第9話 フローレス辺境伯との会話

「ほお、あの森の奥で暮らしていたと? そしてこのお嬢ちゃんが吸血鬼.......と。しかも神話の時代の」


 俺は、ギースとの会話の中でまず自分たちがどこにいたかを説明していた。ついでにティアのことも。


「ええ。まあ俺もそこまで恐れられている森とは思ってもいなかったんだがな。あとティアについても」


 そうだ。そもそも俺はなぜこの世界に来たのかすらわかっていない。まあ、もう割り切ってはいるのだが。


「そういえばリョウ。あなたの世界のことは話さなくていいの?」


「!! リョウの世界だと?」


 おいいいいい!! わざわざ話さなかったのに言うなよティア。説明が長くなってめんどくさいだろうが。まあ、その辺も言い含めてなかった俺も悪いんだろうがさ。


「いや、まあ、はい。俺はこの世界の住人ではないんだけど.......。この話、しなくちゃダメか?」


「だめだ」

「だめでしょ」

「だめです」


 ん? 返事が増えてないか? ギースとティア以外の声がした気がする。そう思いながらあたりを見回すと後ろからアリスが近づいて来ていた。いつの間に部屋に入ってきたのだろう。


「いつの間に来てたんだい? アリス」


「ノックをしても返事がなかったんですもの」


 少し拗ねて膨れているようにも見える。なんかかわいい。


「リョウ?」


 何やらティアさんも機嫌を損ね始めたようだ。これはいけない。


「んんっ。俺の世界の話だったね」


 俺は話を戻してごまかすことに決めた。


「逃げたわね」

「逃げましたね」


 ティアとアリスの二人からの突っ込みが入るが無視して話を進める。そして俺は、自分がここに来る前の住んでいた世界についての説明とここまで来た経緯、それとティアから教わった魔法などを話したのだった。


「なるほどのう」


「そんな世界があるのですね」


 ギースは半信半疑って感じだ。まあ、それが普通だろう。逆の立場であれば俺も信じないと思うし。アリスは目を輝かせながら話を聞いていた。


「まあ、普通はそんな反応でしょうね。リョウは今はこんなんだけど初めて会ったときは死にかけだったし、魔法も知らなかったわよ」


 ティアが俺に向けてそう言いながら、二人にも俺のことを追加で説明する。


「確かに、にわかには信じがたい。が、ここで嘘をついたり俺たちを騙すメリットもない以上本当のことだろな」


 確かに。俺にはそんなことをする必要はないな。まあ、嘘は言ってないし騙す気も毛頭ないが。


 そんなこんなで俺は自分の出自についての説明をしたのだった。








「ということはリョウ。お前は身分の証明できるもの持ってないだろう。これをやる」


 ふとギースがそう言い俺に何やら板のようなものを投げてよこした。ついでにティアにも。なんだこれ、板? 金属に何かの紋章みたいなのを掘っているようだ。


「これは?」


「俺の家の家紋を掘ったものだ。それを相手に見せれば俺が身分を、というか身元を保証していると相手に伝わる。まあ、お礼も兼ねている。持っていけ」


 そんな簡単に渡していいものなのだろうか。


「今、ここで会話をしてちゃんと相手を見ての判断だ。気にするな」


「そういうことならありがたく」


 俺は、そう言いながらありがたくその板を頂戴する。


「あと、当座の必要になりそうな資金とこの街にいる間は家に泊まっていけ。それくらいしてもくれないとこちらも面目たたん」


 俺はそこまでしてもらうのは帰って申し訳ないと思い伝えたのだが、貴族の面子の問題もあるのだという話を聞き最終的には受け入れた。


「あ、そういえば。魔獣の素材とかって売れるところってないか?」


 ついでに俺は、最初に考えていた資金の入手できそうな方法を聞いた。


「冒険者の組合なら買い取ってくれるはずだ。ついでに登録もしてくればいい。普段使いの身分証としては貴族の保証を出すと少し不便なことがあるだろうからな」


「不便?」


 疑問に思い聞き返す俺。


「相手が恐縮しっぱなしになる場合がある。公爵とかには当たり前に及ばないが辺境伯ってのはそこそこ上だぞ」


 俺はまだ貴族というものにはあまり理解が及んでないが身分があるというのはそういうこともあるのだろう。


「なるほど。ちなみに冒険者組合って具体的には何をするところなんですか?」


「基本的には魔獣の盗伐だったり薬草の採取だったりする冒険者をサポートしたり依頼を斡旋したりしてくれるところだな。冒険者の仕事としてはさっき言ったのと、後は街中の力仕事だったりする」


 概ね、日本で流行っていたファンタジー小説の内容と一緒の理解でいいのかな?


「そうですね。では、登録しておくことにします」


「紹介状は書いておくからそれも持っていけ。あ、くれぐれも魔法のことは言うなよ。せいぜい魔術師ってことにしておけ。騒がれたくなかったらな」


 確かに、騒がれたくはない。


「ティア。魔法のことは秘密にしてこれからは魔術師ってことにしていくぞ」


 俺は一応ティアにそう言って釘を刺す。


「そ。わかったわ」


 短いお返事。大丈夫かなあ。まあいいか。


「では、この後その冒険者組合というのに行ってみようと思う」


「わかった。出かけるときに家のものに声をかけてくれ。紹介状を渡すからな。あと、組合まで案内させる」


「ありがとうございます」


 こうして、俺たちは会話を終えた後、貸してもらう部屋に案内してもらい少し休憩してから出ることにしたのだった。








「ティア。そろそろ行ってみないか?」


 客間に案内してもらってから一時間くらいゆっくりした後、俺はティアに声をかけた。


「そうね。行きましょうか」


 ティアにも異論はないらしい。部屋を出て少し歩くとそこには到着したときに案内してくれていた執事さんがいた。


「これはリョウ様、ティア様。お出かけですか?」


 一礼してそう声をかけてくる執事に


「ああ。ちょっと冒険者組合とやらに登録と魔獣の素材を換金しに行ってくるよ」


 と、返事をした。


「では紹介状と案内のほうをさせていただきます」


 どうやら執事さんが案内してくれるようだ。


「それは助かる。ありがとう」


「いえいえ。我が主からも仰せつかっておりますので」


 こうして俺たちは執事さんに案内してもらって冒険者組合を目指し、出発するのであった。

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