第6話 アリスとの会話、そして野営
俺は、自己紹介をして笑いかけてきた少女と目を合わせた。なるほど、確かにいいとこのお嬢さんのようだ。旅装寄りとはいえ質のよさそうな衣服に、おつきのメイド。その振る舞いもしっかりしている。メイドの視線が多少厳しい気がするが気のせいだろう。
俺は、アリスと名乗った少女に自己紹介とお礼の言葉に返事を返した。
「お礼の言葉、確かに受け取った。俺は、リョウ。で、こっちはティア」
そう言って隣のティアも一緒に紹介する。
「よろしく」
ティアも一言そう返すがあまり興味がないらしい。あと隣のメイドの視線が痛い。言葉遣いがよろしくなかったかな? 自己紹介をしながらアリスを見ているとしっかりしているように見えても心なしか震えているようにも見える。先ほどまで盗賊に襲われていたので、無理もないと思い気にしないことにした。
「ま、無事なようでよかったよ。盗賊は通り道ではしゃいでいて邪魔だったからどけただけだし気にしなくていいよ。お礼の言葉は受け取ったしこれでお暇させてもらうよ」
メイドの視線も痛いしな。
「お待ちください。護衛としてこのまま街までついてきてくれませんか? 街についたら盗賊に関しても報酬をお渡しできますので」
あ、隣のメイドさんがびっくりした様にアリスを見てる。それにしても護衛か。
「え。めんどくさい。やだ」
「え」
あ、つい本音が。
「く、くくく......本音漏れてるわよ」
俺の隣でティアが笑っている。笑ってみてるだけじゃなくなんか言ってくださいよティアさん。
「じゃあ、ティアだけここで護衛してくか? 後で報酬もらってから合流で」
「いやよ。めんどくさい。別に報酬もいらないしね」
「だろ? てかティアも本音だしてるじゃねぇか」
そんなやり取りをティアとしている間、アリスはぽかんとしていた。まさか断られるとは思ってなかったのであろう。隣のメイドさんもプルプルしているように見える。面白かったのかな?
「貴様!! さっきからなんですかその態度は!!」
違った。怒ってるだけだった。
「なんだと言われてもこれが普段通りだが?」
「もう我慢なりませんっ!!」
「ッ!! だめです!!!」
そう言ったメイドがアリスの制止も聞かずナイフを抜いて切りかかってきた。俺はまっすぐ首を狙ってナイフを振るメイドの腕をつかみ、そのまま背中に回すようにして関節をきめる。そしてメイドが落としたナイフを拾い首に添える。
「おいおい。物騒だな。とりあえず制圧しちゃったけどよかったかな?」
隣にいるティアに問いかけると
「逆になんで生かしてるの?」
こっちも物騒だな。そしてティアの発言を聞いたメイドが青ざめている。
「なにがありましたかっ!!?」
馬車の中からガタガタしたのが聞こえたのだろう外の騎士が入ってくる。そしてこちらを見て騎士たちも剣を抜こうとする。
「待て!! 何事だ!!」
後から入ってきたカルロスが大声を上げる。
「アリス様。何があったのです?」
騎士たちは、アリスがなにもされていないのを見て安心したのかリョウを警戒しながらも声をかけている。アリスは先ほどからおろおろしっぱなしだ。
「リョウ。何があった?」
カルロスが代表してか俺に声をかけてくる。
「いや、このメイドがナイフでじゃれてくるのを止めただけだな。で、ナイフを没収して話をしようとしてた時にカルロスたちが入ってきた感じだな」
「いや、何故カノンがナイフを抜く事態になったのかを聞いているのだが」
え、それを先に言ってよ。二度手間じゃん。てか、このメイドはカノンというのか。
「アリスから街まで護衛してくれないかと言われたから断っただけだよ。多分言葉遣いとかが気に入らなかっただけじゃないかな?」
「はぁ。とりあえずカノンを放してもらっていいか? 話をしたい」
「いいよ。はい」
そういって抑え込んでいたメイドをカルロスのほうに放す。その瞬間に周りの緊張も解けたようだ。アリスもなんかほっとしているし。ティアは......うん、いつも通りだ。それにしても普通のメイドとは思えない身のこなしだったな。護衛も兼ねているのかな。
