦笑しながらも頷いた。


「ちょっと早いけど向こう行ってくるわ。ティアたちはどうする?」


 俺も国王さんに続いて立ち上がりながら問いかける。


「私はこの子を見てるわ」


「リースはついてく!」


 俺の問いに二人が返事を返してくれる。


「じゃあ、行くかぁ」


 そうして俺はリースと手をつないで昨日の侯爵の邸宅まで転移しようとしたとき、声がかかった。


「私も連れて行ってもらえないだろうか?」


 声をかけてきた人物は王子であるエディだった。

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