第38話 商業国の悪徳商人 ベイク
ウォリック達のところを後にした俺はそのまま商業国の首都に転移した。
「さて、バスクの拠点はどこかな?」
俺はそう呟きながらバスクから聞いた特徴を探しながら歩いて行く。やがてその特徴と合致した店の前に到着する。しかし、その店には既視感があった。
「ここ、ティアが言ってた場所じゃん……」
そこは商業国に着いた時に見た、ひどく老朽化が目立った店舗だった。
「ここで見たときにはもうフラグが立っていた、ということか」
俺はその事実に少しショックを受けながらもその店に入っていく。老朽化で壊れそうな扉を開け、店の中に入ると以外にも店内は小ぎれいにしていた。
「いらっしゃいませ。どのような御用で?」
店に入った俺に声をかけてきたのは、いやらしい笑みを浮かべた小柄な男であった。
「バスクってやつから聞いてきたんだ。お前がベイクでいいのか?」
俺はさもバスクから紹介を受けたかのように話す。俺の質問を受けて、男は笑みをより一層いやらしくした。
「はい。私がベイクですよ。バスクからの紹介ですか。そうですか。いいでしょう。案内します」
男は俺の質問に答えた後、そのまま俺を案内しようとする。そして、男に連れられて向かった先は案の定、地下室だった。地下室の入り口には丈夫そうな錠がしてあり、さらに武器を持った警備が二人立っている。
「ベイクさん、そちらは?」
警備の一人がそう質問する。
「客ですよ。バスクからの紹介だそうです」
「ほほう。バスク様からの紹介。そりゃすごい」
どうやらバスクはよっぽど上の立場にいたらしい。奴の名前を出しただけでこの反応だ。
「では、カギを開けますね」
ベイクはそう言って懐から鍵束を取り出し、大きな錠に差し込んで解錠する。思っていたよりも広い空間があり、その両サイドに鉄格子がはめられている。そして案内された地下室の中は酷いものだった。
「ここにあるのは私の自慢の奴隷たちです。エルフ、獣人、珍しいものをそろえています。そして何よりの目玉は、今はもう珍しい吸血鬼です!!」
ベイクは自慢げにそう語り、一人ひとり紹介する。十代後半くらいに見える少女であった。合計で5人。そして少女たちはみな、何かに諦めたような目をしていた。
「ああ、すばらしい」
俺はそう呟く。
「そうでしょう。そうでしょう」
ベイクは俺のつぶやきが聞こえたのか大仰に頷いて返事をした。
「ああ、素晴らしく――酷い」
「は?」
俺が何と言ったのか、ベイクは分からなかったのか疑問の声を出す。
「ここにいるあなたの商品たちは、確かにあなたの自慢のものでしょうよ。でも、俺にとってはどうしようもなく価値がないな」
「どういうことです?」
俺の語りにベイクが不満の表情を浮かべてこちらを見る。
「この商業国は様々な自由を掲げていると聞いていた。素晴らしいな、自由って。何をするにも自由だ。だが、自由には責任が伴わなければならないはずだ。そして、他者の自由を奪っていい理由も当然ない。さて、お前は他者の自由を奪って自由に商売した責任をどうとるつもりなのかな?」
ベイクは俺の言った意味が徐々に分かって来たのか、怒りで顔を赤くした。
「あなたはバスクの紹介で来たのではないのですか?」
裏切り者を見るような目でこちらを見たベイクはそう言った。
「いいや。俺はバスクから聞いてこの店に来たと言ったぞ。王国で捕まえたバスクから……な?」
俺の言葉を聞いたベイクはハッとして叫ぶ。
「誰か来い!! こいつを始末しろ!!!」
ベイクの叫びを聞いた地下室の入り口に立っていた警備の一人が剣を抜いた状態で降りてくる。
「兄ちゃん。バスク様の商会だっていうのにいったい何をしたんだ? まあ、諦めて死んでくれや」
降りてきた警備がそう言って俺を切り捨てようとする。
「ちょっと、自由と責任について語っただけだ」
俺はそう言いながら警備の後ろに転移してベイクの方に蹴り飛ばす。
「!?」
「グッ!」
警備の男は自分が抵抗されて攻撃を食らうとは考えていなかったのか、反応できずにバスクの方に吹っ飛ぶ。また、ベイクも飛んでくる警備の男に反応できずに重なるように倒れる。
「何があった!?」
上からもう一人の警備の男が騒ぎを聞きつけて降りてくる。俺はそいつに電撃を浴びせて気絶させるともう一人の警備も気絶させて無力化した。
「さて、残りはお前だけだが?」
俺はベイクに向かってそう言って蹴りを入れる。そして無理やり引きずって地下室から出る。
「……何が目的だ?」
引きずられていたベイクは俺を睨みつけながらそう言った。
「ただ、王国で起こった犯罪行為に対して依頼を受けただけだよ」
俺はため息を吐きながら言う。
「それでは質問タイムと行こうか。お前はだれの指示でここまでのことをやらかしたんだ? 隠れてやっているといってもこの規模になるまで自前ではないだろう? それともこの商売はそんなに儲かるのか?」
俺がそう質問するとバスクは目を逸らしてだんまりを決め込んだ。
「答えなくていいのか?」
「誰が言うかっ!」
俺がそう聞くとバスクは食い気味にそう叫ぶ。
「そうか」
俺はそう短く相槌を打つとおもむろに剣を取り出し、右足を切り飛ばした。
「があああああああああああああっ!!」
いきなり右足を切られたバスクは痛みに叫ぶ。俺は切り口を焼いて素早く止血した。
「あと三本あるからもうしばらく黙っていてもいいぞ?」
俺はそう言って見せつけるように剣をあてがう。
「わかった! 言う!! 言うから!!!」
ベイクは焦ったようにそう言って俺の質問に答え始めるのだった。
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