第47話 隠し部屋制圧完了

 俺が振り向くと、そこにはおっさん二人が身を寄せ合って震えている姿が目に入る。二人の視線には俺たちに対する恐怖の感情が込められていた。俺はそんな二人に呆れて口を開く。


「俺は言ったよな? ちょっかいをかけてくるなって。それを聞いていていろいろ手を出したんだ。覚悟はいいな?」


 俺はそう言って一歩ずつ、ゆっくりとハシームとハラハンの方へと足を進める。二人は俺が近づくごとに少しづつじりじりと後ろに下がっていき、ついに壁まで下がりきる。そんな二人に対して俺が再度、口を開こうとした時、部屋の外から騒音が聞こえてくる。


「ん?」


 俺たちはそろって部屋の外へと視線を向ける。外からは誰かが戦闘しているような怒号や剣戟の音、そして何かが破裂したような音が響いてくる。俺たちはそろって顔を見合わせて口を開く。


「何だと思う?」


「戦闘しているのは分かるけど、誰と誰が闘っているかまでは分からないわ」


「しかも数人とかじゃなくて普通に多人数が闘ってますね」


「俺たちが暴れた騒ぎに乗じた盗賊とかなら分かるが、流石にそれだと警備兵や近衛兵で対処できるだろうし、俺たちも気絶させるにとどめたはずだから、そろそろ起きていてもおかしくない。それにここも城の奥の方だから、ここまで聞こえるってよっぽどだぞ?」


「そう言えばそうでしたね。入り口付近でならともかく、ここまで戦闘音が聞こえるってことは結構攻め込まれていますね」


 俺、ティア、ウカはそろって首を傾げる。俺は視線をリースへと向けて口を開いた。


「リース、毎回で悪いが、偵察してきてくれ。誰が攻め込んできているかさえ分かればいい」


「わかったの!」


 俺の言葉にリースは元気よく返事をすると、そのままタタタッと走って隠し部屋の外へと出て行く。それを見送った俺たちはもう一度、視線をハシームやハラハンの方へと戻す。


「さて、思わぬことはあったが今回の件についての話はしておこうか」


「な、なにを……」


「俺はちょっかいをかけるな、と言った。それに対してお前たちは何度も諜報員は送ってくるし、警備兵も無駄に俺たちによこしたし、そいつらに指示も出さなかった。俺だって警備兵にハラハンからの指示は来ていないかって聞いたんだぞ? それに対しても警備兵も話を聞かないし、ここまで仕事をしない警備兵は初めてだったよ」


 俺が喋るごとにどんどんと小さくなっていくように見えるハシームとハラハンは、何とか返事をしようとして、口を開いたり閉じたりを震えながら忙しなくしている。しかし、言葉が上手く出ないようで、結局俺の問いに何かを答えると言うことは出来なかった。


 やがて、俺がじっと見ていることに耐えきれなかったのか、ハシームがようやく口を開くことができた。


「……何が望みだ?」


「望み? そうだな。とりあえず、ちょっかいかけた責任を取ってもらおうか」


「責任だと?」


「ああ、責任だ。お前にはとりあえず王位を降りてもらおう。変に権力がある立場だとまたちょっかいをかけてくるかもしれないしな」


「ぐっ」


 俺の言葉に言葉を詰まらせ、苦渋の表情になったハシームは何かを考えるようにして黙り込む。大方、何とかしてこの状況を誤魔化そうと考えているんだろう。まぁ、それでも今現在、王城に対して攻撃している奴らによっては俺たちがすること以上に何ともならないことになると思うが。


 俺がそう考えて視線を隠し部屋の出口の方へと向けると、そこにちょうどリースが戻ってきているのに気付く。リースは俺が見ているのに気付くと抱き着くように飛び込んできて口を開いた。


「見てきたの!」


「おお、ありがとうな。それで誰が来ていた?」


「森の中で会った人たちだったの!」


「そうか。と、言うことは反アデオナ王国の奴らか。どうせ俺たちが王城で騒いでいるのに乗じてって所か。バードはいたか?」


「いたの! あと、あそこにいた人は大体いたと思うの!」


 リースは俺にニコニコとしながら見てきた状況を伝えてくれる。俺とリースの会話にハシームが驚愕の表情をして口を開いた。


「バードだと!?」


「それがどうかしたか?」


「貴様!! 分かっていてあの時聞いたなっ!?」


 ハシームの言葉にウカやティアが不思議そうな表情をして俺を見てくる。俺は肩をすくめて言葉を返す。


「確信したのはお前に聞いてからだよ。まぁ、そうじゃなくてもあいつは政治に詳しそうだったし、何かあるとは思っていたけどな」


「どういうことですか?」


 俺の言葉を聞いてウカは疑問の声を上げる。俺はウカに視線を向けながらその質問に答えるべく口を開いた。


「ああ、ここに一回来た時に俺はこの国の第四王子について聞いただろ? で、森で俺たちを監視していた奴に話をつけに行ったときに会ったバードってやつと、ハシームから聞いた第四王子の話に共通点を感じてな。まぁ、大体は勘なんだが。ともかく、そんなこともあるのかなぁ程度だったから言わなかったんだが、どうやら攻めてきているのは第四王子率いる反アデオナ王家の連中らしいな」


「なるほど。それでリョウさんは予想がつくって言ったのですね」


「そう言うことだ」


 俺の説明に納得したのか、ウカは頷きながら返事をする。まぁ、なにはともあれ、攻めてきているのがバードたちでれば俺たちが何かする必要もないだろう。俺としてもこれ以上面倒ごとになるのは嫌だし、この場を押し付けて帰ることも選択肢にいれることができる。


 王城まで攻めてくるぐらいだ。この前話した、革命を成し遂げた後にどうするか、と言うことの結論でも出せたのだろうと期待したい。


「とりあえず、ここで話していても仕方ないし、バードたちを迎えに行ってみないか? あいつらがどういう結論を出したのか知りたいし」


「そうね。私もここにいてもしょうがないと思うわ」


 俺の提案にティアが頷いたのを見た俺は、魔法でハシームとハラハンが逃げ出さないように部屋の入り口に結界を張ると、皆を連れてバードたちが戦闘しているであろう方向に向かうのだった。

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