第42話 商業国の中枢②
「あ、おい! 待て!!」
俺たちが無理やり押し入ろうとするのを扉を開けて問いかけてきた男が止めようとする。
「あー、そう言うのいいから」
そう言いながら俺が男に魔力を叩きつけて威圧すると、男は腰を抜かしてしまう。止める者がいなくなった俺たちは中の様子を伺いつつ入っていく。
「おー、今日は十人いるじゃん」
俺は会議室の中を見渡してそう言った。ベイクからはみんな揃うのはまれだと聞いていたからだ。よっぽど重要な会議でもしていたのだろう。
「何のようだ?」
会議室の中でもひと際、小さくて偉そうな男が問いかけてくる。
「クレームですね」
俺は短く返事をした。
「クレームだと? そのためにここに来るまでの警備兵をすべて相手にしてきたってのか?」
先ほどの偉そうな男とは別の男が聞き返してくる。
「ええ、勿論です。うちの者たちもたいそうお怒りでしてね。私も思うところがあってこうして来させていただいた次第です」
俺はそう言ってここまで足をもって引きずって来たベイクをぶら下げて見せて問いかける。
「これに見覚えのある人いませんか?」
「「「「「知らない(ないわ)(ません)」」」」」
「知っているが商売ではかかわったことがない」
俺の問いに即答で何人か返事をする。即答した人たちは本気で知らない様子でこちらを見ていた。そして返事をしなかった人たちは苦々しい表情でこちらを睨みつけるように見ている。
「あともう一人、バスクというものに心当たりがある方は?」
俺がそう問いかけると返事をしなかったものたちのうち、二人が顔色を変える。こいつらか。
「それが何なのだ?」
偉そうな男が焦れたように聞いてくる。
「まず、バスクという男ですがディール王国でデルマ侯爵と違法な取引をして侯爵ともども捕まっています」
俺は偉そうな男にそう返事をすると、先ほど顔色を変えた二人がさらにおかしな様子になる。
「そしてこれなんですが、バスクとの共犯者でしてね? 村や人を襲って無理やり奴隷にしたりしていたんですよ」
俺がそう説明すると顔色を変えていなかった者たちが怒りを堪えたような表情をする。まっとうに商売をしないのが許せないようだ。こいつらは完全に関係なさそうだな。
「なるほど。それでどうしてここまで来た?」
偉そうな男はそう言ってこちらの目を覗き込むように見てきた。俺はそれに笑って返す。
「いえ、それがね。この国でも認められている商売かつ、俺達に関係がなかったらよかったんですけどね? よくよく調べればそう言うわけにもいかなくなりまして。で、先ほどから言っているクレームにつながるわけですよ」
「ほう?」
俺がそう言うと先ほどからの偉そうな男が俺の後ろにいるティアとマリーを見て短く返事した。そして
「奴隷の中にそちらの中までもいたか?」
と、問いかけてくる。それには俺も驚いた。
「よくわかりましたね」
俺がそう言うと偉そうな男はため息をついた。
「寄りにもよって吸血鬼に手を出して、吸血鬼にばれたわけか。それで犯人は?」
「犯人はこれとバスク、そしてそいつらを庇護下に置いていたここにいる誰か。もしかしたら二人以上かもしれないな?」
俺はそう言って会議室内にいる十人を見渡した。
「わかった。お前たちの好きにしていい。俺はお前たちの行動を妨げる気はない」
偉そうにしている男はそう言ってあっさり俺達の介入を認めた。
「へぇ。偉くあっさり認めるねぇ?」
「当たり前だ。私は商売人だ。勝てない戦いをするつもりもなければ、かばっても利益にならんことはしない。そして私が知らないことなのだから不利益も被らない。好きにしてくれ」
男は俺の質問にそう答えた。
「了解。俺からは犯人以外には何もしないよ。俺からは、な?」
俺はそう言ってティアとマリーに視線を向ける。
「そうね。リョウは何もしなくていいわ。これは私たちの報復だから」
「ええ、ええ。私たちがやるのが筋でしょう。任せてください」
俺の視線を受けてティアとマリーがそう言った。それに顔色を変えるほかの者たち。
「ちょっと待て! 俺はかかわってないぞ!」
その声を皮切りに関わっていないだろう者たちが抗議の声を上げる。顔色を変えていた二人もしれっと抗議していた。
「この国のトップがかかわっていたんだもの。国の総意と受け取っているわ」
そう言ってティアが抗議の声を無視しようとする。
「あ、そうだティア。とりあえず報復するのは犯人だけにしてくれ。いきなりこの国のトップ全員が消えるのはまずい」
俺が魔力を高めようとしたティアに待ったをかけた。ティアは不満そうにこちらを見てくる。
「チッ。命拾いしたわね」
ティアがティアらしからぬセリフを吐いた。
「ティアお姉さまはしょうがないですね。ちょっと考えたらわかるでしょうに。では、犯人は名乗り出てくださいな?」
それを見たマリーは意外と辛辣な言葉をティアに吐き、会議室の中の十人を見渡しながらそう言った。ティアは妹からの言葉に不満そうだ。
「名乗り出る者はいないようですね」
そして誰も返事をしなかった。この場を切り抜けられるとでも思っているのか。
「仕方ないな。こいつに聞いてみよう」
俺はそう言って引きずってきて気絶していたベイクを叩き起こした。
「ひぃ!!」
俺に叩き起こされたベイクは短い悲鳴を上げて跳ね起きて周りを見渡す。そして商業国トップの十人がいるのに気が付きその中の二人と目を合わせた。
「おい、ベイク。この中でお前の上に当たるやつは誰だ?」
俺はベイクにそう問いかける。ベイクはすぐには答えず、十人の中の二人に縋るような目をして何かを訴えようとしている。しかし、その訴えを受けた二人は冷めた目で見返しているだけである。先ほど顔色を変えていたのは記憶のかなたに追いやったようだ。
「バンス様!! シャンス様!! 助けてください!!」
ついにベイクは俺の問いに答えず、その場にいる二人に助けを求めるという行動をとったのだった。
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