第32話 一度戻って
ディール王国の家にあるリビングへと転移すると、そこではウッドがくつろいでいるのが目に入る。そしてウッドは急に現れた俺たちに気付き、驚いた表情を浮かべる。しかしすぐに俺たちが転移を使えることを思い出したのか納得したような表情を浮かべて口を開いた。
「リョウさん、戻って来たんですね」
「ああ、アデオナ王国が思っていたよりも居心地が悪くてな。絡まれまくるのにも嫌気がさしたからこうして次の予定まで戻ってくることにしたんだ。ウッドは今、暇なのか?」
「いえ、今日はもう休んでてもいいって言われたんで休憩しているところです。しかしこの家はすごいですね。アデオナ王国の貴族ですらこんな生活はできていないと思いますよ」
「そうか? まぁ、ウッドが居心地よく過ごせているなら何よりだ」
俺とウッドがそう会話している間にこの家に留守番させていた皆も気付いたのだろう。何人かが近づいてくる気配を感じる。そうして近づいてくるけはいを待っているとすぐに扉が開いた。
「リョウお兄ちゃんおかえりっ!!」
リースがそう言って部屋に入ってきて俺に飛びつく。その後ろからはウルラ達も顔を覗かせている。俺は飛び込んでくるリースを受け止めて、その頭を撫でながら口を開いた。
「ああ、今戻ったよ。問題はなかったか?」
「うん! 何もなかったよ!」
俺の質問にリースは元気に答え、そして俺の手の感触が心地いいのか嬉しそうに目を細めている。俺はそんなリースにアデオナ王国であったあれこれでささくれ立った心が落ち着いていくのを感じる。そしてティアもそんな様子のリースを微笑ましそうな表情で見ているのだった。
それからしばらくリースから話を聞き、ひと段落立った頃。俺は立ち上がりティアやそのそばにいるウルラ達に視線を向けて口を開いた。
「さて、ティア。俺は約束通り夕食を作ってくる。できるまでは適当に過ごしていてくれ」
「わかったわ」
「ウルラ達も今日は俺が作るから休んでいてくれ」
「お手伝いしましょうか?」
「いや、今日は俺だけでいいよ。ティアとの約束もあるしな」
「分かりました」
ウルラ達が俺の言葉に素直に頷いてくれたのを確認すると、俺はそのままキッチンの方へと向かい夕食の準備をするのだった。
「ごちそうさま」
「お気に召したかな?」
「ええ」
俺の問いかけにティアは満足そうにして返事を返してくれる。
夕食を食べ終わった俺たちはリビングにて食休みをしていた。今この場には、俺、ティア、リース、ラピス、ウカ、そしてウカの部下であるキコとヨウ、さらにはウッドがそろっていた。ウルラ達は「せめて片付けは」というのでそれを任せたためこの場にはいない。俺はここに皆がそろっているためちょうどいいと思い口を開く。
「今、皆がここにいる間に明後日のことを話し合っておこうと思うんだけどいいか?」
「ええ」
俺の言葉にティアが短く答え、さらに他のみんなも特に問題はないと頷く。俺はそれを確認して言葉を続けた。
「まずウカ達は明後日にアデオナ王国の王城で王族に会うんだよな?」
「はい、そうしてもらえるように話を通してきました」
「そこに俺もついていきたいと思ってるんだができるか?」
「それは問題ないと思いますけど、どうしてですか?」
「そうだな。理由としては王城に直接入って王族がどんな感じかを見ておきたいと思ってな。あとは適当に離脱して情報収集かな」
「分かりました。護衛としてついてこれるように当日に話しておきます」
俺の話した理由に納得してくれたのか、ウカは頷きながら言葉を返してくれる。
「助かるよ。それとティア。ティアにはその日、何かあったらすぐに動けるように宿で待機しておいて欲しいんだけどいいか?」
「わかったわ。私もこの騒動を早く終わらせたいし、協力するわ。待機しているだけでいいのかしら?」
「そうだな。基本は俺だけでも何とかなると思うが俺たちが取っている宿に誰か手を伸ばしてこないとも限らないし、手を出されたら遠慮なく潰してやろう。俺もいい加減疲れてきたしな」
「それはいいわね。それなら喜んでやるわ」
俺の言葉に嬉しそうに笑って返事をするティアを見て、俺は少し焚きつけ過ぎたか心配になった。ただ、俺としても疲れてきたのは本当だしまぁ、いいか、という風に自分を納得させる。やる気の状態のティアを相手にすることになる人は大変だろうな。しかしそれも俺たちに手をだして来なければ何も問題ない。
俺とティアの会話を聞いていたウカが顔を引きつらせて口を開いた。
「あまりティアさんをやる気にさせないでくださいよ。アデオナ王国の王都が廃墟になりませんか?」
「俺たちに手を出そうとする奴がいないことを祈っているよ」
「祈らないで抑えてくださいよ」
「俺には無理だ」
俺とウカがそんな会話をしているとその内容が不満だったのか、ティアが少しふてくされたようにこちらを見て口を開く。
「あなたたち少し失礼じゃないかしら?」
「「気のせいだ(です)」」
俺とウカの言葉が重なりそれに対してティアがさらに不満そうな表情を見せる。
そんな会話をしながら俺たちは話を進めていき、当日の動きについて計画を立てていくのだった。
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