第49話 バードの結論
「結局何が言いたいんだてめぇ!」
「うるさ」
俺の態度が気にくわなかったのか、タカが語気を強めて俺に迫る。俺はその声に耳をふさぎながらタカの方を見やる。タカは俺に対して威圧をしようとしてか、その大きな体を利用して、上から睨みつけるように俺を見ている。どうにも俺のことが気にくわない様子のタカはさらに俺に向かって怒鳴りつける。
「それに邪魔をするなとは何様のつもりだ!?」
「はぁ……。だからうるさいって。それに話を聞いていなかったのか? その見た目通り脳みそまで筋肉でも詰まってるのか? 生きずらそうで同情すら覚えるよ」
「て、てめぇ……」
俺の煽る言葉に顔を赤くしてタカは睨みつけてくる。しかしそれに制止をかけたのはまたしてもバードだった。
「タカさん。いい加減にしてください。同じことを何度言わせるつもりですか?」
「だが、こいつの言っていることは!」
「僕がリョウさんの言っていることを何も分かっていないと?」
「そうは言っていないが……」
「じゃあ、黙っていてください。話の邪魔です」
「……」
再度バードに黙らせられるタカ。なんていうか、もう、哀れだ。タカは俺に睨みつけるようにして黙っている。俺に不満をぶつけられても困るんだが。それに対してバードはなんでもなかったかのように俺に視線を戻して口を開く。
「それじゃあ、僕から質問をしてもいいですか?」
「どうぞ?」
「ハシーム国王の場所をご存じないですか?」
「知ってるぞ」
「どこですか?」
「それを聞いてどうするんだ?」
「決まっていますよ。ハシーム国王を倒してこの国を変えるんです」
「へぇ」
バードの言葉を聞いて俺は考え込む。バードの様子を見るに、いろいろな覚悟が決まっているような印象を受ける。最初に会った時のようなとりあえず行動を起こしたような行き当たりばったり感が消えて、しっかりと考えられたような雰囲気を感じる。
「結論は出たか?」
「はい」
俺の問いにバードはしっかりと頷いて答える。俺はバードがどんな結論を出したのか興味が出て、視線を向ける。
「どんな結論か聞いてもいいか?」
「勿論です。ひとまずは僕が王位につきます。僕たちの中でそれができるのは僕だけなので。そのあと他に影響が出ない程度に権力を手放していき、最終的には僕が王位を捨てます」
「ふーん。やっぱり第四王子ってお前だったのか」
「知ってたんですか?」
「いいや? 確信したのは最近だ」
バードの言葉に答えながら俺は考える。別にバードたちにこのままハシームやハラハンのことを任せてもいい。そしてバードが今後のことを考えているのもわかった。それはいい。だが周りが納得していないように見える。バードが話始めたときに側にいるタカは見えないようにしているが不満そうにしているし、タカの周りも同様だ。逆にトビはそれに納得しているように見える。トップは納得していてその下は不満を持っている状況。実によくない。それもバードに見えないところでってところが実によろしくない。
「ところで、それを納得していないように見える奴が何人かいるが?」
「それは仕方がないんじゃないですか? 全員が納得するのを待っていたら何時までたっても終わりませんし」
「そうか」
俺hバードの言葉に頷きながら返事をする。それからここを見ているであろうティアに視線を向ける。ティアは俺が視線を向けたのに気付いたのか念話を使って言葉を送ってくる。
『私は構わないわよ』
『聞いてたのか?』
『ええ。皆に聞こえるようにしてたわ』
『わかった。じゃあ、とりあえずバードたちをハシームのところに案内しようか。先に行っててくれ』
『そう。わかったわ』
俺とティアが会話している間、バードが急に黙り明後日の方向に視線を向けている俺に不思議そうな視線を向けてくる。俺はティアとの会話を終えると視線をバードたちに戻して口を開く。
「ハシームたちの所に案内してもいいが、あれはどうするんだ?」
俺はそう言いながら敵味方入り混じった混戦になっている前方を指す。俺の言葉につられるようにバードたちもそちらに視線を向ける。そこは完全な戦闘地帯だ。それぞれが怒号と剣戟の中で必死に戦っている。状況としてはバードたちの軍の方が攻める側であるため守りに徹している警備兵たちの方が優勢に見える。そして一通り考えたのかバードは俺に視線を戻して口を開く。
「リョウさんなら何とか出来ませんか?」
「ウェルダンでいいか?」
「それはやめてください」
バードの他力本願な言葉に俺は呆れて冗談で返す。そこを俺に任せてもいいのか。俺はそう問いかけたい。それに対してバードたちは冗談に思えなかったようで少し焦っている。俺はそんなバードたちにため息をついて戦闘している方向へと視線を向ける。
「リョウさん? 何をするんですか?」
「何とかしてくれとのオーダーに答えるだけだが?」
俺はバードに軽く答えながら、王城の中で大きな男と戦った時に使った相手を眠らせる魔法を使う。俺が魔力を込めていくにつれて、前方にどんどんと黒い霧が広がっていく。その霧に触れた者は、バードたちの軍であろうが警備兵や近衛兵であろうが例外なく、眠りに落ちていく。やがて俺が出した霧に戦闘地帯全域が包まれるとその場には先ほどまであった喧騒がなくなり静まった状態になる。先ほどまでと騒がしさのレベルが違いすぎて逆に違和感を覚えるレベルだ。
バードたちは俺の使った魔法を見て絶句している。振り返ってそんな連中の様子を見た俺は口を開く。
「さっさと行くぞ」
「は、はいっ」
俺の言葉にバードはハッとして返事を返す。こうして俺はバードたちを連れて王城の中でハシームたちを閉じ込めている場所に向かうのだった。
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