第8話 野営地からの出発・フローレス辺境伯領到着

「おはよう」


「おう、おはよう。お二人さん」


 翌朝、起きてから準備を整えた俺とティアは、テントから外に出ると出発の準備をしていたカルロスを見つけ挨拶をした。


「これから街までよろしく頼むぜ」


「ああ。まあ、ティアもいるしよっぽどのことがあっても大丈夫だろ」


「そうだったな」


 俺とカルロスは苦笑交じりにそう言いあいながらティアのほうをちらりと見る。


「?」


 何も考えていなかったらしいティアは不思議そうに小首をかしげる。普通に可愛いんだが。思わず見とれてしまった。


「どうしたの?」


 俺の反応を疑問に思ったのかティアが少し下から上目遣いでこちらを見上げ聞いてくる。そのしぐさに俺は少し慌てて答える。


「いや、何でもねぇよ。ただティアが強いって話だ」


「そう? それにしてはちょっと慌ててない?」


「気のせいだ」


 俺はノータイムで返事を返せただけ俺自身をほめてやりたいと思う。


「ふふっ、へんなの」


 そう微笑みながらティアはこちらを見てくる。俺も負けじとティアを見つめ返す。朝日に照らされたティアの美しい銀髪が神々しさまでも纏って見え、なんかもうすごいが俺は負けない。なんの勝負なんだろう。


「ゴホンッ! おい。お二人さん。そろそろ二人の世界から帰ってきてくれ」


 俺はそう呼びかけてきたカルロスの声にハッとなって現実に戻る。


「ああ、わりぃ」


 さらにティアにクスクスと笑われ、俺は苦笑するしかなかった。そんなやり取りをしながら俺たちは出発を待っていたのであった。









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「おはようございます。リョウさん。ティアさん」


 またしばらくすると、ボーっと出発を待っていた俺たちに声がかけられた。


「ああ、おはようアリス。それとカノンさんだったかな」


 声をかけてきたアリスにそう返事を返す。しかし、昨日俺が取り押さえた隣のメイドさん今日も視線がキレッキレっすわ。視線だけで人が殺せるのではと思うくらいにらみつけてくる。昨日取り押さえた以外になんかしたっけな?


「おはようございます。リョウ様。ティア様」


 そのメイドが心底嫌そうに挨拶してくる。これには俺もアリスも苦笑するしかない。気にしても仕方ないかな。昨日みたいにいきなりナイフで襲ってきたりしなければ。


「それで、もう出発か?」


「はい、そろそろ出ようと思います」


「了解」


 こうして俺たち一行は街に向かって出発した。


 道中は何事もなく進むことができた。ティアに教えてもらった魔法で気配を探知する方法を使いながら進んでいく。ティアは俺が魔力を使い探知をしているのに気付いている様子だが、周りの騎士たちには気づいている様子はなかった。それに、近づいてきている魔獣達は俺とティアで魔法を使いこっそりと処理していった。途中で止まって戦闘なんて面倒でやってられないからね。


 出発してから四時間ほどたった頃、ようやく街が見えてきた。街は周りを石で作った防壁で囲み、さらにその周りに堀を作って入るには門のところまで行かないと入れないようにしているようだった。


「ようやく街だな」


 俺は、ティアにそう声をかけた。


「そうね。それよりもお腹すいたわ」


「街に入るまで我慢してくれ。それに金ないだろ。どっかで持ってるもん換金しないと」


 そう。今の俺たちは無一文で、さらに身分証すら持っていない。アリスについてきてなかったらめんどくさい手続きをしないといけないところだった.......らしい。まあ、この辺の内容もアリスから聞いたんだが。


 そうこうしてるうちに門の前まで到着した。おや、ほかの人がたくさん並んでいるところよりも人が少ないな。貴族様用ですかね。なんてことを考えていたら馬車の中からアリスとメイドさんが出てきて門番さんと何やら話をしている。俺たちのほうをちらちらと見ていることを考えると、どうやら俺たちと出会った経緯やらなんやらを話しているのだろう。やがて、門番さんが近くにいた兵士さんを一人呼び、その人に二言三言何かを伝えた後その人呼ばれた兵士さんは門の中に走って入っていった。


「リョウさん。ただいま先ぶれを出しましたのでゆっくり行きましょう」


 アリスがこちらの方に近づきながらそう言ってくる。


「ああ。わかった」


 俺もそう返事をし、アリスが馬車の中に戻ったのを見てその後ろについていく。俺たちは街に入り、またしばらく進むと街の中心の方まで来ていたようで、周りに見えている家がかなり立派な様相のものが増えてきているのが見て取れた。また、俺たちはその中のひと際立派な建物を目指しているようだった。その建物の門の方には門番と先ほど中まで走って入っていった兵士さん、それと執事さんが待っているのが見えた。


「お待ちしておりました、アリス様。それと客人のリョウ様、ティア様」


 そう声をかけてきたのは、執事さんだ。なんかもうこれぞ執事って感じだな。白髪交じりの髪でおそらく五十歳くらいのおじさまだ。また、かなり鍛えているようで結構強そうなのが見て取れる。


「ただいま帰りました。お父様はおられますか?」


「はい。今日はアリス様がお帰りになると首を長くしてお待ちしておられていました。道中の件もすでにお伝えしております。お顔を見せて安心させてあげてくださいませ」


「わかりました。では行きましょう。リョウさん、ティアさん」


 アリスは執事さんとの会話を終わらせてから俺たちに声をかけた。しかし、貴族の家か.......


「俺、礼儀とかわかんねぇんだけど大丈夫か?」


「お父様はあまり細かいことを気にされない人なので大丈夫ですよ」


 そんなことを言いながらアリスはクスクスと笑う。まあいいか。なるようになるだろ。


「そっか。じゃあお邪魔しまーす」


 結局、俺は深く考えるのをやめてアリスについて家の中に入っていくのだった。


 ティア? 勿論平常運転の何考えてるのかわからない感じで黙ってついてきたよ。







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「初めまして。俺がアリスの父でありこの街の領主であるギース・フローレスだ。一応辺境伯である。この度は俺の娘のアリスだけではなく騎士たちみんなまでも救ってくれて感謝する」


 今、俺とティアはアリスの父でありこの街の領主である男と会っていた。見た目はガタイのいいおっさんである。失礼だがアリスの父親には見えない。あと貴族の爵位に一応ってなんだよ。俺は苦笑いを浮かべそうになるのを堪え


「初めまして。私は神山 良と言います。こちらこそ無事に助けられてよかったと思ってますよ」


 俺は一応相手が貴族だというのもあり、言葉遣いに気を使った返答をしたのだが.......


「ぷ.......くく.......リョウが丁寧に喋ってる。に、似合わない」


 後ろでティアが笑っている。そこまで笑うほど変かねぇ。とりあえず、ちょっと黙っててほしいと思う俺であった。


「リョウも、普段通りの喋り方でよい。その方が気が楽だろう。何より君らはわしの娘の恩人だ。その恩人に気を使われてはこちらも申し訳なく思う」


 へぇ、そんな考え方の人なんだな。もっと貴族って偉そうなものかと思ってたよ。


「では、遠慮なく」


「ああ、そうしてくれ」


 こうして、俺たちとギースは和やかに会話を始めるのだった。

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