第33話 次の手は
しかし、どうしたものか。俺はラピスをじっと見て考え込むように腕を組む。
今のところ、ラピスについてわかっていることは少ない。デルマ侯爵が商業国の商人に何も知らされずに渡されたと言うくらいだ。これでは何も知らないと同義である。
「結局、ラピスを連れてきたという商人を探すしかないのか」
俺はそう呟いてティアや王子の方を見る。俺に視線を向けられた二人も同意するように頷いた。
「明日ウォリックに押収した書類の中から手がかりがないか聞いてくるよ」
「それがいいだろうな」
俺が出した明日の行動指針に王子が賛同する。こうして、今後の方針とも何とも言えないような結論を残して今日のところは話し合いを終えるのだった。
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帰るという王子を王城に転移で送り届けた俺は自分の家に戻ると、そこには出たときと変わらない状態でいるティアたちがいた。
「おかえりなさい、リョウ」
戻って来た俺にティアが気付いて声をかけてくる。
「ああ、ただいま。マリーと話してたのか?」
「ええ、久しぶりに会ったのだもの。話の内容があんなものに飛ぶとは思わなかったけれど」
ティアは王子さんがいたときの会話を思い出したのか少し赤くなってそう言った。正直なところ普段見れないティアというのもなかなかいいものではあったが、やはり話が進まないのもどうかと思う。
「その話はとりあえず今、関わっている件が落ち着いてからにしよう。それでいいだろ?」
「え、ええ」
俺の提案にティアはほっとした様な、それでいて少し不満そうな顔をする。どうしろってんだよ。そしてラピスが相変わらずティアの膝の上に乗り、マリーが俺たちの会話を聞いてにこにこしている。
「それよりもラピスのことなんだが……」
俺は無理やり話題を変える。そしてそう言ってラピスの方を見るとラピスは首をかしげるしぐさをした。
「ラピスはどうしたい? しばらくほかの子供たちと一緒にマリーのところで過ごすか?」
「や」
俺がラピスにそう聞くと首を横に振るのでもなく短くそう返事をした。そして決して離れる者かといわんばかりにティアにしがみつく。
「あらあら」
それを見たマリーが微笑ましいものを見たというように笑いながらそう言った。しがみつかれたティアは困り顔であったが。
「ティアお姉さまは随分となつかれましたね」
そう言ってマリーはティアにしがみついているラピスを撫でる。仕方ないか。
「じゃあ、しばらくティアとリースは子供たちの方をマリーと協力して頼む。俺はその間に手がかりを探す、というのでいいか?」
俺はそう提案してみんなを見る。ティアとリースはそろって頷いたのだった。
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翌日。みんなの朝食をマリーと共に用意した俺は、子供たちをティアやリース、マリーに任せて王城の方に顔を出しに行った。
「おっす! 元気か!」
そう言って国王さんの仕事をしているところに飛び込んでいく俺。急に来た俺に国王さんはぽかんとしていた。
「リョウ。お前はもう少し何とかならんのか?」
国王さんは頭が痛そうにこめかみをぐりぐりしていた。
「無理だな」
俺は自分でそう言い放つ。この異世界に来てからだいぶフリーダムになった自覚はある。が、ティアほどではないだろう。
「自分で言ってたら世話ないだろうに……」
国王さんの諦めたようなため息を聞きながら俺はさっそく本題に入った。
「そんなことよりさ、王子さんちょっと借りてもいい?」
俺がそう言うと国王さんは疑問の表情を浮かべる。
「何をするつもりだ?」
「ちょっと聞きたいことがあってな」
俺が先ほどのふざけた態度から変わってまじめに言うと国王さんも態度を改めてこちらを見る。
「今、昨日リョウが提案した孤児院のための屋敷を見に行っている。場所を教えるから好きにしていい」
国王さんがそう言うと広い敷地があり、空いている物件のリストを渡してきた。
「ここに書いてある物件のうち、どこかにはいるだろう」
「あ、探せと」
俺は国王さんの若干投げやりな雰囲気に苦笑しながらリストを受け取った。
「じゃ、行ってくるわ」
俺はそう言って国王さんのところを後にする。そして、探すのに五分もかからなかった俺は、王子の気配のある場所に転移する。しかし、転移した場所が悪かった。
「!? 誰だっ!!」
王子のすぐ後ろに転移した俺は、一瞬で反応した王子の護衛に切りかかられる。なるほど、王子の護衛をするくらいだ。すごい反射神経をお持ちの様で。切りかかってくる護衛の剣を避けながらそんなことを考えていると、避けられ続けて頭に来たのか魔術の呪文を唱えながら突っ込んでくる。
「よ、よせ!」
王子は俺の正体に気が付いたのであろう。てか、顔を隠しているわけでもないし見て気付いたのだろう。護衛に制止の声をかける。しかし、頭に血が上ってしまった護衛には聞こえていなかった。しかし、この世界の護衛をしている人ってキレ安い人が多くないか? まあ、仕方ないか。今回は俺が悪い。
「グッ!?」
一瞬で近づいて軽く電撃を流す。それによって剣を取り落とした護衛はハッとなって周りを見渡した。少しは冷静になれたのだろう。
「リョウ殿! いきなり後ろに出てこないでいただきたい」
護衛が落ち着いたのを見た王子がこちらを見て苦言を呈する。
「いや、わるかったよ。そっちの護衛さんもな」
俺はそう言って軽く謝る。護衛なら、護衛対象の近くに正体がわからないやつが来たらそう動かざるを得ないもんな。
「ほんとに肝が冷えた。私の護衛が魔術を詠唱し始めたときなんかは特にな。護衛が殺されるかと思ったぞ」
王子の俺に対する評価に不満を感じざるを得ない。そして護衛の表情も俺に負けると王子に言われて不満を感じているようだ。
「失礼な。俺はそう簡単に殺したりしないぞ」
俺は失礼な王子にそう返す。護衛の方は俺の発言に若干頭にきたようだったが何も言わなかった。今度は表情にも出していない。すごい精神力だ。
「そんなことより、何か用があったんじゃないのか?」
ため息を吐き、呆れた表情をした王子は話題を変えるようにそう言った。
「そうだった。ちょっと聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと?」
「ああ。商業国の商人でつてはないか?」
「む? そう言うのは父上に言えばいいだろうに」
「確かにそれでもいいんだろうけどな。国王さんが相手にするような商人って結構大きい商会とかだろう? だからそこそこレベルの商会を教えて欲しいんだ」
俺が王子に聞いた理由を説明すると王子は納得の表情を浮かべた。
「わかった。明日までに商会のリストと紹介状を書いておこう。家に届けさせる。それと同時に子供たち用の屋敷の場所も教えるから連れてきてくれないか?」
「了解」
王子の返事に俺は返事を返し
「じゃ、ウォリックのところに行ってくる」
と、言い残して転移したのだった。その場には王子と護衛だけが残されていた。
「殿下。あのものはどういったものなのですか?」
「聞くな。触れてはいけないものだ」
「……」
俺は俺の知らないうちにアンタッチャブル扱いされているようだった。
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