第5話 出発の前日②
王城を出た俺たちはそのまま冒険者ギルドに向かった。
「あのエルフを一度半殺しにしてもいいのよね?」
ティアがなぜか嬉しそうに俺がすでに同意している体でそう言った。
「いいわけないだろ」
俺は思わずそう突っ込んだ。なんでだよ。
「じゃあ、私はどうしたらいいのよ?」
ティアは頬をぷくっと膨らませて不満げにそう言った。
「おとなしくランクを上げてもらって帰るぞ」
俺はティアにジト目を向けながら端的にそう言った。さすがに半殺しは許可しないよ。
「ふーん。じゃあもういいわ」
興味を失ったようにそう言ったティア。頼むから大人しくしていてくれよ。
俺たちはそんな会話をしながら歩いて行き、ギルドの入り口に到着したのだった。中に入るといつもの受付の方に向かう。受付には昨日と同じ受付担当の人が座っていた。
「あ」
受付の人は俺の顔を見るなりそう声を漏らした。
「ギルドマスターに呼ばれてるから連絡をお願いしてもいいか?」
「は、はい」
受付の人は若干顔が青ざめさせて震えた声で返事をした。なんか怖がらせるようなことしたっけ? 俺は不思議に思って首を傾げた。
「リョウお兄ちゃん何かしたの?」
リースも不思議そうに俺を見てきてそう言った。
「さあ? さっぱりだ」
俺は心当たりがないことをリースに伝える。まあ、仕事をしてくれればいいや。
「とりあえずよろしく」
俺は気にしないことにしてギルドマスターへの連絡を頼んだ。その間、ティアはなぜか何も言わなかったのであった。
「とりあえず座って頂戴」
ギルドマスターの部屋に通された俺たちはミリエラにそう言われた。
「じゃあ、失礼して」
「わーい」
俺がそう言った後にリースが楽しそうに座った。なんか最近自由だな。そしてティアが無言で座る。
「とりあえずカードを出してもらってもいいかしら。更新を先にやってしまうわね」
「ああ、わかった」
ミリエラに言われるがままに俺とティアはギルドカードを出して渡す。ミリエラはそれを受け取るとついてきていた受付の人にカードを渡して手続きを頼んでいた。
「それであなたたちの次の行き先はどこだったかしら?」
唐突にミリエラがそう聞いてくる。
「商業国だが?」
俺はなぜ聞くのか疑問に思いながら答えた。
「そう。あそこなら大丈夫かしらね」
ミリエラはそう言いながら封筒に入ったものをこちらに渡してきた。俺はそれを受け取って内容を聞く。
「これは?」
「それは私が書いたあなたたちの身分証みたいなものよ。ギルドで困ったことや絡まれたりしたらそのギルドのマスターに渡してちょうだい」
なるほど。一応いろんなフォローはしてくれるつもりなんだな。昨日はいろいろ言われた気がするが。
「そうか。まあ、ありがとう。有効に使わせてもらうよ」
「ええ。そうしてちょうだい。くれぐれも、絡まれたからって喜んで皆殺しとかはしないでほしいわね」
ミリエラはそう言って俺たちに釘をさしてきた。
「相変わらず俺たちのことを何だと思っているんだよ」
俺は思わずため息交じりにそう言った。俺は殺人に喜びは覚えてねぇよ。
「どっちかというと主に吸血鬼の方に言っているんだけどね」
「だってさティア」
「わかったわ。何かするときはまずこのエルフを滅ぼしてからにするわね」
ミリエラの言に俺が便乗すると、ティアは何やら物騒なことを言い始めた。
「どうしてそうなった」
俺はそう突っ込みを入れる。
「だってリョウ。さっきからこのエルフはなかなか失礼よ?」
ティアはそう言って不満を漏らす。まあ、そうなんだが。
「だから一度、身の程をわからせてやる必要があるのよ」
ティアはそう言葉をつづけた。あ、さっきから言葉少なめなのキレてんのか。わかりずらい。リースが少し離れて座りなおしていた。危機管理能力高いな。そして直接ティアの怒気と殺気を浴びたミリエラは少し震えていた。
「ティア、一回落ち着こうな?」
俺はそう言ってティアを撫でる。それだけでティアは少し落ち着いたようだ。
「まあ、いいわ」
ティアは興味をなくした様にそう言って座りなおした。落ち着いてくれてほっとしたよ。
ほどなくしてノックの音が聞こえる。ミリエラが「入りなさい」と伝えると先ほどカードを持って行った受付の人が入ってきてミリエラにカードを渡した。
「こ、これが更新したカードよ。間違ってないかの確認だけお願いね」
そう言って渡されたカードを確認する。うん、Aランクになっていてそれ以外の記入事項に間違いはなし。ティアの方も大丈夫そうだな。
「大丈夫みたいだ」
俺はそう伝える。
「じゃあ、用事はそれで終わりよ」
ミリエラはそう言ってこちらを見る。はいはい、帰れってね。
「じゃあ、帰るよ。いろいろありがとな」
俺はお礼を言って立ち上がる。ティアとリースは何も言わずに立ち上がった。
こうして俺たちはギルドを後にし家に帰る道すがら、「明日はついに旅に戻れるな」と明日のことを考えていくのだった。
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