第6話 商業国に向けての移動①

 王都での用事をもろもろ終わらせたや翌日。俺たちはついに旅に戻る当日を迎えた。


 国王さんたちはお見送りをしたいと言っていたが俺はそれを丁重に断り、俺たちだけで出発することに決めたのだった。


「じゃあ、行くか」


 俺はティアとリースに声をかけた。二人からは同意の返事が返ってくる。こうして俺たちはディール王国の王都を出たのだった。


 目的地はディール王国の隣の国である商業国。商人たちが大きな権力を持っていて、国王は一応いることにはいるがあまり大きな力を持たないそうだ。そのため商売をする人たちのやりやすいように政治が動いているらしい。なので世界中から商人が集まるため、いろいろなものが手に入る大きな市場などが発展しているようだ。


 俺たちはそこを目指しておよそ二週間ほど移動することにした。王都に来るときにはアリスの馬車に乗ってきていたため、移動は徒歩になるが俺たちはみんなが飛べる(リースも魔法を使いこなせるようになった)ため人気がなくなったら空を飛んでショートカットを図ることにしていた。また、移動途中で見つけた都市などは入ろうと決めており、思うがままの行き当たりばったりで気楽な旅にすることに決めていた。


 なんにせよ、ひとまず俺たちは徒歩で商業国方面に向かう道を徒歩で移動しているのだった。


「とりあえず人気がなくなったら飛ぶけど、どのくらいまで進もうか?」


 本気で俺たちが飛べば予定している二週間もかからずに商業国に着くため、ティアに相談する。


「そうね、馬車より少し速い程度でいいんじゃないかしら?」


「それもそうだな」


 ティアの返答に俺は賛同する。リースは俺の頭の上に乗ってはしゃいでいた。


「リース。あんまり暴れないでくれよ?」


「はーい」


 最近のリースはゴーストって何だっけ? と思うような元気が有り余っている様子で、ずいぶんと明るくなった。


 こうして俺たちはしばらく歩いて、人気がなくなると魔法を使って飛んで移動するのだった。







 下から見ずらいくらいの高度を維持し、飛行しながら移動すると少し離れたところに道から少し離れたところに森が見えた。時刻はもう夕方くらいである。


「今日はあの森の側で野営するか?」


 俺はティアに相談する。


「構わないわよ」


「じゃあ、今日はそうするか」


 ティアの同意を得た俺は森の方に向かって降りて行った。森の方を探知の魔法で調べると野生動物の気配と、少し弱い魔獣の気配を感じられた。このくらいの魔獣なら俺たちを警戒して出てこないだろう。そう判断した俺は軽めの障壁を張って魔法で作ったテントを出した。見た目はテントであるが、その中は魔法で空間をいじって広々と使えるようにしたものだ。


 特に外ですることはないため、俺たちは早々に中に入る。そして俺は夕食の準備を始め、ティアとリースは風呂に向かっていった。


「今日のメニューは何にしようかな」


 俺は一人で誰に聞かせるわけでもなく呟いた。王都でティアたちが食材を好きなだけ買ってきていたため、材料だけはたくさんあるが判断に困る。特に異世界特融っぽいものはほんとに困る。日本で生活していた時に見ていたものに近ければある程度自分で想像できるため判断できるが、ぶよぶよしたスライムみたいなのとか渡されてどうしろと言うんだよ。


「初日だし、無難なものでいいか」


 俺はそう呟いて献立を決めていく。とりあえず、野菜と鳥の魔獣のスープは確定。あとは日本のものとはやはり食感や柔らかさなどは違うが丸パン。


「うーん。もう一品くらいほしいな」


 ティアはあほみたいに食べるしな。胃袋とかどうなってるんだろう。まあ、考えてもわからないしいいんだけどさ。


 俺は風呂の方に近づいて大きめの声を出す。


「ティア、リース。なんか食べたいものはあるか?」


「なんでもいいわよ」


「おいしいもの!」


 ティアの適当な返事とリースの元気な返事が返って来た。何でもいいが一番困るんだよなぁ。あとリースの答えがふわっとしすぎじゃないかね?


「まあ、適当になんか作るわ」


 俺は投げやりにそう返事をしてキッチンに戻った。何でもいいと言いつつ適当なことをしたら後で貧血になるまで血を吸われそうなため、恐ろしくてできない。仕方ない。もう一品自分で考えるか。


 俺は収納に入れていた食材を並べて考えることにした。ん? ティアに適当に渡されてよく見てなかったがパスタみたいな麺があるな。これでいいや。


 俺はもう一品をパスタに決めて調理を再開する。今回は普通なトマトソースのパスタにするかな。イノシシの魔獣をひき肉にしたのも入れてミートソースにするか。


 俺はそうして手際よくひき肉を炒め調味料で味付けをしてトマトを投入する。そうしてできたミートソースを一旦、収納に入れておいてパスタをゆで始めた。ちょうどいい固さにゆで上げたパスタをざるに上げてお湯を切りこちらも収納にしまう。時間経過しないため収納を便利に使って出来立てを保っているのだ。魔法をこんなのに使ってるのは俺ぐらいだろうな。


 こうして調理を終えたあたりでティアとリースが風呂から上がってダイニングのスペースに入って来た。


「お、ちょうどだいたい完成したぞ」


「あら、それはよかったわ」


「わーい」


 ティアの少しうれしそうな微笑みとリースの元気な声を聴いて俺も思わず口角が上がっていた。


「じゃあ、準備するから座って待ってな」


「わかったわ」


「うん!」


 ティアたちの返事を聞きつつ、俺はテーブルに夕食の用意をしていった。用意が終わると俺たちはそろって食べ始める。


 その後俺は夕食後の片づけをして風呂に入り、明日に備えて寝ようとしたとき、ふと気付く。あれ、なんか主婦じゃねぇか? これ。


 俺は考えないようにして寝ることにしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る