第41話 隠し部屋の入口

 俺たちの前に立ちふさがった大柄の男を寝かしつけることに成功した俺は、その場で寝ているのをほっといて先へと進む。それからもたまに現れる敵を無力化したり、人がいる気配を探して向かって行ったりしてハラハンやハシームを探す。そして俺たちはついにアデオナ王国国王ハシームが隠れているであろう隠し部屋の入り口を見つけることが出来た。


 その部屋の入り口は隠し扉になっていて普通に部屋を見回しても見つからないようになっていた。しかしその見つからないようにするために魔術を使っていたらしく、そこだけ不自然な魔力の流れが出来ていてために俺やティアの目を誤魔化すことは出来なかったのである。


 俺たちはその入り口を見つけるとそれぞれ顔を見合わせる。そして俺はリースに視線を向けると口を開く。


「リース。とりあえず見つからないように中を見てきてくれるか?」


「わかったの!」


 俺の指示にリースは元気に返事を返すと、そのまま入り口を開けずにスーッと向かって消えていく。ティアから魔法を教えてもらってからのリースはただのゴースト少女ではなくなり、もはや何でもありになっている。ゴーストとして浄化されることにも耐性がついているし、気配を消せば俺たちも真剣に探さなければいけないほどだ。


 そんなリースを見送って戻ってくるのを待つ間、俺たちは苦笑して口を開く。


「リースってもしかして敵なしじゃないか?」


「そうね。多分、魔の森のアンデッド系の魔獣よりもはるかに強いと思うわよ。今のところリースを倒す確実な方法はもうないのだし」


 俺の言葉にティアが微笑んで答える。ティアはリースに直接魔法を教えたこともあり、その成長ぶりが嬉しかったのだろう。確かにリースは最初に会った時より大きな成長を遂げている。それに加えて、リース本人の努力もあり、今だ上限が見えていない。そして現状、俺たちの中で偵察向きなのはリースのみだし、何も対策せずに中に入っても問題ないことが多いが、やはり情報があったほうが安心感が強い。そう言う意味でもリースは頼りになる存在だった。


 そんな俺とティアの会話を呆れたように見ながらウカが口を開く。


「リョウさんの周りにはおかしい人ばかりですね」


「お前もその一人だぞ?」


「なっ!? 私は普通ですよ!?」


「そんなわけあるか。どう考えても普通じゃないだろ? 普通と言っていいのはお前の商会の従業員ぐらいだ」


 俺の返事に不満そうにするウカはとても200歳を超えているとは思えないほど幼く見える。実際、ウカの見た目は10代の狐耳少女であるし、普段の俺とのじゃれあいをしている様子は見た目相応に見えるのだ。それに対して俺が言ったウカの商会の従業員―深くかかわったのはキコとヨウだけだが―は見た目は20代の女性たちだ。年齢は知らないが落ち着きもあり仕事もできるので、そう言う意味ではそちらも見た目相応であった。


 そんな会話をしながらリースが戻ってくるのを待っていると、俺たちは自然とリースが入っていった入り口に視線を戻す。すると間もなくしてリースが顔を覗かせ口を開いた。


「見てきたよ!」


「お、戻って来たか。どうだった?」


「うんとね、中は暗くって何人かおじさんがいたの。キラキラした服のおじさん二人と剣を持ったおじさんが五人だった」


「そうか。ありがとう、リース」


 「褒めてっ」という雰囲気で近づいてくるリースの報告を聞きながら、俺はリースの頭に手をやり撫でてやる。リースは俺に撫でられる感触を楽しみながら目を細める。俺はそんなリースに和むような気持ちになりながらも、用事を早く終わらせようと言葉を続ける。


「じゃあ、普通に入っても問題なさそうだな。リースが言ったキラキラした服の二人はハラハンとハシームだろうし、残りは護衛だな」


「そうですね。護衛の方は大丈夫そうですか?」


 ウカが俺に対して首をかしげながら質問してくる。実際、普通の護衛程度なら戦闘になれば俺たちに負けはないだろう。しかし、隠し部屋のような所に連れてくる護衛だ。万が一があるかもしれないと、ウカは心配したのだろう。加えてウカの部下はある程度戦えるとはいえ、それに特化しているわけではない。


 そんなウカの考えていることを感じ取ったのか、キコが俺に向けて若干申し訳なさそうに口を開く。


「あの、私たちはここに残っていましょうか?」


「別に気にしなくても大丈夫じゃないか?」


 キコの質問に俺は気軽にそう答える。実際、これまで出てきた敵に俺やティア、そしてリースが苦戦するようなのはいなかった。ある程度隠し玉があったにせよ、それ以上の力を以てして叩き潰せばいいだけである。


 しかし、不安なままでこの先に進むのも楽しくない。俺はそんなウカ達の不安を払拭するべく、リースに向かって問いかける。


「リース、中にいるのは強そうだったか?」


「リョウお兄ちゃんやティアお姉ちゃんと比べたら全然弱いの!」


「それはそうでしょうねぇ」


 リースの返事にウカは苦笑しながら言葉を返す。俺やティアと比較してのことはウカも心配はしていないようだった。そう言う意味では俺たちの面子の中で戦闘面に対して不安が残っているのはウカの部下二人であるからして、この質問は聞き方が悪かった。俺は改めてリースに問い直すことにして、口を開く。


「ウカ達でも勝てそうか?」


「余裕なの!」


「じゃあ、問題ないな」


 今度の質問にもリースは元気に答えてくれる。その返答を聞き、ウカも安心できたのか俺に視線を向けて頷いていた。俺はそれを見ると皆に視線を向けて口を開いた。


「さて、このバカ騒ぎもこれでおしまいにしようか」


「ええ」


「うん!」


「「「はいっ」」」


 俺は皆の返事を聞くと、視線を隠し部屋の入り口に向ける。


「よし、お邪魔しまーす!!」


 俺はそんなことを大きな声で叫びながら、入り口を蹴破るのであった。

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