第36話 ディール王国動乱②・ティアの戦い

<ティア視点>


「なんか私の方に向かってきている?」


 私がリョウと別れてしばらく民衆を気絶させて回っていると、明らかに私を目標に定めて向かってきている人が増えているように感じた。


「面倒だわ」


 私はそう言いながら電撃を放つ。この魔法便利よね。調整も簡単だし。リョウに教えてもらっといてよかった。


 最初にリョウを拾ったときは魔力を知らないとか言うし、どうかと思ったが、魔力を知っていくにつれてどんどん新しい魔法を考えているし単純にすごいと思った。長く生きている私でも思いついていなかったような魔法を考えつくし。リョウ自身はよくわかっていないようだけれど。


 そんなことを考えながら私は、自分に対して襲ってくる民衆を気絶させていった。


「あら?」


 ふと自分に向かって接近してくるものを感じた。そして目の前にはフードをかぶった男が立っていた。


「何の用かしら?」


 私はとりあえずそう聞く。


「これ以上私たちの邪魔をされたら困るのだ」


 そう言いながら男は私に向かってナイフを投擲してくる。私はそれを魔法で障壁を張って防ぐ。


「いきなりね」


 私はそう言いながら風の魔法を放った。かまいたちのようになった風が男に向かって飛んでいく。男はそれをナイフではじいたり避けたりしながらこちらに接近してきた。


「近づかないでほしいわね」


 そう言いながら距離をとった私は男の頭上から雷を落とす。男は頭上からの攻撃はよけきれずそのまま倒れた。え? これで終わり?


「時間は、稼いだ......ぞ」


 そう言って男は絶命した。何を言っているのかしら。


「時間を稼いだ? 次は何をするつもりなのかしら」


 私はそう言って周りの気配を探る。すると王城の方に近づいている集団と王都から離れたところにも集団がいることが感じられた。やられた。この男は時間稼ぎの捨て駒ね。


「これはまずいわね」


 私はそう呟いてリョウを探しに向かったのだった。



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<リョウ視点>



「さあ、話してもらおうか? お前たちの目的を」


 俺は片腕を飛ばされて倒れている男に言った。


「貴様に話すことなどもう何もない。目的は達成された」


 しかし男は答えることはなく、ただ昏く嗤うだけだった。


「だからその目的はなんだ!?」


 俺はそう言って男を怒鳴りつける。しかし男は嗤ったまま息を引き取った。


「ちっ! 結局わからずか」


 俺はそう吐き捨て周りを見た。その周りには操られている状態の民衆がぐるっと囲んでいる状態だった。


「ああ、もう。めんどくせぇな」


 俺はそう言いながら民衆を操っている魔術を解呪して気絶させていく。ほんとむやみやたらに怪我をさせるわけにはいかず、面倒だ。


 またしばらくそうやって進んでいるとふと見知った気配を感じた。これはティアだな。


「ティア? どうした?」


 俺はその気配の主に声をかける。


「王城に向かってと、この王都に向かってそれぞれ結構な数の集団が近づいているわ」


「うわぁ、めんどくせぇ」


 ティアの報告を聞いた俺はそう呟いた。


「そいつらって帝国の軍かな?」


 俺はティアにそう聞くと


「たぶんそうじゃないかしら。私を足止めに来た男が時間稼ぎだって言ってたし」


 なるほど。じゃあこれが本命の進軍かな。


「じゃあ、もう一回二手に分かれて奴らの進軍を止めるか?」


「それよりも軍だったらルシルに指示もらった方がよくないかしら」


「それもそうだな。でも王城に向かってるのはどうする?」


「それは通り道なのだからついでに消し飛ばしたらいいわ」


 おいおい、物騒だな。まあ。いいけど。


「じゃあ、行くか」


「ええ」


 こうして俺たちは王城に向かって進んでいった。暴れている民衆を気絶させながら行っている途中、王城に向かっている帝国軍と思われる集団が見えてきた。


「お前らは何しに来てんだ?」


 俺は王城に向かっている集団に声をかけた。


「なんだお前らは? まさか洗脳の魔術が聞いてないのか?」


 その集団の中にいた偉いさんのような人がそう呟いた。


「あ、もういいです。そのセリフであっち側ってわかるんで」


 俺はそう言って魔法を使い、帝国軍の集団を無力化させた。殺してないよ?


「リョウは相変わらず優しいのね」


 ティアがそう言ってくるが違うんだな、これが。


「単にむやみやたらに殺したくないだけのヘタレだよ。やむを得ない場合を除いてね」


「ふーん。そう言うことにしとくわ」


 それっきり俺たちは黙って王城にいる、ルシルのところを目指して行ったのだった。

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