第41話 商業国の中枢①
子供たちに朝ごはんを食べさせ、リースとティケに今日一日のことを任せると、俺はティアとマリーを連れて商業国のベイクの店に転移した。
「昨日ここにベイクを放置したんだが、まだ寝てるな」
俺はそう言って店内に転がっているベイクに視線を向ける。
「へえ、こいつが」
ティアがそう呟いてマリーと共に殺意を漏らす。普通に怖い。
「まあ、まだ殺すのは待ってくれ。こいつの上にもまだいるのがわかっているんだ。それを潰してからでも遅くはないだろう?」
俺は今にも殺してしまいそうな二人を止めてベイクを起こしにかかる。
「おい、起きろ」
そう言ってベイクにかけていた魔法を解く。ほどなくしてベイクはゆっくりと瞼を開けた。
「ひっ」
ベイクは俺の顔を見るなり短く呼吸を漏らす。そして殺意にあふれているティアとマリーに気付いてさらに怯えた。
「今日はお前にサプライズだ。お前が目玉商品と言っていた吸血鬼の子がいただろう? そのお仲間だ」
俺はそう言ってベイクにティアとマリーを紹介した。二人は吸血鬼の牙をむき出しにして殺意を隠さずに笑う。ウルラは力のない少女だったからまだよかった。しかし俺が連れてきたのはそんなレベルの吸血鬼ではない。ティアたちを見たベイクはより恐怖と絶望を感じた様でガタガタと震えだす。
「今は俺が頼んで殺すのを待っている状態だ。賢いお前ならどうすればいいかわかるだろう?」
俺はベイクに向かって優しくそう言い聞かせる。ベイクは震えながらも首を縦に何度も振っていた。
「さて、俺はこれからこいつを使って上にこの国の上位の者を潰そうと思う。こいつには証拠になりそうなものを提供してもらって、この国の方向性を決める会議の場で証言してもらおう。ちゃんと協力したら俺からは何もしない。分かったか?」
俺はベイクにそう問いかける。ティアとマリーは俺の言葉の意味に気が付いたようだ。
「わ、わかった」
ベイクは震えた声で返事をした後、今までやって来た悪事の証拠になりそうな書類や契約書、そして上のやつからの指示書の場所を吐いたのだった。
証拠品をベイクの言うとおりに集めていき、ある程度たまったところで俺はベイクを引きずってこの国中央の会議所の前に転移をする。会議所の入り口前にいきなり現れたのを見た警備兵が驚いたように見ていた。
「な、何の用だ? それに何を引きずっている」
警備兵は驚きながらもそう問いかける。職務に忠実なようで何よりだ。そして俺が引きずっているものに気付く。
「ああ。これはベイクっていう名前が付いた何かだ」
俺はちらりとベイクに視線を向けた後、そう答えた。
「ベイクって……。中堅の中でも大きい方の商会の頭じゃないか! 何をやっている!」
警備兵は俺の返事に怒りをあらわにして剣を抜いた。
「あ、そう言うのいいから」
俺はそう言うとあっさり電撃を浴びせて警備兵を気絶させた。そしてベイクを引きずったまま会議所の中に入っていく。会議所の中を移動する中で人を引きずっている光景はなかなか異様に映るだろう。俺たちは途中途中で声をかけてくる警備兵を無力化しながらこの会議所の中枢に進んで行った。
やがて行き着いたところには警備兵が門番のように入り口をふさいでいる扉の前だった。
「今は会議中だ。何の様で来た?」
警備兵は警戒した様に誰何した。
「ちょっと中にいる人たちに用事があってね。通してくんない?」
俺は軽く聞いてみる。
「だめに決まっているだろう!」
警備兵はそう言って警戒感をさらに高めたようだった。
「いたぞ!!」
すると後ろから警備兵の増援がやってくる。道すがら無力化した者たちに気付いて追ってきたのだろう。
「ティア。頼んでいいか?」
「ええ」
俺は短くティアに無力化を頼み、前方にいる警備兵の方に向きなおした。
「ちょっと用事澄ましたらすぐに帰るから。ごめんね?」
「ぐわっ!!」
俺はそう言いながら警備兵に電撃を浴びせ無力化した。警備兵は短い悲鳴を上げ、そのまま崩れ落ちる。後ろからもティアによる攻撃で悲鳴を上げながら倒れる音が聞こえてきた。
「何事だ!?」
外の音に気付いたのか怒鳴りつけるように声が聞こえた後、俺の前方の扉が乱暴に開いた。そして扉を開けた男と目が合う。
俺はいつの間にか戻ってきていたティアとマリーに視線を向けた後、目の合った男に話しかけた。
「どうも、初めまして。リョウと言います。ちょっとクレームをつけに来ました」
俺はそう言って男に笑いかける。
「そのキャラ何なの?」
ティアが呆れたような怪訝そうな表情で呟いた。マリーは無駄に怖いスマイルで表情が固定されていた。
「この惨状はお前たちがやったのか? それに手に持っているのは……足? おいお前、誰を持っている?」
男が俺の周りや持っているもの、そして背後に倒れている警備兵たちを見てそう問いかける。
「ええ。少し強引に迫ってくるものですから。あと言ったでしょう? クレームをつけに来た、と」
俺は何でもないことのようにしれっと答えて本題に入る。
「さて、中にいる人たちと少々お話させていただきますね」
そう言って俺たちは無理やり扉の奥に押し入ったのだった。
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