第26話 バードとの話
カナリーを連れて転移した俺はトビたちと出会ったキャンプの入り口の方に出た。しかし、目的地が分かっている俺はよかったが、急に景色が変わったカナリーはまだ慣れていないのもあってかなり驚いた表情を浮かべている。
「リョウさん。転移するなら言って欲しかったです」
「あー、悪いな」
恨めし気な視線を向けてそう言ったカナリーに俺は適当に返事を返す。そして俺が急に起こした行動に驚いたのはカナリーだけではなく、キャンプの入り口に立っている門番も同様だった。
「だ、誰だ!?」
腰に下げていた剣を抜き放ち油断なく俺を睨みつけて誰何した門番は同様を隠せずにいるようだ。まぁ、目の前に急に人が現れれば無理もないと言えるが。
「トビに用があるんだが、取り次いでもらえるか?」
「まず、お前は誰だ?」
「俺はリョウって言うんだが知らないだろ? あぁ、この前ここに来た時にほぼみんなを気絶させた奴って言えばわかるか?」
「なっ!?」
俺の言葉を聞いて門番は驚いたような声を上げる。無理もないだろう。前回俺が来た時に何もさせないままに気絶した一人かどうかは、俺には分からないが話が伝わっていないわけがない。
間もなくして入り口の方の騒ぎを聞きつけたのか、中から増援と思われる集団が近づいてくる。その先頭にはなぜかバードと呼ばれていた少年もいた。バードは俺の後ろにカナリーがいるのに気付くと驚きの表情をして口を開く。
「カナリー姉さん!」
「バード!」
どうやらお互いに仲がいいようで名前を呼び合っている。そして視線を合わせた後、バードは俺の方に向いて口を開いた。
「リョウさん。カナリー姉さんを連れてどうしたのですか?」
「そうだな。お前が俺たちを覗いていた一件について話を聞いていた。それからこの国の現状をついでにな」
「そうですか。とりあえずゆっくりできるところで話しませんか? 今日はトビさんやタカさんも用事で出ているので前回みたいに話を邪魔される、ということもないと思うのですが……」
バードは俺の機嫌を伺うようにしてそう提案してくる。俺は少し考えるような振りをして、返事を返した。
「そうだな。俺もお前とはちゃんと話していなかったしな。いいぞ」
「ありがとうございます」
そう言ってバードは俺を先導するようにして中に戻ろうとする。それを不安そうに見ていた周りの者が口を開いた。
「いいんですか?」
「逆に聞くんですけど、何かできますか?」
「それは……」
バードの言葉に周りは何も言えなくなる。前回俺が来た時に、誰も相手にならなかったことは記憶に新しいのだろう。そのことを思い出したのか、みんながみんな苦々しい表情をしながらも言葉を発することはできない様子だった。
バードに案内されたのは、前回俺とリースが案内されたのと同じ場所にあるテントだった。そこに前回同様椅子を勧められ、俺はその椅子に腰かけた。
「それで、今日はどうしたんですか?」
「ああ。カナリーから話を聞いて、俺たちの行動方針を決めることができたからな。それについて一応話しておいてやろうと思ってな」
俺は「俺たちの邪魔をするな」という意味を込めてそう言った。それが伝わったのかそうでないのかは分からないが、バードは表情を真剣なものに変えて頷く。それから俺はウカ達と話したことをバードに説明していく。その後、俺の方針を聞いたバードは難しい顔で口を開いた。
「話は分かりましたが……。その、第四王子についてはこちらも分からないことが多いので何とも言えません。それに僕たちには動くなって言うことでしょう?」
「まぁ、そうだな。少なくとも俺たちの邪魔をするのはやめて欲しいが」
「そうなるとトビさんは話せば分かってもらえるとは思いますが他の幹部の人たちが納得するかは分かりません……」
バードはその年には見合わないほどの難しい顔をしてそう言った。俺もそれについてはある程度覚悟していたので、頷いて答える。
「そっちはできる限りでいい。邪魔をしてくればこっちで対処するしな」
「出来ればそれもやめて欲しいんですが……」
「それはそっちの都合だろ? 俺たちは俺たちの目的があるし、そのために動いている。それにもともとの話、そっちはまだ戦力的にもそれ以外でも整っている様には思えないが?」
「そうですね。それは事実です。だからリョウさんの話を聞いて、トビさんが興味を持ったのが始まりですし」
「それならばなおさらだ。俺たちが動いた結果、そっちが住みやすいようになれば文句はないんじゃないか?」
「それは……。分かりません。僕はそれでいいんですけど、結局僕たちもそれぞれの思いをもって集まっています。その後についての話もできていなかった通り、その辺が上手く行くとは思えませんし」
バードは申し訳なさそうな表情でそう言って考え込む。俺としては大人しくしていてくれるだけで十分ではあるのだが。
結局この日はトビがいないと結論が出ないとバードに言われ、解散するのであった。
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