第23話 ゴースト少女
家の中に入った俺たちはまず気配のあった方へ向かう。
「ゴーストってどんな奴なんだ?」
俺はふと気になったことをティアに聞く。
「そうね。人の残留思念が魔力を持って力をつけたもの......かしらね。特に恨みとかがゴーストになりやすいから基本は敵対するのよ」
「なるほど」
ティアの説明を聞き納得する俺。
「でもこの気配からはなんか嫌な感じはしないんだよなぁ。ティアはどうだ?」
俺は思った疑問をティアにぶつける。
「確かに私もそれは少し不思議に思っていたところよ」
やっぱりティアもそうか。
「まず話って出来ないのか?」
「できないことの方が多いわよ」
俺の質問にそう答えるティア。
「そっか。まずなんにせよ見てみないことには始まらないな」
「そうね」
こうして俺たちはゴースト探しを始めた。
「......いねぇな」
「出てこないわね」
しばらく気配を探りながら探していたのだがゴーストは一向に出てこなかった。
「これ、逃げられてないか?」
「そうね」
ゴーストは壁をすり抜けられるのか俺たちが近づくとすぐに察して距離をとってしまうのだった。
「仕方ないわね」
ティアがそう言いながら薄く光の属性のついた魔力を広げる。
「きゃあああああああああ!!」
その瞬間、痛みに驚いたかのような女の子の叫び声が聞こえた。
「おっと、出てきたか」
「行きましょう」
そう言って声がした方に向かう。そこには痛みにのたうち回る少女がいたのだった。
「いたいよぅ。ひどいよぅ」
しくしくと泣きながらうずくまっている少女を見て
「これがゴーストか?」
と、思わずティアにそう聞いてしまう。
「そのはず......なのだけれど」
これにはティアも疑問の表情を浮かべている。
「ひいっ!?」
俺たちが見ているのに気が付いたのであろうゴーストの少女が恐怖の混じった声を上げた。
「ごめんなさいごめんなさい。悪いことしないから殺さないでください」
ガタガタと震え、泣きながら言うゴースト少女に俺はなぜか罪悪感を覚える。
「えーと、何もしないから。お話ししないかな?」
俺は目線を少女に合わせて努めて優しく、そう声をかけた。
「ほんとう......? でも」
少し顔を上げた少女はちらりと俺の横にいるティアを見る。
「ひぃ!」
ティアと目が合ったとたんまたもや小さく悲鳴を上げてガタガタと震えだす。
「なにかしたのか?」
俺はティアにそう聞くが、「目が合っただけよ」と答えるティア。
「どうしたものか......」
俺は話が進まないことに困り果て頬を掻く。
「となりのお姉ちゃんも何もしないしさせないから。ほら、大丈夫だからお話ししよう?」
俺は再度、少女との会話を試みる。
「......わかった」
そう言いながらひしっと抱き着いてくる少女。ゴーストなのに実体あるってどういうことだよ。
「この子......、実体があるんだが?」
「珍しいわね」
そう言いながら考え込んでしまうティア。俺は抱き着かれたままどうすることもできずに、その場で立ち尽くすのだった。
しばらくたちゴースト少女が落ち着いたので俺たちも場所を変えて話を聞くことにした。リビングに移動し、もともとあったソファーの埃を魔法で取り除き少女を座らせようとする。しかし少女はなかなか俺から離れようとしないため俺も一緒に座る。
「むう」
ティアが自分になつきそうにない少女に不満そうにうなる。それを見た少女が「ひっ」っと小さく息を飲み俺にさらにしがみつく。
「はぁ。ティア。小さい子に妬くなよ」
俺はため息交じりにティアに苦言を呈す。
「そんなんじゃないわ」
しれっとそうのたまうティア。何にせよこのままじゃ話が進まない。
「とりあえず、名前を教えてくれないかな?」
俺は少女に優しく聞く。
「......リース」
少女は小さくつぶやくように教えてくれた。
「そっか。リースちゃんね。俺はリョウって言うんだ。こっちのお姉ちゃんはティア。よろしくね」
「......うん」
小さくだがしっかりと返事をしてくれるリース。
「じゃあ、リースちゃんはどうしてここにいたのかな?」
俺はリースをなでながらそう聞いた。それからリースがたどたどしく話した内容はこうだった。
両親から虐待されて育ったリースは十歳で命を落としてしまったらしい。それから気づいたらゴーストになっていて、最初は自分の意識も朧気でほかの人には見えていない状態だったそうだ。しかし、徐々に意識がはっきりしていくと見える人も出てきて人がいなさそうなところを探してたどり着いたのがここだったようだ。そこで誰にも見られないようにしていたら今日、不幸にも俺たちがここにきてしまった、ということらしい。
これを聞いたティアは憤りをあらわにして
「その親......最低ね」
と、吐き捨てる。俺も同感だ。
「俺たちは今日からここに住む予定だったんだけど......リースは俺たちと一緒は嫌かな?」
念のためリースにそう聞く俺。
「ううん。お兄ちゃんは嫌じゃない」
リースは短く、それでもはっきりとそう答えた。ティアが「私は?」と聞きたそうな表情でこちらを見る。
「ティアはまだ怖いか?」
俺はティアの様子を見て苦笑しながら聞く。
「もう、痛く......しない?」
リースは最初の光の魔力が怖かったようで少し怯えながらティアにそう聞いた。
「ええ。しないわ」
そう言いながらリースをなでようとするティア。しかしリースは「ひぅ」と言いながら俺の胸に顔をうずめひしっと抱き着く。
「むう」
悔しそうに俺をにらむティア。最初に強硬策に出るからだよ。
「徐々に慣れてもらえばいいさ。だから拗ねるなってティア」
そう言いながらティアの頭をなでる。まあ、なんにせよ。悪いゴーストでなくてよかった。
こうして俺は二人の機嫌を取りながら今日一日を過ごしたのだった。
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