第50話 商業国で報酬をもらおう②

「魔術が使えない……ですか?」


 硬直からわずかに復帰したウカがそう聞いてくる。他の面子も驚愕の表情を浮かべていた。


「ああ、俺は魔術を知らずに魔法をティアから習ったからな。街に出てから魔術を知った」


「それで詠唱もせずにあんなことができたのですね」


 ウカは俺の話を聞いて納得したような表情でそう言った。


「ウカは魔法を知っているんだな」


 俺は感心した様にそう言った。


「ええ、伊達に200年も生きてないですよ」

 

 ウカはそう言って苦笑する。出た、年齢と見た目が釣り合っていない人。もう俺は驚かないぞ。


「そうか」


 俺はそう短く返事をした。


「驚かれないのですね」


 ウカは俺があまり大きく反応しないので、残念そうに言う。


「そりゃ、身近にティアとマリーがいるんだぞ? そんなの今更だろう」


「そう言えばそうでしたね。だから私を見た目で判断したようなことをおっしゃらないのですね」


 俺の言にウカは苦笑してそう言った。


「俺にはさっぱりだ」


 ディドが俺たちの話についてこれずにそう呟く。残りの三人も似たような反応だ。


「気にするな」


 俺は全部説明するのもめんどくさいのでそう言ってごまかしておく。


「まあ、結局のところ。使っていい土地だけ教えてくれ。あとは俺が何とかする」


 そして話の軌道修正を図る。


「そうか。まあ、よくわからんがそう言うことならそうしよう。管理の人員はいるか?」


 ディドは無理やり納得したかのような表情をして、そう聞いてきた。


「それもこっちで何とかするわ」


「そうか」


 ディドは短くそう返事をした。


「あとはあなたが保護した子たちに対する補償の件です」


 報酬の拠点の話が終わると金融関係のクベーラがそう話を切り出してきた。


「シャンスとハンスの資産を現金化しました。そちらをすべて差し上げます。あなたが保護した子たちに使ってあげてください」


「へぇ。全部とは気前がいいな」


「彼らはそれくらいのことをしましたから」


 俺の感想にクベーラが淡々と返す。


「わかった。責任をもって預かろう」


 俺はそう言うとクベーラは頷いて部下らしき人に指示を出した。


「こちらの部屋に用意してあります。ついてきてもらえますか?」


 そう言って案内された部屋には大量に金貨が置いてあった。俺たちの後に他の4人もついてくる。


「じゃ、これはもらっておくよ」


 俺はそう言うとすべてを収納の魔法の中にしまう。それを見ていた人たちは驚きの表情を隠せずにいた。


「やっぱり、非常識ですね」


 そう言ったのは隣で見ていたクベーラだ。やっぱりってなんだよ。


「それではしっかりと渡しましたので。私は他に仕事がありますのでこれで失礼します」


 クベーラはそう言うと用事はもうないと言わんばかりにその場を後にした。


「じゃあ、さっそく報酬の土地を案内してもいいか?」


 クベーラと入れ替わりでディドがそう声をかけてくる。


「ああ、頼んだ」


 俺はそう返事をしてディドが案内する後ろをついていく。それと一緒に仕事に戻ったクベーラ以外の面子がついてくるのだった。


_______________________________________________________________



「ここだ」


 そうして案内された場所は会議所からは少し歩くが、いろいろなところに移動しやすいアクセスのよさげなところだった。それでいて後方には山がある。


「へぇ。どこからどこまでだ?」


 俺は案内された土地を見ながらそう尋ねる。


「あの山を含めてこの範囲の見える場所すべてだ」


 ディドはそう言って権利書のような紙を俺に渡した。


「まじで?」


 俺は思っていたよりも広い範囲に驚いてそう聞く。


「ああ。今回の件はこれくらいしないと借りは返せないと思っている」


 ディドは本気でそう思っているようで、こともなげにそう言った。


「そうか。まあ、わかったよ。ありがたくもらっておく」


 俺はディドの言にそう返事をして土地を見渡す。


「結構、いろいろなものが建てれそうだなぁ」


 俺はそう呟きながらどんなものを建てるか考える。


「今、何か作るのか?」


 俺が考えている横でプタハがそう聞いてきた。


「ああ、ちゃちゃっと必要な物だけは建ててしまおうかと思ってな」


 俺はそう答えながら考えに戻る。変にこだわるよりもなれたものの方がいいかな。とりあえず、日本の一軒家をかなり広くしたようなものでいいか。


「よし、これで行こう」


 俺はそう呟いて魔法を行使する。そうして魔力を大きく消費してその場で家を組み立てていった。


「おお」


 プタハが驚いたような声を出す。その隣ではウカも驚きが隠せないようだ。


「できたぞ」


 俺がそう言って振り返ると、驚きすぎて固まっていた。


「いやはや、ここまでとは」


 プタハが諦めのこもった視線でそう呟く。職人たちをまとめているということは家も建てることに関して知識があるのだろう。それを一瞬でやられちゃあそう言いたくもなるか。


「ま、こんなもんかな。じゃあ、確かに報酬として土地ももらったよ。これ以上ってなんかあったか?」


 俺は固まっている四人に声をかける。


「あ、ああ。もうないはずだ。懸念事項はあるがこっちで対処するつもりだしな」


 プタハが気を取り直したようにそう言う。


「懸念事項って言うと、残りの三人の件か?」


「そうだ。まあ、リョウに手を出される前に対処できればいいのだが……」


 プタハは悩んだようにそう言う。


「まあ、こっちに被害が出るまでは任せるよ。被害が出たらそれまでってことで」


「それしかないか……」


 プタハが諦めたようにため息とともにそう言った。


「じゃあ、俺たちは戻るな」


 ディドはそう言ってプタハとアーバと共に戻っていく。しかし、ウカが何かを考えるように立ち止まっていた。


「みんな先に行っててください」


 不思議に思って立ち止まった三人にウカがそう言う。三人はそれぞれ「わかった」というとウカを置いて先に帰ってしまった。


「なんかあるのか?」


 俺がそうウカに問いかけると、少し悩んだ表情を見せた。


「あのっ、相談があるんです!」


 ウカはそう言ってこちらを見上げるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る