第22話 地下②

 鉄の扉を開けて中に入るとそこは酷い光景が広がっていた。そこには衰弱したような弱弱しい様子の子供がたくさん横たわっていた。


「これは酷いな」


 連れてきた騎士の一人がこの光景を見て思わずと言ったようにつぶやきを漏らす。


「……だ、れ?」


 横たわっている子供の一人が弱弱しくも問いかけてくる。そこに騎士の一人が近づいて行き声をかけた。


「俺たちは王都の騎士だよ。君たちはどうしてここにいるのかな?」


「わかんない。急に連れて来られてここに閉じ込められたの」


「それはここにいるみんなそうなのかい?」


「うん」


 騎士とその子の会話を聞く限りこの子たちは攫われてきたようだ。



「とりあえずこの子たちを保護して上に連れて行ってあげた方がいいんじゃないか?」


 俺はひとまずここで確認するよりも上に行き、ゆっくりと話をした方がいいと思い騎士に声をかけた。


「それもそうだな。立てるかい?」


「うん」


 騎士は俺に返事を返しながらも子供の方に手を出して立ち上がらせた。


「とりあえず、俺は子供たちをここから出すためについていくからこの先のことを頼む」


「わかった」


 子供に声をかけていた騎士はそう言うと子供たちとこちらに来た騎士のうちもう一人に声をかけてもと来た道を戻っていった。


「さて、俺たちは先に進むか」


「そうね」


 俺は騎士を見送った後にそう呟くとティアがそれに同意する。それに加えて残った騎士三人も頷いた。


「じゃあ、行くぞ。リース、先行を頼む。何かに気付いたら教えてくれ」


「わかったの!」


 俺は何かあればすぐに気づくリースを先頭になるように声をかけ、この先を進んでいく。


「しかしわかってはいたがこの地下は広いな。どうやってここまで広げたんだ?」


 しばらく進んでいくと騎士の一人がそう呟いた。


「そりゃ、土を掘る魔術じゃないのか?」


 それに対して別の騎士がそう答える。しかし、答えながらもその騎士も納得がいっていないようだ。


「なにか違和感があるのか?」


 俺はその騎士の疑問を残している様子が気になり声をかける。


「いや、土を掘る魔術でここまでの規模ができるのなら今頃この国の都市中が地下通路だらけになっていてもおかしくないと思って……」


「なるほどな。確かによっぽどの使い手が作ったか、数を集めたかして作ったのかしないと、ここまでの規模にはならないかもな」


 確かに騎士が言うことには一理ある。


「あら、リョウなら一日もかからずにできるんじゃないかしら」


 そこにティアが面白そうにそう言った。


「いや、リョウさんはそのよっぽどでしょう?」


 ティアの言葉に騎士が苦笑しながらそう答える。


「それもそうね」


 騎士の言葉にティアは俺をからかう雰囲気を混ぜながら首肯した。お前らは俺を何だと思ってるんだ。


「よっぽどの中にはティアも入っていることを自覚してほしいものだな」


 俺は諦めのため息とともにそう呟いた。それからしばらくこの地下道について進んでいるとふとリースが何かに気が付いたように立ち止まった。


「リース、なにかあったか?」


「リョウお兄ちゃん。この先に何人かいるっぽいの」


 リースは人の気配を感じて止まったようだ。リースの言葉を聞いて俺も気配を探ってみると確かに何人かいるようである。


「確かにいるな。リース、先に言って様子を見てこれるか?」


「わかったの。行ってくる」


 リースはそう言って一人先に進んでいった。


「俺たちはリースが戻ってくるのを待ちながら警戒しながら進むぞ」


 俺は騎士たちにそう言って少し緊張感を上げながら進んでいく。それからそう時間もかからずにリースが戻って来た。


「どうだった?」


「十人ぐらいの盗賊みたいな人たちがお酒飲んでたよ」


「そうか。ありがとう」


 リースの報告を聞いてねぎらいながら頭を撫でる。リースは気持ちよさそうに目を細めながら「えへへ」と笑っていた。


「よし、聞いての通りだ。戦闘になると思うから気を引き締めてくれよ?」


 俺はリースを撫でながら騎士たちにそう言った。騎士たちもそれに合わせて雰囲気を変える。さすが騎士だな。切り替えが早い。


 雰囲気を切り替えてからは静かにその場に向かう。少し歩くと扉があり確かに男たちが騒いでいるのが聞こえてきた。俺はその扉に近づきノックをする。


「あ? なんだぁ?」


 ノックに気付いた男の一人がそう言いながら扉を開け、俺と目が合った。


「あ、どうも」


 俺は男に挨拶をする。男は見知らぬ俺がいたのに驚いたのか目を見開いていた。


「な、何もんだお前!」


 驚きから立ち直った男はそう声を出す。だんだんと中にいた男たちも俺に気が付いたようで警戒するようににらみつけていた。


「わたしたちは王都の騎士なんですけどね。少しこの地下のことと閉じ込められていた子供たちについてお話を聞かせてほしく手ですね」


 俺の後ろから騎士がそう言った瞬間、酒盛りをしていた男たちは剣を抜いたり槍を構えたりと臨戦態勢をとった。


「なぜ武器を構えるんです? 何かやましいことがあるのですかね?」


 騎士が煽るように男たちに言葉を投げかける。男たちは武器を構えながらも騎士の言葉に耳を傾けず冷静にこちらの戦力を見ていた。思ったよりも戦いなれていそうなやつらだな。


「おい、そこの二人はさっさとボスに報告に行け。残りはここで足止めだ」


「「へい」」


 先頭に立って俺たちと対峙していた男が一番出口に近いところにいた男二人に命令を出す。指示を出された方も動きが早い。しかし、俺も逃がすつもりもない。


「リース!」


「わかったの!」


 俺は短くリースの名を呼んだ。リースは俺の意図をくみ取って男たちの間をすり抜けていくと、この場から出ようとした男たちに攻撃を加えて気絶させた。


「なっ! てめぇ!!」


 指示を出していた男は驚きの声を上げ、こちらをにらみつける。また、比較的出口に近いところにいた男も武器をリースの方に向けて警戒していた。


「さて、痛い思いをしたくなければ降伏をお勧めするが?」


 俺は男にそう問いかける。


「だれがするかっ!!」


 だが男からの回答は攻撃だった。まあ、わかりきってはいたのだが。俺は剣で攻撃してきた男に電撃を浴びせて気絶させると残りの殲滅に入った。ティアにやらされると皆殺しにされそうだし、騎士にやらせたら時間がかかるかもしれないからね。リースは男たちが逃げ出さないように出口の方に立ちながら向かってくる男たちの相手をしていた。しかし、リースも強くなったなぁ。


「これで終わりっと」


 俺は最後の一人を無力化するとあたりを見渡した。


「さて、誰から話を聞こうかな」


 俺の周りには気絶した男たちと呆れた表情のティアとリース、そして諦めて死んだような目をしている騎士たちがいて、とても話を聞ける状態にはなっていなかったのであった。

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