第10話 冒険者ギルドへ

「こちらでございます」


 俺たちは執事さんに連れられて冒険者組合に向かっていた。


「あの建物か?」


 見えてきたのは剣と盾の描かれた看板を掲げているほかのより少し大きなつくりの建物だった。


「私はこの後ほかにも用事がありますので失礼させていただきます」


「わかった。ここまでありがとう。帰るときは直接あの屋敷に帰ればいいかな?」


「勿論でございます。では、失礼します」


 こうして執事さんに案内されて俺たちは冒険者組合に到着した。


「じゃあ、行こうかティア」


「ええ。そうね」


 俺たちは扉を開け中に入る。中に入り最初に見えたのは受付のカウンターとそのもう少し奥には酒場のような場所があった。俺たちはまず登録を済ませてしまおうと受付に向かう。


「いらしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」


 受付に到着すると中にいた十八歳くらいの女の子に声をかけられる。


「俺たち二人で冒険者に登録しようと思ってね。あとついでに魔獣素材の買取もお願いしたい」


「かしこまりました。まずは登録ですね」


 そういいながら受付の女の子は紙を二枚取り出した。


「まずこちらの紙の必要事項に記入をお願いします。終わりましたら私のところに持ってきてください。あ、申し遅れました。私は受付のミーナと申します。よろしくお願いしますね」


「俺は、リョウ。こっちはティアだ。よろしく。それとこれってここで出せばいいのかな?」


 俺はギースからもらった紹介状を出しながら答えた。


「はい。よろしくお願いします。それは紹介状ですか? 拝見いたしますね.......。これは.......辺境伯様から?」


 やはり普通とは違うのだろうか。なにやら少し慌てている。


「ちょっとギルドマスターにお話を通しに行きますね。お二人は記入をしていてもらってもいいですか? 不明事項は後でお聞きしますね」


「あ、ああ。わかった」


 慌て気味にそう言い残し受付にいたミーナは奥の扉に向かっていった。それにしても相変わらずティアさんは喋りませんね。


「さっさと書いてしまうか。ティア」


「そうね。まあ、私はもう書き終わっているけれど」


 はっや。ずっと黙っているとは思っていたけどもう書き終わっているとは。しゃーない。俺も書いてしまうか。


 記入事項自体はそんなに多くなく書き終わるのは思ったより早かった。まあ、名前と年齢、戦闘方法ぐらいだったのだけれど。書き終わってからボーっと受付でミーナが戻ってくるのを待っているとふと後ろから声をかけられた。


「おいおい。こんなところに可愛い嬢ちゃんがいるじゃねえか。おい、お前。この子ちょっと貸してくれよ」


 そんな声をかけてきた輩に俺はめんどくさそうな態度を隠しもせずに半眼になって顔を向ける。そこには筋骨隆々の大きな男が立っていた。てか、ティアを貸せって.......ロリコンか? そんなことを思った瞬間、ティアに脛を蹴られる。痛い。心を読むなよ。


「おい、なんだその態度は。俺はCランクだぞ。今日登録にきたやつがする態度じゃねえな」


 まだ説明を受けてないが仮にFから数えたとしてもいいのか悪いのか微妙なランクだ。そんなんで威張るなよ。


「ティア。ご指名だぞ」


 俺はめんどくさくなりティアに丸投げをする。


「いやよ。めんどくさい。こういうのはあなたに任せるわ」


 俺だってめんどくせぇよ。そう思いながらも諦めて対応する。


「いやだってよ。諦めてくれ」


 簡潔に結論だけを告げる。その態度が気にくわなかったのか男は顔を赤くした。面白れぇな。瞬間湯沸かし器だ。


「お前ら舐めてんのか?」


「そんなつもりはさらさらないぞ。もともと興味もないしな。もういいか?」


 俺はそういいながらもう無視していいかなと思い始めた。が、その男は我慢の限界に達したのか殴り掛かってくる。


「おおっ。危ない危ない」


 俺はそう言いながら男の攻撃を避けていく。こいつ見かけによらず攻撃はスピードがあるな。まあ、森にいた魔獣よりは遅いんだが。


「お前えええええええええ!!」


 男は叫びながらさらに殴り掛かってくる。だんだんと野次馬も集まり始めた。あまり目立ちたくなかったんだがな。


「リョウ。いつまで遊んでいるの? さっさと殺しなさいよ」


 飽きてきたのかティアが俺にそう声をかけてくる。いや、殺さないよ? だが、確かにもういいか。


「諦めてくんないかなぁ?」


「ふざけるなぁっ!!」


 語彙が貧相だなぁ。そう思いながら俺は「はぁ」とため息をついた。そして魔力と共に殺気を乗せて軽く威圧する。ついでに集まってきてめんどくさい野次馬たちにも。


「なぁっ!?」


 男は俺の威圧にびくっとした後、尻もちをつく。周りも殺気に当てられ恐怖の表情を浮かべている者もいる。若干名、平気そうなやつもいるがそいつらはほかのやつよりも強いのだろう。これで終わってくれないかなぁ。


「お、お前ぇ」


 男は俺の威圧に尻もちをついたのを辱められたと思ったのか先ほどよりも顔を真っ赤にした。それにしてもさっきから同じようなセリフしか言ってないなこいつ。


「もう許さねぇ」


 そう言った男は腰に下げていた剣を抜いた。あーあ。抜いちゃったかぁ。俺は、ちらりと受付のほうを見る。そこにはさっきからの騒動の途中に戻ってきていたミーナとその隣にいる爺さんが見えた。あの爺さんがギルドマスターかな? 俺と爺さんは目が合い、その爺さんが頷いた。これは殺っちゃていいってことかな?


「めんどくさいなぁ」


 そう言いながら俺も収納魔法にしまっていた剣を取り出す。収納魔法を見た周りがざわついているけど気にしなーい。


 そして男が突っ込んでくるのを躱しながら剣をはじく。それによって男がよろめき隙ができる。その隙に俺は剣を持っていない方の手で腹パンを叩き込み、腹を抑えた男の後頭部にかかと落としを叩き込んだ。


「ぐわっ」


 そう言いながら男は倒れこみ気絶した様だ。それを見届けた後、俺は周りを見てにっこり笑う。目は笑っていなかったと思うが。


「見せもんじゃねぇよ、散れ」


 そう言いながらちょっぴり威圧。それを見てやばいと思ったのか周りは慌てたように散っていった。それから俺は何事もなかったかのように受付に戻った。


「はい、ミーナさん。書き終わったよ」


「この流れで普通にしますっ!?」


 ミーナは驚いたように突っ込みを入れる。隣の爺さんは笑いをこらえているように見えるが無視した。ダメか。


「これが絡んできたから対処しただけだし問題はないだろ? 殺してもいないし」


 そう言いながら俺は経緯を思い返し、改めて腹が立ってきたので一発蹴っておく。


「お主、容赦ないのう」


 隣の爺さんがそう言いながら呆れの視線を向ける。気絶してるのに追い打ちはやりすぎだったかな? まあ、いいだろう。


「で、あんたは?」


 俺は、爺さんに声をかけた。


「わしはここのギルドマスターじゃよ。ダニエルという。よろしくの。とりあえず紹介状の件で話がしたかったからわしの部屋まで来てくれんかの?」


「わかった。行こう、ティア」


「ええ」


 こうして俺たちはギルドマスターのダニエルに連れられて奥に向かっていったのだった。

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