第48話 反アデオナ王家軍
隠し部屋を出て少し歩き外に出ると、そこは完全に戦場になっていた。そこら中に警備兵や近衛兵と反乱軍が入り乱れて戦闘をしていて、地面には冷たくなった両軍の兵士たちが倒れている。加えて剣戟の音やそれぞれの怒声で騒がしいことこの上ない状態であった。
俺はこの中を突っ切って入っていくのは面倒だと判断し、手っ取り早くバードのいる方向へ転移で向かおうと考える。そしてどこにバードがいたかリースに尋ねるべく口を開いた。
「うわぁ、完全に戦場だ。リース、バードはどこにいた?」
「あっちにいたの!」
俺の質問にリースは指を指して答える。リースが指した方向は、激戦区に見える場所の方向。つまりは結局、激戦の中を突っ切る必要があるようだ。俺はそのことに気付かされため息を吐く。そしてティアたちの方へ視線を向けて尋ねる。
「あの中に入って行きたいか?」
「私は面倒だから嫌よ」
「私も遠慮したいですねぇ」
俺の問いにティアとウカがそろって嫌そうに口を開く。ウカの後ろではキコとヨウも首を横に振っていた。それを見た俺は追加のため息を重ねる。
「じゃあ、どうしよう。落ち着くのを待ってみるか? まだ警備兵や近衛兵は俺たちがここで見ていることに気付いていないみたいだし、それはバードたちもそうだろう。まぁ、俺達がいるのは知っているかもしれないが」
「そうね。一度落ち着くまでさっきの部屋に戻ってみるのもいいかもしれないわね」
俺の適当な提案にティアが投げやりに同意する。ウカはそれに対して呆れたようにしながらもツッコミを入れる。
「いやいや。それじゃ、いつまでかかるか分からないじゃないですか。とりあえず、その、バードさんに話を聞きに行きませんか?」
「仕方ない、行くか」
「そう? 行ってらっしゃい」
ウカの言葉にいやいや返事をした俺に、ティアが短く言葉をかけてくる。俺はティアの言葉に不思議に思って視線を向ける。
「もしもしティアさん? もしかして、ここに残ろうとか考えてらっしゃいますか?」
「もちろんそうよ」
「そっかぁ」
ティアの力強い言葉に、俺は諦めの返事を返す。どうやらいろいろと面倒になったティアはこの警備兵や近衛兵にも見つかっていないこの位置から動く気がないようだ。俺は「お前も来いよ」と言う気持ちを込めて、ティアに視線を送る。そんな俺の視線に気付いてくれたのか、ティアは俺と目を合わせるとにこりと笑い、そして口を開いた。
「安心してくれていいわ。ここはしっかりと守っておくから」
違う、そうじゃない。俺はティアが頑として動こうとするつもりがないことを悟る。
「あ、じゃあ、私たちもここにいますね」
すると、何を思ったのかウカまでもここから動かない宣言を始める。俺はそれにぎょっとした視線を向ける。
「いや、だって、私はバードさんと面識ないですし」
俺の視線にウカは少し困ったように笑いながらそう答える。ウカの言い分はそれはそれで正しいのだが、俺としてはどこか釈然としないものを感じてしまう。そんな俺の心情を慮ったのか、リースが俺の袖を引いて口を開く。
「リョウお兄ちゃん、リースが一緒に行くの!」
「……リース」
「わぷっ」
俺はリースの優しさに思わず頭を撫でてしまう。急な俺の行動にリースはびっくりしつつも目を細めて俺に撫でられている。やがて、俺が満足して視線を上げると、俺とリースのやり取りを白けた目で、ティアとリースが見ているのに気付く。
「な、なんだよ?」
「いえ、何もないわ」
「ええ、何でもないですよ」
俺の問いにティアとウカはそろって白けた目のままそう答える。それに俺はたじろぎながらも、気持ちを入れ替えて口を開いた。
「じゃ、じゃあ、行ってくるわ。とりあえず、俺が行ってくるから、リースもここで待っていてくれ」
「いいの?」