いろいろ考えているうちにアリスがカルロスを伴って近づいてきていたみたいだ。
「リョウ様、申し訳ございません」
「実害はなかったし別に構わないよ。それよりももうお暇してもいいかな? いろいろ時間も食ってしまったし」
盗賊を倒したりなんやかんやあったおかげで結構な時間がかかってしまっている。あと数十分で日の入りだ。
「リョウ様。それなんですが、やはり私たちと一緒に護衛として来てもらえませんか? 先ほどの謝罪も含めて報酬も上乗せいたしますのでお願いします」
アリスはどうしても俺たちについてきて欲しいらしい。俺はそっとティアを見やる。
「あなたについていくだけだから好きにしていいわ。それにお腹すいたわ。早く食事の準備をしましょう」
ティアはお腹がすいたためか今の状況は気にしていないらしい。それよりも食事のほうが重要そうだ。
「しゃーない。わかった。アリスたちと一緒に行こう。俺たちは野営の準備をしてくる」
「ッ!! ありがとうございます」
一緒に行く決定を下した俺は、お礼を言うアリスに適当に返事を返すと馬車を出た。
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馬車を出た俺たちは、まず野営の準備を始めた。収納の魔法からテントを出す。野営の準備は、テントを出すしかぶっちゃけやることがない。テントの中には自分で魔法を使い拡張した風呂やキッチンなどいろいろな部屋がある。そういえば馬車で驚く必要はなかったな。俺作れるわあれ。
「さて、飯でも作りますか。ティア、何食べたい?」
「なんでもいい」
それ一番困るやつ。しょうがない。無難に作り置きして持ってきているパンとスープ、それと何かもう一品作るか。
そうして飯の準備をしていると外から
「おーい。リョウいるか?」
と呼びかけられる。来客のようだ。声から察するにカルロスかな?
「いるぞー。なんだ?」
返事を返し馬車を出る。
「アリス様が一緒に食事でもどうかと呼んでおられるの.......だが、なんだそのテントは」
「なんだといわれてもそちらの馬車のテント版みたいな?」
馬車の空間を広げることができるならテントができてもいいだろう。そう思い適当な返事を返す。
「それよりそちらの献立は?」
俺は、スープくらいは提供してやろうかと思い聞いてみる。
「あ、ああ。騎士たちは乾パンに干し肉くらいだな。アリス様はもう少しましなのだと思うが知らん」
「スープ。いるか? 一人一杯くらいにはなるが」
内容が保存食オンリーは悲しすぎる。そう思い俺は、スープを提供することに決めた。ティアがよく食べるため多めに作っておいてよかった。
「それと面倒だからアリスのところにはいかないよ。なんだったらアリスたちのほうがこっちへ来てくれ。食事は提供しよう」
俺はカルロスにスープの入った鍋を押し付けるようにして渡し、そう告げた。
「感謝する。あと、アリス様に伝えておこう」
こうしてカルロスが出て行って三十分くらい経った。その間、自分たち用にスープを作り直した後、もう一品作った。森を出る途中に倒した鳥の魔獣を焼き鳥にした感じのやつだ。醤油があればよかったのだがないために味付けは塩のみとなっている。
「ティアー。飯、できたぞ。準備手伝ってくれ」
「わかったわ」
端のほうにちょこんと座って本を読んでいたティアは本を閉じこちらにやってきて皿を出したりと手伝う。
こうして食事の準備が整っていざ食べ始めようとしたとき
「リョウ様。いらっしゃいますか?」
またしても来客のようだ。ティアは無視して食べ始めている。仕方ない。
「なんだ?」
そう返事を返しながら外に顔を出す。そこにはカルロスを伴ったアリスがいたのだった。
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