第46話 隠し部屋内での戦闘 ―ティア― 決着
時間は先ほどより少し戻り、リョウが戦闘を始めた頃。ティアもまた自分の相手と対峙し、にらみ合いに入るのだった。しかし、相手の兵士はティアにしてみればすでにまともに相手をする気にも慣れない相手であった。
「へへへ、偉く可愛いじゃないか。お前は殺さないで俺の側に置いてやる」
ティアと対峙した兵士はティアの前に来るなりそう言ってティアを舐めるような視線で見ながらそう言った。それに対してティアはこれ以上ないほどの冷めた目線で見ながら口を開く。
「これ以上近づかないでくれないかしら。あと、口も開かないで欲しいわ」
ティアはそう言うと兵士の足元を凍らせる。特にこれと言った動作を見せず、なめらかな魔力の操作で一瞬にして兵士の足元が氷で覆われていく。それに驚いた相手の兵士は怒鳴るように口を開こうとした。
「てめぇ! 魔術師か!! なにs―――」
「口も開かないで欲しいって言わなかったかしら?」
ティアは言葉を続けようとした兵士に冷たい目線と声音で尋ねる。ティアが尋ねた頃には既に兵士の口元にも氷が張り付いていた。
「んーー!」
口元に氷が張りつき、言葉をしゃべることを制限された兵士が唸り声を上げながらティアを睨みつける。ティアはそれに対して満足そうに頷きながら口を開いた。
「これで静かになるわね」
ティアはそう言って魔力を使い兵士の頭部付近で爆発させる。その限定された小規模な爆発により、兵士の頭は吹き飛んでしまう。こうしてティアはリョウたちの中では最短で戦闘を終わらして、リョウたちの戦闘を眺めるのだった。
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俺が相手の首をはね、ハラハンとハシームに注意を払いながらウカ達に視線を向けていると、既に相手を倒していたティアが俺の方へと向かってくるのに気付く。ティアは俺の相手だった兵士の死体を一瞥すると俺の方へと視線を戻して口を開いた。
「リョウは少し遊んだの? 思ったよりも時間をかけていたみたいだったけど」
「遊んだ、というよりかはこいつの武器の自慢に付き合っていたな。途中から話が脱線しようとしていたから聞くのをやめたが」
「そう。それで面白い話は聞けたのかしら?」
「面白いかどうかは分からないが、こいつの持っていた剣がこの国にある遺跡から出たのをベースにしているらしいぞ」
「へぇ」
俺が床に転がっているこいつの持っていた剣を指さしてそう言うと、ティアは興味深そうに剣へと視線を向ける。そしてその剣を少しじっと見ていたティアは、何かに気付いたように口を開いた。
「これ、もとになっているのは結構昔に作られているみたいね。多分、千年近く昔のやつよ」
「へぇ。じゃあ、遺跡の方に行けばそのくらいの年代のものが残ってるかもしれないのか。ちょっと面白そうだな」
ティアの言葉につられて俺も兵士が使っていた剣へと視線を向ける。俺にはそれがどのくらい昔に作られたかを判別することは出来ないが、ティアにそう言われれば興味も出る。
俺とティアが二人でその件について話をしていると、リースも自分の相手を片付けてこちらに向かってくるのが見える。そしてリースは俺のそばまで来ると俺を見上げて口を開く。
「リョウお兄ちゃん、ティアお姉ちゃん。終わったの」
「お、お疲れリース。それにしても怖いことするなぁ」
俺はリースに向かって苦笑いしながら頭を撫でる。リースは姿を消した状態で相手の周りから声をかけ、混乱したところに止めを刺す、と言うことを笑いながらやってのけたのだ。俺の苦笑いに気付いてないのか、リースはニコーっと笑いながら俺の顔を見ていた。
「これで俺たちはそろったな。後はウカ達だけだが……」
俺がそう呟くと、俺たちはまだ戦闘をしているウカ達の方へと視線を向ける。俺たちが視線を向けた先ではウカが魔術を使って相手を黒焦げにしているところだった。
「ウカって魔術使うことできたんだな」
「初めて見たの!!」
俺の呟きに続いてリースが驚いたように口を開く。俺たちの中ではティアだけが驚いていない。俺は解説を求め、ティアに視線を向けた。俺の求めに気付いてか、ティアはウカの方へと視線を向けたまま口を開く。
「魔法を使うことが苦手と言われている獣人族でも狐族は魔法を使える人がいるわ。今だったら魔術だったかしら。特に寿命の長い人たちは魔力が多いし、ウカほどに生きていれば使えるでしょうね」
「へぇ、そうなのか。狐族以外には使える種族はないのか?」
「さぁ? 長く生きていれば使えるんじゃない? 本来なら苦手ってだけで使えないわけじゃないもの」
「じゃあ、本人の努力次第ってところか」
「そういうことよ」
ティアの説明に納得した俺は視線をウカ達に戻す。ウカは再度魔術を使い、相手に目くらましをして隙を作って止めを刺しているところだった。敵が完全に沈黙したのを確認したウカはキコたちの様子を聞いているようだ。間もなくしてウカが俺やティア、そしてリースが見ていることに気付き、苦笑しながらこちらに来る。
「私たちが最後みたいですね」
「まぁ、そうだな。お疲れさま」
「はい、ありがとうございます」
ウカが苦笑したまま俺に返事を返し、合流する。ウカの後に続くようにしてキコとヨウもやって来た。
「さて、もう後に何かは来ないな?」
俺は逃げ出さないように注意を払っていたハシームとハラハンに振り返り、そう声をかけるのだった。
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