第50話 タカとバード

 俺はバードたち以外を眠らせてから、ハシームたちのもとに案内するべく王城の中に向かっていた。先を促す声にハッとなって後をついてくるバードたちを少し気にかけながら、俺は先へと進んで行く。俺のすぐ後ろにいるバードは少し躊躇いがちに俺に質問する。


「リョウさん。先ほどの魔術は何をされたんですか?」


「眠らせただけだが?」


「そんなことが魔術で可能なのですか?」


「さあ? 実際に出来てるし可能なんじゃないか」


「……」


 俺の答えに絶句するバードたちを見ながら俺は先へと進む。俺としてはいちいち魔術と魔法の違いを教えてやる気はないし、そこに関して聞いてこないということは知らないのだろう。そのままお互いに無言になって進んでいるうちにバードが再度口を開いた。


「ちなみになんですが、あの魔術はどれくらいの時間効果があるんですか?」


「そうだな。あの感じだと半日は目を覚まさないんじゃないか?」


「……随分と強力ですね」


 俺の答えにバードは少し考えている表情になって言葉を返してくる。それからしばらくはまた無言の状況が続く。こうして進んでいる内にようやくハシームたちを閉じ込めている部屋の側に到着する。その部屋に近づくに連れてバードとトビがどこか納得したような表情になる。


「もしかしてこの先の部屋にある隠し部屋ですか?」


「よくわかったな。ああ、それもそうか。部屋自体はお前も知っているのか」


「勿論です」


 バードは第四王子だったみたいだし、トビもその部屋の存在は知っていたのだろう。もしかしたらトビは王城で働いていたことがあったのかもしれない。それがどうして反乱軍のトップに着くことになったのかは知らないが。大方、バードが出るときについてきたと言うことなのだろう。それに対してタカはそのことを知らない様子である。この辺、俺としてはどういう関係性があるのかよくわからない。まぁ、興味もないが。


 俺はバードたちを連れて、隠し部屋の前に到着する。そこにはティアやリース、そしてウカとキコ、ヨウが既に待っていた。俺はティアたちに向けて声をかける。


「戻ったぞ」


「遅かったわね」


「ああ、それはこいつらを連れていたこともあるし、あそこで闘っていた奴らをみんな眠らせてきたからな」


「そう、お疲れ様」


「おう」


 俺はティアに軽く返事を返した後、バードたちの方へ視線を向ける。バードたちは俺の仲間に対して少し警戒したような視線を向けている。特にリースに手ひどくやられた経験がある、タカの部下に見える奴なんか露骨に敵意を向けている。なんか不愉快だな。それにそのことを感じ取ったティアが何をしでかすか分かった物じゃない。


「おい、それ以上リースに敵意を向けてみろ。知らないぞ?」


「!?」


 俺がタカの部下に声をかけると、そいつは大げさに警戒して俺を睨み、今にも攻撃してきそうな雰囲気を感じる。だからそれをやめろってのに。俺はため息交じりにそいつに向けて電撃を飛ばす。


「ぐっ!?」


「何しやがる!?」


 タカの部下は短く悲鳴を上げるとその場で気絶して倒れる。俺の急な攻撃に驚いたタカは怒鳴りつけてくる。俺はそれに肩をすくめて口を開く。


「何と言われても、こちらから何かしたわけじゃないのにあの態度は不愉快だ。それに今にも攻撃してきそうだったぞ」


「だからと言ってこんなことをするのがいいわけないだろ!?」


「お前は何を言っているんだ? おい、バード。お前の担当だ。何とかしろ」


 俺は相手をするのが面倒になり、バードに丸投げする。バードはため息を吐きながら口を開く。


「とりあえず、リョウさん。殺してはないんですよね?」


「ああ」


「分かりました。タカさん、とりあえず黙ってください。そもそもこちらが悪いんです。これ以上、言わせないでください。さっきから僕たちの邪魔をしすぎです」


「じゃあ、こいつの言うことを聞けって言うのか!?」


 バードの言葉にタカは大きな声で反論する。俺はバードとタカのやり取りにうんざりする。これで何度目だろうか。俺としてもそろそろこれからの行動の意思統一を行って欲しいところだ。


 俺はそんな気持ちを込めてバードと言い争いをしているタカを見ているトビに視線を向ける。トビは俺の視線に気付いたのかこちらを見て困ったような顔をした。


「いや、そんな表情をされても困るんだが?」


「そう言われてもな。俺もどうしようもない」


「じゃあ、どうするんだよ。いい加減にしてくれないと話が進まないぞ」


 俺とトビがそう言いあっていると、ふとティアが俺の横に来て口を開いた。


「ねぇ、リョウ。私たちは何時まで待てばいいのかしら?」


 その声音は酷く冷え切っていて俺も少し怖くなるほどの力を持っているように感じた。いい加減にバードとタカのやり取りに辟易としているらしい。それに関しては俺も前面に同意だが、それにしてもティアが怖い。俺はティアからの視線に逃れるようにバードたちに視線を向ける。


 そこでは今だバードとタカが言い争っている状況である。それを見ているティアはふと俺に向かって言葉をかける。


「リョウ。あの二人の中でこれから絶対に必要なのはどっち?」


「あー、そう言う話であればバードの方だな。あの子供。でも、もう一人も殺すなよ?」


「失礼ね。そんなことしないわよ」


 俺の言葉にティアは不満そうにしながらもバードたちの方へと歩いて行く。それからティアはタカの方へ向かっていき、いきなり至近距離で魔法を放った。至近距離からの電撃にタカは驚きで固まって直撃を受けてその場に倒れる。


 俺やバード、そしてトビ、ウカ達はそんなティアの行動に恐怖を感じて見ているのだった。

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