第2話 地図に書かれていたこと

 ウッドの住んでいた家にいつでも転移で移動できるように細工をした後、ウッドをディール王国にある俺の家へと送り届けそのまま俺はティアたちのいる宿へと戻って来た。部屋に戻って見てみると、ティアたちは未だにウカの持ってきた地図を眺めている。


「何かあったのか?」


「あ、リョウさん。戻ってたんですね」


 俺が声をかけると、それにウカが顔を上げて説明してくれる。どうやら俺がウッドを迎えに行っている間にもさらに発見があったようだ。ティアの知っている魔法を使えば追加で情報が出てくるようになっていたらしい。


「で、その魔法で文章が出てきたわけか」


「はい。でも私じゃ読めなくて……。今はティアさんがいろいろ試しているみたいなんですけど」


 俺はティアの方へと視線を向ける。そこには魔法により浮き出てきた文字を何とか読もうとして考え込んでいるティアの姿が目に映る。俺はそんなティアに近づいてその地図を覗き込みながら声をかけた。


「どんな文字が書いてあるんだ?」


「見ての通りよ」


 俺に対してティアは短く答え、見やすいようにスペースを空けて見せてくれる。


「どれどれ……っ!?」


 俺は書かれている文章を見て、小さく息を呑み込み黙り込む。そんな俺の反応にティアとウカは不思議そうにこちらを見た。


「どうかしたの?」


「これ俺の知っている文字だ……」


「え?」


 俺はその地図に書かれている文章をしっかりと読むことが出来たのだ。なにせそこに書かれている文に使われていた言語は日本語なのだから。


「では、リョウさんはその文章が読めるんですか?」


「読めるどころか書けるし、話せる。てか、今もティアに最初に会った時に使ってもらった翻訳の魔法がなければ、皆と話せるようになるかも分からなかったしな」


「そう言えばそうでしたね」


 俺の言葉に忘れていたと言う風に苦笑しながらウカが答える。それに対して俺も苦笑しながらも再度地図に向かって視線を落とす。


「それにしてもなんでここで日本語で書かれているんだ?」


「そう言えばなんて書いてあるんですか?」


「そうだな、遺跡の奥に関すること、なのかもしれないな」


「えらく曖昧なんですね」


「そう推測するしかないぐらいの情報しか書いてないんだよ」


 俺は曖昧になった答えに苦笑しながらウカに話す。そしてふと疑問に思ったことをティアに尋ねた。


「ティアはこの文章を読むのに翻訳の魔法は使わなかったのか?」


「勿論使ったわよ。でもこの文章を書いたワトスは丁寧にそれに対策していたみたいなの。弾かれたわ」


 俺の質問にティアは表情を苦いものに変えて答える。


「それにしてもなんで日本語にしたんだろうな」


 俺は地図を見ながらそう呟く。何度文章を読んでも対して重要なことが書いてあるようには見えなかった。しかし、ここでわざわざ日本語を使ったのは何か意味があるのではないか、そう考えてしまう。そこで俺はふと思い立ちティアの方に顔を向ける。


「他の地図にも何か文章は出てきたのか?」


「あ、そう言えばあったわ」


 俺の問いに対してティアは短く答えると、そのままいくつかの地図を手渡してくれる。俺はそれを受け取って文章を読んでいく。そしていくつかの文章を読んだ後、俺は黙り込むことになった。


「どうかしたの?」


 俺の様子にティアは不思議そうな表情で顔を覗き込んでくる。それに俺はハッと気づいてティアに視線を合わせ、苦笑した。


「いや、大したことじゃない。この文章にちょっと異世界に関することが書かれていただけだ」


「それは大したことでしょうに」


「そもそも俺がここにいる時点で異世界がどうとかは分かり切っていることだ。それの情報が少し増えただけだ。しかもこれが書かれている文字は俺の母国語だ」


「そう言われればそうなんですが」


 俺の言葉にティアとウカは苦笑して答える。そもそもそこまで深く考えても分からないものは分からない。俺は気を取り直して二人に向き合って口を開く。


「なんにせよ、不思議なことはありそうだが行って見ないことには分からないだろうしな。こういうのを含めて観光しに行こう」


「リョウがそれでいいならそれでいいわ」


「そうですね」


 俺の言葉を聞いてティアとウカは一応の納得の表情を見せる。そんな反応の二人を見て俺は再度口を開いた。


「まぁ、気になることは気になるんだけどな。それを含めても現地に見に行った方が早いと思っただけだ」


「それもそうね」


 追加した言葉に今度はしっかりと納得した表情を見せた二人を見て、俺は少し安心する。これ以上深堀されなくて助かった。何故ならワトスが書いたと思われる日本語の文章には、異世界への行き方と思われるものも含まれていた。今更この二人やリース達俺の仲間に知られても困ることはないだろうが、それでも黙っていた方がいいと思える。


「それじゃ、明日以降どこから行くか考えようぜ」


「そうね」


「はいっ!」


 俺の提案にティアとウカがそろって返事を返してくれる。俺はそれを見て一つ頷くと二人と明日以降のことを話し合うのだった。

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転移した男の気ままな旅 mk @mzkksmt

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