第49話 商業国で報酬をもらおう①

 朝食を食べ終えて一息ついた頃、俺は立ち上がってティアたちに視線を向ける。


「俺は商業国に飛んで、後処理を全部してこようと思うんだが、ティアたちはどうする?」


「私は今日はいいわ」


「私も昨日でやることはやりました」


 俺の質問にティアとマリーがそう返事を返してくつろぎモードだ。


「そうか。じゃあ、こっちでやることとかは任せていいか?」


 俺はティアたちにそう問いかける。


「ええ。この子たちの住む場所の整備も今日中に終わるでしょうし、いいわよ」


 ティアがリビングで無邪気にはしゃいでるデルマ侯爵領で保護した子供たちを見ながらそう言った。


「私は子供たちについていきますから心配しないでください」


「ああ、そう言えばそう言う話だったな」


 マリーがティアに続いてそう言い、俺はそもそもの話を思い出した。最初はマリーが孤児院で子供たちの面倒を見るという話になっていたはずだった。それがいろいろな事件が重なって一緒に行動する時間ができただけだった。


「じゃあ、そこは任せるな」


 俺はそう言って家を出るのだった。


_______________________________________________________________


 家を出てすぐに商業国に転移で向かった俺は、とりあえず街並みを見るために歩いて移動する。


「おお、昨日の今日だから大騒ぎだな」


 俺は自分たちがしでかしたこととはいえ、入り口が吹き飛んで壊れた店やまだ片付けられていない悪党の死体に驚いている市民を見てそう呟いた。


 そしてしばらく歩くとひと際、野次馬が集まっているところがあるのに気が付く。そこには立札が立っていて野次馬はそこに書かれている文章を読んでいるようだ。


「何が書かれてるんだ?」


 俺はそう独り言を呟きながら文章を読む。そこには昨日あった出来事と、その原因、そして商業国の運営者の依頼によって行われたという昨日話し合った通りの内容が書かれていた。


 なるほどな。こういう風にして周知するのか。まあ、日本と違ってインターネットや新聞、テレビなどで情報を得られるわけでもないため、当然と言えば当然だな。


 そうしてしばらく歩いて向かった先は、この国の中心である会議所だ。


「通してもらってもいいかな?」


 俺は会議所の門に立っている警備兵に声をかける。


「ここに何の用だ?」


 警備兵は威圧的に俺にそう聞いてくる。昨日ここにいたのとは違うやつだからしょうがない気もするが、何も聞いていないのか。俺は諦めて身分証を見せる。ディール王国の国王さんにもらった方だ。


「し、失礼しました」


 隣国とはいえ国王の発行する証明書を見せられて、恐縮する警備兵。そんなにビビり倒すなら最初から威圧的な態度をとるなと言いたい。


「で、通っていいのか?」


 俺は少しイラついてはいたが、それを表に出さないようにして警備兵に問いかける。


「も、勿論です。案内をさせますので少々お待ちいただけないでしょうか?」


 警備兵は焦ったようにそう言う。


「あー、そう言うのはいいや。自分で勝手に行くよ」


 俺は警備兵の制止を聞かずに中へと入る。襲撃した時に構造は見ているので、迷うことなく進んで行く。やがて、昨日10人が会議していた最奥の会議室の扉が視界に入った。俺は特に何をするでもなく勝手に扉を開ける。


「やあ」


 俺は中にいる面子に向かって適当に挨拶をした。


「「「「「!?」」」」」


 中で話し合っていたのは昨日最後に俺たちのところに来た5人だけだった。その後人が急に室内に入って来た俺に対して、驚いたような表情をしていた。


「なんだ、リョウか。急だな」


 しかし驚いていたのは少しの間だけで、最初に復活したクベーラがそう声をかけてきた。


「ああ、昨日の話にあった報酬の拠点の場所とかいろいろ聞いておこうと思ってな。そっちも聞きたいこととかあるんじゃないか?」


「それは助かるな。こちらも伝えたいことがあった」


 俺の返事にクベーラは安心したような表情をする。内心、緊張でもしていたんかね。それにしても伝えたいこととは何だろう。


「伝えたいこと?」


 俺はクベーラに向かってオウム返しに質問をする。


「ああ。アントとジョイ、そしてブラギが今回の対処に対して反対してな。近く何かの行動を起こしそうだ」


 クベーラは頭の痛そうな表情をして、ため息付きでそう言った。しかし、そいつらは誰だろう。まあ、記憶にない奴ならどうでもいいか。どうせ昨日絡んできた残りだろう。


「そうか。それについて俺はどうしたらいいんだ? 何かしら俺たちにしてくるなら組織ごと潰すが?」


 俺がクベーラにそう告げると、一層表情を険しくしてため息を吐かれた。


「そうは言ってもこれ以上、こちらの店や人を潰されるとこの国が回らなくなるんだが」


「なら、手綱はしっかり握ってもらわないとな」


「それしかないか」


 クベーラは諦めたようにそう言った。流石にそんなことまで面倒は見切れないし、見る気もない。そこでこの話はひと段落だ。


「ところで報酬の拠点なんだが、空きになっている屋敷と広い土地に新居を立てるの、どちらがいい?」


 話の区切りでディドがそう尋ねてくる。そう言えばこいつは不動産関係の商売をしているんだったな。


「そこは任せたいところだが、土地なら自由に建物が建てれるな」


「建設するのはこちらでするから要望はあるか?」


「いや。俺が建てるから土地だけでいいや」


「え?」


 俺が自分で建てるというとディドが驚いたように固まる。


「聞こえてないのか? 俺が魔法でするからいいぞ」


 俺は念を押すようにそう言った。


「魔法? 魔術じゃないんですか?」


 するとさっきまではずっと聞くだけだった狐耳少女のウカがそう聞いてくる。


「ああ、魔法だな。逆に魔術は使えないぞ」


 俺がそう言うと、その場にいる一同はさらに固まるのだった。

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