第43話 商業国の中枢③

「お前など知らん!!」


 ベイクが名指しで助けを求めた一人、シャンスがそう声を張り上げた。


「そ、そんな!」


 ベイクはシャンスの返事に絶望した様な表情をしている。


「さて、バンスとシャンス。お前はベイクに名前を呼ばれたわけだが、本当に知らないのか?」


 俺は二人の男にそう問いかけた。


「もちろんだ」


「俺もこいつなんぞ知らん」


 二人はそろってそう答え、ベイクに対して冷ややかな目線を向けていた。


「ふーん?」


 俺はバンスとシャンスを意味ありげな視線でじっと見つめる。


「な、なんだ?」


「お前はいい加減何様だ!?」


 俺の視線を受けた二人は、焦ったようにそう言った。


「ここにお前らの名前が書いてある契約書があるんだが、これについてどう思う?」


 そして俺はおもむろにベイクから奪った証拠になりそうな書類を取り出してちらつかせる。二人はそろって嫌なものを見るような顔をした。


「これはベイクの店から持ってきたものなんだが、これがあるのにお前らがベイクのことを知らないというのはおかしな話じゃないか?」


 俺は問い詰めるように二人に向かって言い放つ。


「だから何だというのだ?」


 バンスという男が怒ったように返事をした。


「で、俺達はベイクやバスクがこれまでよろしくない商売を続けてこれた理由にお前たち二人が絡んでいるとみている。そして実際に取引の証拠として契約書をベイクの店から持ってきたんだがこれについてどう思う?」


「知らん!!」


「そんなものはでたらめだ!」


 俺の問いになおもしらばっくれようとする二人。俺たちのやり取りを聞いていたほかの者たちは、バンスとシャンスの発言にすでにあきれ顔をしていた。


「そうか。ティア、マリーもういいぞ」


 俺はこいつらからの自発的な自供を諦めて、ティアとマリーに任せることにした。俺の言葉を聞いた吸血鬼の二人は嬉しそうに敵意を見せる。


「待ちかねたわ」


「やっとですか」


 二人がそろってそう言うとバンスとシャンスにゆっくりと近づいて行く。


「おい! それ以上こっちにくるんじゃねぇ!!」


 ゆっくりと迫ってくる吸血鬼二人に叫びながらバンスとシャンスは後退る。しかし、男二人の背後には部屋の壁しかない。


「来るな! 来るんじゃねぇ!!」


 ついに後がなくなったシャンスがそう叫びながら懐に手を入れ、ティアに向かってナイフを投擲した。しかし、ティアはそれを何でもないかのように魔法で風を起こし叩き落す。


「しょぼいナイフね」


 シャンスが投げたナイフをちらりと見たティアはそう呟いた。そしてお返しとばかりにかまいたちを起こし、シャンスの両腕を切断する。


「ぎゃああああああ!!」


 シャンスは叫び声を上げながら倒れ、のたうち回った。それを見ていた俺やマリー以外のものが目を逸らしている。


「さあ、全部吐いてもらうわ。関わった人、組織、全部ね。早く言ってくれないとうっかり壊してしまいそうになるもの。ここの全部を」


 ティアは今まで抑えていたであろう怒りをあらわにしてそう言った。


「わかった!! 言う! 言います!! 全部言うので助けてください!!!」


 シャンスの両腕が自分では理解できない力で切断されるのを見てバンスがついに折れた。


「そうですか。正直に言うんですね?」


 バンスの懇願にマリーがそう問いかける。


「いいます! だから助けてください!!」


 マリーの問いかけに希望を見たと思ったのかバンスは一生懸命になってそう叫ぶ。


「そう。考えておくわ」


 ティアが路傍の意石を見るかのような冷めた目つきをしてそう返事をした。






_______________________________________________________________


 



 バンスが自供を始めてからは、話が早く進んだ。バンスは自分のやっていたあくどい商売のことについてこの国を回してきたほかの8人がいる前ですべてを正直に話した。自分の商会が何をしてきたか。どんな人を雇っているか。他にどんな組織がかかわっているのか。バンスが話を進めるごとに、まっとうな商売をしてこの商業国のトップ10人に入っている者たちが怒りを覚えていく。そして、両腕をティアに切断されたシャンスは出血多量で既にこと切れていた。


「そうですか。それですべてですか?」


 話し終えたバンスにマリーが静かにそう問いかける。


「そ、そうです」


 しかしバンスにはその静かなマリーですら恐怖に感じているらしく、震えながら返事をした。


「そう、じゃあもういいわね」


「へ?」


 ティアがそう言ってバンスの首を魔法で飛ばす。バンスは何が起こったのかわからないまま死んでいった。それを見ていたベイクは縋るような目でこちらを見てくる。


「お前は何か捕捉するようなことはないか?」


 ベイクの視線に気づいた俺は、そう尋ねる。


「な、ないです」


 ベイクは俺から目を逸らしながらそう答えた。俺はティアに視線を向ける。


「じゃあ、あなたももういらないわ」


 そう言ったティアはベイクの息の根を止めようとして近づく。


「待ってくれ!! 全部話したじゃないか! 協力したら助けてくれるって!! 約束したじゃないか!!」


 ベイクはそう言って命ごいを始める。


「ああ。約束通りだ。俺からは何もしない」


 俺はそう答えてやると、ベイクは絶望に染まった顔をした。


「人の自由を奪うようなことをしておいて都合のいいことね」


 ティアはそう吐き捨てると魔法でベイクの頭を潰した。


 その場にはシャンスとバンス、そしてベイクの返り血で染まったティアとそれを表情を変えずに見ている俺とマリー、そして悪人だったとは言え容赦なく殺したティアを引いた目で見ている8人がいるのだった。

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