第30話 保護した子供たち
抱き着いたリースをそのままに俺はテントの中に入っていく。するとそこには保護した時よりは幾分か状態が良くなったように見える子供たちの姿が見えた。
「しかしよくもまあこんなにいたな」
俺はそうひとり呟く。俺たちが見つけた時よりも数人ではあるが子供たちの数は増えていた。俺たちとは別に動いていた騎士たちが見つけて保護したのだろう。
「ちょっといいか?」
そう言って俺は見覚えのある10歳くらいの子どもの一人に声をかける。子供たちはさっきまで話していたであろうリースが俺に抱き着いている状況を見て目を丸くしていた。
「え、えっと……」
声をかけられた子供は困惑と怯えとが混ざったような表情をしながら戸惑いの声を上げた。
「そんなに怯えないでくれ。これからのことを話したいだけだ」
俺は苦笑いしながら目を合わせるためにかがんで視線を下げた。子供と接するには上から見下ろして話すよりも合わせたほうがいいと聞いたことがあった。
「これからの、こと?」
俺が言ったことを復唱するようにして聞き返してくる子供。なんにせよ、会話してくれそうな様子に一安心だ。
「そうだ。それよりも名前を教えてくれるかな? 俺はリョウだ」
「僕はアル、です」
若干たどたどしくではあるが名前を教えてくれたアル。とりあえずはこのこと話すか。
「じゃあ、アル。これからどうしたいかとか何かあるか?」
とりあえず希望があれば聞いてみようと思い聞いてみる。
「ない、です。僕には、僕たちには何も。できることも。やりたいことも」
悲しげに目を伏せて言うアル君。俺からしたら子供なんだから別にそれでもかまわないと思っているが、この世界ではそれではだめなのだろう。しかし、どうしようもなくなっているのは事実で、だからこそ何とかしてやりたい気持ちになる。
「そうか。それじゃあ、とりあえず俺たちについてきてくれるか?」
「それって、売られるんですか?」
俺の質問にアル君は悲しげにそう聞いてくる。自然にそんな質問が出てくるあたり、この異世界の厳しさが伝わってくる。
「そんなことしないよ。今日はとりあえず俺たちの家に泊めてやる。そのあとは王都で王子様が何とかしてくれるように動いてもらってるのさ」
俺は安心させるように笑いかけてそう伝える。俺の言葉を聞いたアル君はきょとんとしていた。
「どうした?」
俺はきょとんとして固まっているアル君に声をかける。
「い、いえ。王子さまって。それよりも家に泊めてくれるって。僕たちは何も持っていないのに……」
アル君の戸惑ったような言葉に「ああ」と呟いて返事をする。
「子供なんだから気にするな。甘えたっていい年なんだ。なんだったらそこのお姉ちゃんに抱き着きにいってもいい」
俺はそう言って一緒に入って来たものの何も言わないティアに視線を向けた。
「ちょっとリョウ? 勝手なことを言わないでもらえないかしら?」
急に子供たちの視線を向けられたティアは戸惑ったように抗議の声を上げる。
「なんだ、ティア。ダメなのか?」
俺は笑いそうになっているのを隠しもせずにそう問いかける。そして視線を子供たちに向けると
「お前らも行っていいぞ」
と、言ってやる。
「ちょっとリョウ!?」
それを聞いた子供たちはまだ戸惑っているアル君を残して、ティアに抱き着きに行ったのだった。
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「あとで覚えておきなさい、リョウ」
子供たちの相手を終えたティアが恨みがましくそう言ってくる。子供たちが相手のためティアも強硬な手段が取れなかったのであろう。
「それは怖いな。そんなに嫌だったのか?」
「そ、そんな、ことはないけれど……」
ティアもなんだかんだ面倒見はいい奴だ。怪我をしていた俺の面倒も見てくれたしな。
「あ、それと家で預かる話、私聞いてないわよ?」
「それについては俺が決めたさ。部屋は余っているし、保護してそのままここに居続けさせるのもかわいそうだろ?」
俺はティアの抗議に丁寧に返事を返していく。これ以上機嫌を損ねたら怖いしな。
「それはまあ、そうね……」
どこか納得がいっていなさそうではあるが同意の返事を返すティア。仕方ない。
「今日は小さなお客さんがたくさんだ。夕食には俺がたくさん料理をしてやろうと思っているんだが、ティアは食べないのか?」
と、言ってやる。
「仕方ないわね。それならいいわ」
食べ物の話を出した途端、一変して態度を変えるティア。扱いやすくて何よりである。
「なにか失礼なことを考えているわね?」
「そんなことはない」
どうしてティアは俺の考えていることをすぐ読もうとするのだろうか。
それからすぐ俺たちは一旦子供たちのもとから離れてウォリックのところに行き子供たちを連れて戻ることを話す。
「わかった。そっちは頼んだ」
そう答えたウォリックのもとを後にして、子供たちを連れてすぐに家に向けて転移した。
「とりあえず入ってくれ」
俺は初めての転移に驚きつつきょろきょろして落ち着きがなくなっている子供たちを見て、苦笑しながらも家の中に案内する。
「お兄ちゃん貴族様だったの?」
そう不安そうに聞いてきたのはアル君とは別の8歳くらいの女の子だった。
「いいや。違うよ」
俺はそう答えてとりあえず入るように促す。
「さて、とりあえず風呂に入ってきてくれ。風呂は分かるな?」
俺は連れてきた子供を見渡してそう聞いた。
「風呂なんて使ったことない、です」
アル君が代表したかのように真っ先にそう声を上げた。
「そうか、男の子たちには使い方を俺が教えよう。女の子たちには……そうだな。ティアとリース頼めるか?」
「わかったわ」
「わかったの!」
俺がティアとリースに向けてそう聞くと二人の返事が返ってきた。そうして俺は男の子たちに風呂の使い方を教えると、後は好きにするように伝えて飯の準備に取り掛かるのだった。
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