第32話 フローレス辺境伯領へ
翌朝、俺は起きてティアとリースの朝ごはんを作った後、自分はさっさと出かける用意をしてアリスの家に向かった。
「おはよう」
俺はアリスの家の客間に通されてしばらく待っていると準備を終えているアリスが入ってきたため声をかける。
「お待たせして申し訳ありません。おはようございます」
アリスも遅れて挨拶を返してくれる。
「ルシルは?」
「もう少しで来ると思います」
「そっか」
俺はルシルがいないことに疑問を覚え、アリスに聞くと返事がそう帰ってくる。それからもう少し待っていると
「お待たせしました」
と、息を切らしたルシルが部屋に入ってくる。
「そこまで待ってないから大丈夫だよ。とりあえず落ち着いて」
俺は焦っているルシルを落ち着かせるように声をかけた。そのあとに続いて護衛の人とアリスのメイドさんであるカノンさんも部屋に入ってくる。
「これで全員かな?」
俺は部屋にいるみんなを見渡してそう言った。
「はい。これで本日移動する人は全員です」
ルシルがそう言うのを聞いた俺は一つ頷き話し始める。
「じゃあ、移動方法は秘密でお願いね。さっそく行こうか」
俺はそう呼びかけアリスの家の庭に出た。俺の後に続いてみんながぞろぞろとついてくる。
「じゃあ、行くよ」
俺はみんながいるのを確認した後、フローレス辺境伯領のギースのもとに転移したのだった。
俺は転移先をギースの目の前にした。そのため急に俺たちが目の前に来て驚きに目を見開き固まっているギースがそこにはいたのだった。まあ、こちら側の何人かも急に自分が見ていた風景が変わってきょろきょろしているのだが。
「よっ!」
俺は驚きで固まっているギースに軽く右手を上げ声をかける。
「よっじゃねぇよ! 急になんだ? どうなってやがる?」
ギースはまだ混乱から立ち直っていないようで矢継ぎ早に質問してくる。俺はそれが面白く感じてさらにふざける。
「来ちゃった☆」
「な、え......」
「リョウ様。お父様をからかうのはその辺にしといてください」
アリスにそう窘められ俺はおとなしく黙る。
「お父様、ただいま帰りました」
「あ、ああ。おかえりアリス」
何事もなかったかのように帰ったと挨拶するアリスに何とか返事を返すギース。そしてギースは少し落ち着いたのか俺たちに視線を戻し、気付く。
「ルシル王女殿下!? これは気付かず大変失礼しました!!」
土下座せんとばかりに頭を下げて謝るギース。
「いえ、急に来たこちらが悪いのですから気にしないでください」
ルシルもギースの勢いに飲まれ苦笑しながらそう言った。
「それで......どういった御用で?」
ギースは椅子を出したりいろいろな指示を屋敷の使用人に言いつけながらそう聞いた。
「本日こちらに伺った要件なのですが帝国に関する情報がこちらにないかと思ったからです。この地はいろいろな場所から商人が集まりますからね」
ルシルはそう言って説明した。
「なるほど......。帝国に関する情報ですね。少々お待ちいただいても?」
「かまいません」
ギースはそう言ってルシルに許可をもらうと部屋を出て行った。
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リョウ達がフローレス辺境伯領に向かった一方。王都に残っていたティアとリースはリョウが準備した朝食をとったあと、物資が足りなくなり閑散としている王都を散策していた。
「......ティアお姉ちゃん。今日は何するの?」
ふと黙ってついてきていたリースがティアに向かって口を開いた。ティアはリースに問われ「んー?」と少し考えた後に答えた。
「変な人がいないか見て回る......かしら?」
特に考えてなかったようで疑問形でそう答えるティア。リースも最初程、ティアに怯えることはなくなったとはいえ、まだ二人きりは苦手らしくそれっきり何も言わなかった。
無言の状態で二人の散策は続いていく。ふと王城の方を見ると民衆が集まっているのが見える。
「......あれは」
よくよく見ると民衆はみんなして何やら怒声を上げている様子だ。
「おい! 生活に必要なものがこっちは足りてねぇだ! 国からは何もないのか!!」
「食べ物が足りないの! 何とかしてください!!」
民衆は口々に王城に向かって自分たちの現状を叫ぶ。門番さんたちは中に入ろうとする勢いの民衆に気おされながらも押しとどめている。
「これはそろそろまずいわね。時間はもうないわよ......リョウ」
そうつぶやいたティアはリースを連れてその場から立ち去ったのだった。
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