第29話 情報収集
翌日、俺たちはリースを連れて手がかりがないか昨日の魔法陣があったそうこの辺りに来ていた。
「そう言えば昨日の魔法陣も人族の始祖の魔法に似ていたわね」
「それは昨日に言ってほしかったな」
唐突に思い出したように言うティアに、俺は呆れたように言う。
「何年も見てなかったのよ。急に思い出せるわけがないじゃない」
「ごもっともっで......」
ティアの言い訳のようなセリフにも一理あると思い俺はこれ以上言うのをやめた。
「さて、なんかあるかな。まあダメ元ではあるんだけど」
昨日の倉庫に着いた俺たちは中に入って調べ始める。倉庫の中にはいくつかの木箱しかなくそれを調べ終えるのにそこまでの時間はかからなかった。
「ダメだったな」
「そうね。まあ、わかってはいたのだけれど」
俺とティアはこれからどう手がかりを探していこうか考え、頭を悩ましていた。
「あっ!」
俺たちが考えている横で、リースがふと何かに気付いたような声が聞こえた。
「ん? リース。どうかしたか?」
俺はそう問いかけるが返事はない。リースの目が何かを追うように動いていた。それからしばらく黙っていたリースだが少しずつこちらを見ながら話し始めた。
「......リョウお兄ちゃん。......あの人たちの拠点はここからもう少し行ったところにあるって。あと、昨日リョウお兄ちゃんが闘ってた人は昨日火事で死んだって」
「「!?」」
俺とティアはそろって驚きの表情を浮かべた。
「どうしてわかったんだ?」
俺は冷静に努めてリースに聞いた。
「......ここで死んだ人が教えてくれたの」
「うん? どういうことだ?」
俺は言ってる意味が分からず聞き返した。
「ああ。そういうことね」
反対にティアは納得したような声音でつぶやく。
「ティア、何かわかったのか?」
「ここには昨日見た死んでいた人がゴーストになりかけている様ね。それが自分よりもしっかりしたゴーストであるリースに近づいて行ってその記憶でも見たんじゃないかしら」
ティアがそう説明してくれる。
「なるほど。でもそれってリースに何か影響はないのか?」
俺はリースが心配になってそう聞く。
「問題ないと思うわ。とてもゴーストと言ってもとても弱いし、まだなりかけの残留思念のようなものだもの。むしろリースのほうが強すぎて取り込んでしまう勢いだわ」
「そっか」
俺はティアの話を聞いて安心した。
「......リョウお兄ちゃん。その人が浄化してほしいって......」
リースがポツリとそうつぶやくように頼んできた。
「わかった。リースはちょっと離れててくれ」
俺は浄化の魔法を使うにあたり、リースに影響がないように離れてくれるように頼んだ。
「......わかった」
そう返事をしたリースは離れて俺たちの様子を見ている。
「なあ、ティア。ここにいるゴーストって俺が言ったこと聞こえるかな?」
「聞こえると思うわよ。あちらからは伝えられそうにないけど」
「わかった。ありがとう」
俺の質問に簡潔に答えてくるティア。
「じゃ、ここにいるゴーストさん。情報助かった。ありがとう。ゆっくり休んでくれ」
俺はそう言いながらリースに影響が出ないように気を付けながら浄化の魔法を発動させる。俺の周りが浄化されていきあたりに澄んだ空気が広がっていく。
『ありがとう』
俺たちはそう聞こえた気がしたのだった。
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ところ変わって同時刻王城では国王とルシルを筆頭に帝国に関しての情報を集めてたり、自国の防衛面の見直しをしたりと大忙しであった。
そして現在、国王は集まった情報を整理するための書類仕事に忙殺されていた。
「宰相。今の王都の備蓄はどうなっている」
国王は同じように忙しくしている宰相に質問する。
「気付かないように徐々に王都へ向かう馬車を魔獣を使って襲われましたのでこのままいきますと後ひと月ほどかと」
宰相は資料を見ながら答えた。
「防衛面はどうだ?」
国王はさらに聞いていく。
「我が国の軍は帝国との国境の二つ手前の都市に駐屯しております。国境付近で異変があれば二日以内には対応できます」
「帝国の諜報員が転移の魔術を使ったとリョウから報告があった。直接王都を狙ってくるかもしれない。そこも気を付けておいてくれ」
国王は宰相に注意を促した後、また書類仕事に戻ったのだった。
そのころルシルはアリスのところに情報がないかを聞きに行っていた。アリスのところは辺境にあり珍しいものが取れたりするのでそれを仕入れに行った商人など様々な人の出入りがある。そこで帝国に関する情報を少しでもいいから集めたい。そんな心境だった。
「数日ぶりですね、ルシル王女殿下。それで本日はどのような御用でしょうか?」
挨拶もそこそこにアリスはさっそく本題に入ろうとする。なにやらルシルが焦っているように感じたためだ。
「帝国と戦争になるかもしれません。なのでどんなことでもいいので帝国の情報が欲しいのです」
ルシルもさっそくとばかりに話をきりだす。
「!?」
アリスは驚いたように目を見開く。そして
「申し訳ありません。父がいる領地に戻れば何かわかるかもしれませんが私にはわかりません」
と謝る。
「いえ、いいのです。気にしないでください。ダメもとで来ていますからね。しかしこうなるとフローレス辺境伯の元までいかないとだめかもしれませんね」
アリスに気にしないように言った後、ルシルは考え込むように黙ってしまった。
「リョウ様なら領地まですぐ行けるんじゃないですか?」
アリスはハッと思いついたように言う。
「私もそれは考えましたが。しかし、リョウ様は今、私のお父様の依頼で王都にいる帝国の諜報員と思われる方の捜査をされています」
ルシルも考えはしたがリョウの手を止めてしまってもまずいと考えそれを否定する。
「話してみないことにはわかりませんよ? ちょっと行ってみましょう」
アリスはそう言うとおもむろに立ち上がり後ろに控えていたメイドさんに耳打ちをした。
「かしこまりました、アリス様」
少し嫌そうな表情をしてメイドさんはその場から姿を消しその場にはアリスとルシル、そしてルシルの護衛のみが残ったのだった。
「アリス? 何をするつもりなのですか?」
「ちょっとリョウ様を探しに行ってもらいました。見つけたらこちらから伺いに行きましょう。馬車の用意をしてきますね」
ルシルの質問ににこにこして答えたアリスは「では少しお待ちください」とルシルに言ったのち、部屋を出たのだった。
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