第27話 保護した子供たちの未来
「ん? また、急にどうして?」
俺は唐突に自分も行きたいと言い始めた王子に疑問に思い視線を向けつつ返事をする。
「私もついて行った方が問題が少なくなると感じたからだ」
問題、ね。俺は視線で話の続きを話すように促した。
「リョウは今、私の父である国王の頼みで侯爵の問題にかかわっている。しかし、いくら国王の頼みとは言えリョウのことをよく知らないほかの貴族たちが見たらリョウのしたことは、やりすぎだとか言われかねない。それに他のものから見てリョウたちは強すぎる。ちょっかいをかけられて泣き寝入りするはずもないからな。他の貴族たちを守るためにも王子である私が関わっていることにして貴族たちの注目を分散させる必要があると感じたのだ」
なるほど。俺たちに興味を持つ貴族たちの意識を分散させて王子が何かしようとしているように見せるわけか。王子にメリットがないわけでもないしな。これに関わっておけば実績も得られる。しかし、俺だけで対処できないわけではない。
「俺の方に来るのは適当に処理するが?」
俺からは何かするつもりはもちろんない。しかし、ティアやリースに手を出されると黙っているわけには行かない。まあ、あの二人をどうにかできる者がいるかどうかは別にして。
「それを対処されると何家つぶされるか分かったものじゃない。先ほども言ったが興味を持ちそうな貴族を守るためでもあるのだ」
ふーん。まあ、いいか。
「わかった。好きにしてくれ。国王さんから俺たちのことは聞いていたんだろ?」
「もちろんだ。こちらからリョウたちに何かするつもりはない」
「じゃあ、行くぞ」
こうして俺は王子を加えて転移したのであった。
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件の侯爵邸へ王子とリースを連れて転移した俺は、とりあえずここでの指揮を執っている騎士のウォリックのところへ向かう。リースは早々に「行くところがあるの!」と言ってどこかに行ってしまった。
「おう。リョウ。思ったより早く来たな……ッ!?」
そう言って声をかけてきたウォリックは俺の後ろにいる王子を見て驚きの表情を浮かべて固まった。まあ、普通そうなるよな。こんなところに来るとは思わないと思う。
「ああ、ちょっとあってな。王子も協力してくれることになった」
そう言って俺は王子に視線を向けた。
「だいたいの流れは聞いている。ここからは私も参加させてもらう」
「はっ! 何なりと申し付けください」
王子の言葉にウォリックは恐縮した様に言葉を返した。こいつこんな態度もできたんだな。まあ、当たり前か。しかし、
「くくっ。似合わねぇ」
俺は思わずウォリックの方を見て笑ってしまう。昨日までの俺たちに対する言葉遣いと比べても大きく変わりすぎていて違和感が大きい。
「ちょ、リョウ!」
「ん? どうした?」
俺の様子を見てウォリックは焦ったような声を出す。何を焦ってるんだ?
「王子殿下の前でその態度はまずいだろう」
ああ、なるほど。そんなことか。
「心配するな。俺は国王さんの前でもこんな感じだ」
俺はにっこりと笑ってそう言い放つ。これでウォリックも安心だろう。しかしそれを聞いたウォリックは
「……っ!?」
絶句していた。え、何かだめだったかな? いや、まさかそんなことはあるまい。俺は相手を見て態度を変えるようなことはしない。
「ウォリックよ。気にしなくていい。リョウ殿たちは例外だ。むしろこの者たちに何かできるものを探す方が難しいぐらいだしな」
俺とウォリックの会話の内容を察した王子はそう言ってウォリックを落ち着かせる。それでもウォリックは心配なのか「いや、しかし……」と困惑の表情を浮かべていた。
「そんなことより、昨日から屋敷の中を探していて何か新たに分かったこととかはないのか?」
ウォリックの様子に話が進まないと感じたのか、王子は話題を変えるようにそう言った。王子に質問されたウォリックは、そこでようやくハッとしてわかったことを話し始める。
「屋敷の中には盗賊と協力関係にあったのか、盗品と思われるものが多数倉庫に押し込められていました。また、盗賊を私兵として使っていたようで多くの盗賊が屋敷内を警備しておりました。さらに書類関係では脱税や商業国の商人との違法取引の契約書と思われるものが多数見つかっております」
