第51話 ウカの相談?

「相談?」


 俺はウカに問い直す。


「はい」


 ウカは真剣な表情でこちらを見上げてそう言った。しかし何故俺に何だろう。これまでウカに会ったのは襲撃した時とそのあと、それから今日だけだ。


「なぜ、俺なんだ?」


 俺は気になったことをウカにそのまま聞いてみた。


「それはあなたが一番話を聞いてくれると思ったからです。プタハさんやクベーラさんはやはり商売人ですし、こちらから借りを作るわけには行きませんし、ほかに相談できる人もいません。ティアさんたちが話を聞いてくれるとも思いませんし、その中であなたが一番適していると思ったんです」


 ウカは真剣な表情を崩さずにまっすぐ俺の目を見てそう言った。緊張でか狐耳と尻尾が心なしか震えているように見えた。


「そうか。まあ、いいや。中で聞こうか」


 俺はそう言って建てたばかりの家にウカを招き入れる。中は王都の家を参考にしつつ、かなりの広いスペースをとったものになっている。


「ほえー」


 中に案内したウカは家の造りを見て呆然としている。先ほどまでの真剣な表情は見る影もなく呆けている。


「おい? なにか相談があるんじゃなかったのか?」


 俺は呆けているウカにそう声をかける。


「ほあっ! そうでした」


 ウカは正気に戻ったのかおかしな声を上げながらこちらを見る。


「で?」


 俺はそう言ってウカを見る。


「あのですね―――」


 ウカはこうして相談事を切り出してきた。ウカの話を要約するとこうだ。何でも、今回の騒動でウカは被害者に何もしてあげられなかった、と。それをウカは酷く落ち込んでいるらしい。プタハは様々な処理関係を。クベーラはお金関係の処理、そしてアーバとディドは自分の仕事の範囲で関わっていたそうだ。しかし、ウカだけが専門外のこと過ぎて何もできていない。まあ、農業関係だしな。他のやつらみたいに事務処理とかが育つ分野かと聞かれるとよくわからん。


「それで、俺にそれを聞いてどうしてほしいんだ?」


 それまでウカの話を黙って聞いていたが結局のところどうしたいのかがわからない。どちらかと言うと愚痴に近い気がする。


「えー、とですね。その、あの……」


 俺の質問に対して、ウカはかなりテンパってしまい、固まってしまった。


「おい……」


 固まったウカをみて、俺は思わずジト目になってしまう。相談者に固まられると、どうしようもない。俺はしょうがないのでウカの後ろに回って尻尾を引っ張った。おお、結構なさわり心地だ。


「ひにゃっ!! 何するんですか!?」


 俺に尻尾を引っ張られたウカは涙目で抗議する。そんなに力は入れていないが、意外と痛かったのかな?


「そんなこと言われても、お前が固まっているからだぞ?」


 俺はそう言いながら掴んでいた尻尾を放す。ウカは涙目で尻尾を抱えてこちらを恨みのこもったような目で見てきた。


「たとえそうだとしても酷いです」


 そんなことを言いながら涙目のままで見つめてくるウカ。見た目が少女なため、こっちがいじめているような気持になった。


「で、結局俺になんのアドバイスをしてほしいんだ?」


「私も何かしてあげられないか知りたいんです」


 ウカが俺の質問にそう答えた。長い前置きがいらなかったんじゃないかと思うほど簡潔でわかりやすい話だ。


「はぁ」


 俺は短い返事を返す。わかるようなわからないような話だ。


「え」


 ウカは俺の何とも言えないような態度に困ったような表情をする。


「つまり、俺たちが保護した子たちに何もできなかったから、自分も何かできることがないか、と?」


「そうですそうです」


 俺が相談内容を要約して聞き返すと、ウカは我が意を得たりと言わんばかりに頷く。


「そんなこと言われてもなぁ……。そんなこと言っても何人か協力的でないやつらもいただろ? そいつらよりましじゃないか?」


 俺はそウカに問いかける。


「それはそうですけど……」


 ウカはそれでも納得がいっていないような表情だ。


「そうだな……」


 俺はそう言ってしばし考える姿勢をとる。そんな俺を見ているウカは不安そうな表情になった。ころころと表情を変える狐娘である。


「そうだな。とりあえず、俺たちが保護した子たちに会ってみて考えたらどうだ?」


 俺は具体的な提案ができずに妥協策を提示してみる。


「いいんですか?」


 会えるとは思っていなかったのかウカは、またも表情を大きく変えて嬉しそうに見せる。


「ああ、もちろん。俺の家に連れて行くだけだからな」


 俺はそう答えてウカを見る。しかし何がそこまでウカを駆り立てるのか。


「それにしてもなんでそんなに気にしてるんだ?」


 俺はウカにそう問いかける。俺の質問を聞いてたウカは苦笑いをしている。


「私もいろいろ見てきてますから。種族としてもそうですし、生きてる年数もです」


 そう言えばウカも年齢と見た目が釣り合っていないやつだったな。見た目少女なのに200歳以上だったっけか。加えて狐の獣人だ。このあたりでも見たことがない。


「そうか」


「はい」


 俺はそう短く答えた。ウカも苦笑したまま返事をする。


 そうして、ウカの相談もひと段落付き、「じゃあ行くか」と、なった段階で外にたくさんの気配があるのに気が付いた。ウカも気配に気が付いたのか狐耳がぴくぴくと動いている。なんか和むなぁ。


「はぁ。手を出してこなければ何もしなかったのに……」


 俺はため息交じりでそう呟く。ウカがそれを聞いてびくっとした。


「処理するか」


 俺は気持ちを切り替えて外に様子を見に行くことにした。


「あ、私も行きます」


 俺の後ろでウカが何かを決意したような表情でそう言った。


「好きにしてくれ」


 俺もそう言って、気配のある外に向かって行くのだった。

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