「おう。まぁ、面倒なだけで特に問題はないだろうしな」
「分かったの」
俺はリースをもうひと撫でしてから、バード達率いる反乱軍と警備兵や近衛兵が入り乱れている激戦区に向かっていくのだった。
ティアたちが待機している場所を離れて、俺が向かったのはとりあえず激戦区の後方、つまりは反乱軍を指揮している者がいるであろう場所だった。俺は反乱軍たちが多くいる場所の後方に転移で向かい、いつの日か見たことがある連中が固まっている場所に近づいて行く。
やがて俺が近づいて来るのに気付いた向こうが、警戒したような視線を俺に向けてくる。俺もその警戒した視線につられるように視線を向けると、そこには俺たちがつけられているのに気付いた時に話をしに行った時にいた面子がそろっていた。
「何しにきやがった」
俺が近づくにつれて、警戒感を強めていた一人が俺に向かって問いを投げる。ガタイのいい見覚えのある大きな男だ。しかし、そいつの眼には警戒感や敵意がありありと伝わってくる。この俺に声をかけてきた大きな男は確か、あの日に俺達に無理やり協力させようと強硬手段を選ぼうとした奴だったはずだ。名前は、……何だっけ。俺が名前を思い出せずにいると、その横にいたバードが口を開いた。
「やめてください、タカさん。ここでリョウさんと争ったらこちらが負けますよ」
「だがっ!」
「いい加減に僕たちの目的を思い出してください!」
「……チッ!」
バードに一喝されて、不満そうに舌打ちをしながらも黙る大きな男。そうだった、こいつの名前はタカだったな。俺はバードが名前を呼んでいるのを聞いて大男の名前をようやく思い出すことができた。
「久しぶりだな」
俺はタカが黙ったのを見てバードに向かって声をかけた。俺の言葉につられるようにしてバードは俺に視線を向けて探るように口を開く。
「はい、こんなところで奇遇ですね」
「よく言うよ。俺達がいることは知っているくせに。それで? 漁夫の利でも狙いに来たか?」
「いやいや、まさか。それにしてもリョウさん達が王城にいるなんてどうしたんですか?」
「ああ、ちょっと馬鹿をしたやつにお灸をすえにな」
「なるほど。リョウさんを敵に回すなんて馬鹿なことを……」
「そうでもないさ。それに近いことをしようとした馬鹿はそこにもいるだろう? 俺達は基本的に自分たちから手を出したりしないからな。どうにも勘違いする奴が多いみたいだ」
バードの言葉に俺は肩をすくめながら返事を返す。それに合わせるようにバードも表情を苦笑いした状態に帰る。その視線は今回も俺に絡もうとしたタカに向けられている。そこに、俺とバードの会話に焦れたように横にいるトビが口を開いた。
「それでお前は何の用だ?」
「そりゃ、こっちが聞きたいよ」
「なんだと?」
「こっちは俺たちにちょっかいをかけてきた馬鹿とお話をしている最中だったんだ。そこに外でバカ騒ぎされれば気にもなる。それも狙っていい多様なタイミングで来られれば、な」
俺の言葉にタカは睨みつけるような目を向けてくる。どうにも何か誤解がありそうだ。大方、俺がバードたちの邪魔をしに来たのかと思っているのだろうが、俺としてはそんな意図は一切ない。そこにバードが丁度よく口を挟む。
「それでリョウさんは何かお話があるんじゃないですか?」
「いいや? 俺からは俺の邪魔さえしなければないぞ。ここに来たのもその釘を指しに来ただけだしな」
「そうなんですか?」
「もちろん」
俺の言葉にバードが不思議そうに問いかけてくる。俺はそれにあっさりと返事をしつつ、バードたちの様子を眺める。バードたちは俺の言葉の意図を図りかねてそれぞれが顔を見合わせるのだった。
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