どうやらウォリックたちは、俺たちが帰った後も交代で休憩を取りながら一晩中家宅捜査を続けていたようだ。そんなに時間があったわけではないはずなのに今のところでわかっている内容を報告書にまでしていた。王子はウォリックの口頭での報告を報告書を読みながら聞いていき、気になったところを質問していく。
「なるほど。よくまとまっている。お前たち騎士団の働き、しっかり評価させてもらう」
「恐縮です」
話がまとまったのだろう。王子がウォリック達騎士団の仕事ぶりを褒め、ウォリックがかしこまったように返事を返した。
とりあえず。今の時点でウォリックがまとめたのは、私兵として盗賊を使ったり、大規模な盗賊団と協力関係にあったこと。商業国の商人と協力して脱税したり違法なものを取引したりして私腹をため込んでいたことなど、とにかくよろしくないことをしていたようだ。その点も含めて、やつにはしっかり話を聞かなければならないな。
「ところでリョウ」
俺も話を聞いて頭の中でまとめていると、ふとウォリックから声をかけられる。
「なんだ?」
「昨日保護した子供たちがいただろう? 騎士団のとこで預かるのに限界があってな。何とかできないか?」
昨日見つけた子供たちか。何とかといわれてもなぁ。
「俺が何とかできるとしたら国王さんに丸投げになるぞ? ずっと見ているわけにもいかないし」
「うーん。しかしずっとここに置いておくわけにもなぁ」
俺とウォリックがそろって頭を抱えるように呻く。
「身元が分かっている子供はいないのか?」
「子供たちに聞いたところみんな孤児の様です」
話を聞いていた王子が尋ねるとすでに確認はしていたようでウォリックはそう答える。
「それならば孤児院を経営している貴族に余裕がないか聞いて回るしかあるまい」
王子はそう解決策を提示するが問題は
「今も困っているんだろ?」
「ああ、そもそも無理やり連れてこられて弱っているんだ。早くどうにかしてやりてぇ」
確かに騎士たちに守られているとは言え、俺が吹き飛ばした屋敷やらのそばで子供たちが休めるかと言えば怪しいところだろう。とりあえず休めるところを作ってやるべきか。
「王都に子供十数人住まわせても問題ないような家ってあるか?」
俺はふと思いつき王子に聞いてみる。
「さすがに王都は広いからあると思うが?」
答えながらもそれがどうかしたのかと、問うような視線を向けてくる王子とウォリック。
「あとは子供の面倒を見てくれそうな人に心当たりとかは?」
「それなら引退したメイドなどがいるな。もともと王城に勤めていた優秀な者たちがいる」
王子は俺の質問に答えながらもだんだんと俺が考えていることがわかって来たのだろう。それと同時に問題点にも気付いたようだ。
「王都で保護して引退したメイドに面倒を見てもらうとしても、そのための資金はどうするつもりだ?」
「それなら初期投資は俺がしよう。それにいくらかはデルマ侯爵がため込んでいるのを使えばいいんじゃないか?」
俺の提案に王子は「ふむ」と考え込んだ。それに加えてのメリットも提示する。
「王城でもともと働いていたのなら読み書きと簡単な計算ぐらいならできるんじゃないのか? それを子供たちに教えてもらえば子供たちが成長しても仕事に困ることもないだろう。優秀な子がいれば王城で文官として雇えばいいしな」
そう。ここは日本と違い教育を受ける権利も受けさせる義務もない。というよりそんな憲法がそもそもない。法律もその地の領主が決められるような世界だ。一応学校はあるが貴族か裕福な家しか通えないような状況だ。
「やってみる価値はあるな。それでいこう。この件は私にやらしてもらえないだろうか」
王子の中で計算が終わったのだろう。提案した俺に少し申し訳なさそうに言う王子に俺は何でもないように返す。
「好きにしてくれ。流石に俺がずっと見ているわけには行かないしな。それなら王子主導でやってもらった方がよっぽどいい」
「感謝する」
こうして俺たちは子供たちのために新たな孤児院の設立の話をまとめるのだった。
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