第39話 ディール王国動乱④・後始末②
ティアと別れた俺とリースは王城に入り、ルシルのところを目指して長い王城の廊下を進んでいた。
「ルシルがいるのはこっちか?」
俺はつい先ほどまでルシルに会っていたリースに聞く。
「うん。そのはずなの」
ルシルはこちらを見ながらそう言った。
「そう言えばリース。だいぶティアになれたみたいだな」
「さすがに一緒に居たら慣れるの。でもまだ少し怖い......」
「そっか」
表面上はってところかな。そして俺たちはしばらくルシルのところを目指して黙って進んで行ったのであった。
ルシルがいる部屋の前に来た俺たちはドアをノックして、ルシルの返事を聞いた後、部屋に入った。
「これでだいたい終わったと思うぞ」
「そうですか。ありがとうございます、リョウ様」
「気にするな。依頼として報酬ももらっていたしな。それよりも後始末の方が大変じゃないか?」
「そうですね。まだまだ気を抜けません」
ルシルは自分に力を入れるように小さく握りこぶしを作ると、やる気十分と見せるように気合を入れていた。
「そう言えば国王さんはどうした?」
「お父様でしたら民に今回の事件の内容を発表するための演説の台本を作ったり、騎士たちの指揮をとったりと忙しそうにしてますよ?」
「そっか。聞きたいことがあったんだけどな。まあ、落ち着いたらにしようかな」
「そうしていただけますと助かります」
そう言って父親の忙しそうにしている姿を思い出したのか苦笑いするルシル。そんな会話をしているとティアが俺の魔力を目印にしたのか、俺の目の前に転移してきた。
「終わったわよ」
「お疲れさん」
ティアの簡潔な報告に俺はねぎらいの言葉をかける。ティアはそれに嬉しそうにしながらもたれかかって来た。
「おいおい、ずいぶんと疲れてそうだな?」
「久しぶりに働いたんだもの。少しは多めに見てほしいわ」
そう言ってこちらにかける体重を増やしてくるティア。まあ、そんなにというか、まったくと言っていいほど重くないので構わないのだが。
「それでどういう風に終わらせてきたんだ?」
「全部燃やしてきたわ」
Oh......。相変わらず物騒だな。
「そうね......詳しく聞きたい?」
俺は遠慮したいなぁ。しかし、ルシルはそうでは無かったようで目を輝かせていた。
「私は聞きたいです」
目だけではなく、口でもそう言ったルシルにティアはふふっと笑うと語り始める。この笑みはなんだか怖いなぁ。
「そうね。私は優しいから、まず帰る気があるかどうか一応聞いてあげたのよ? でも聞く耳を持たずにこちらをニヤニヤ見てくるだけだったからね、障壁で囲って逃げられないようにした後に火をつけてあげたの。久しぶりだったわぁ」
ティアは恍惚となりながらそう語る。これなんかやばいスイッチ入ってないか? ほんとに怖いんだが。
「火もね。ただの火じゃなくて青くなるまで強化した火にしてあげたのよ? 一瞬で逝けるようにね。最後の方の人はなぜか私を化け物を見るかのような目で見てきたのだけれど、不思議よね」
それは何も不思議じゃないです。普通に怖い。それに青い火って何を燃やすかによるとは思うけど七千℃くらいなかったか? やっぱり怖い。
「リョウ。何を考えているのよ?」
そんなことを考えていた俺を察したのか、ティアが俺の腕をつねってくる。
「痛いぞ?」
俺はそう言って抗議するがティアは知らんぷりをして目線を合わそうとしてくれなかった。
「むぅ」
そう言ってほっぺを膨らませるティア。そうしている分には見た目相応で可愛らしいんだけどなぁ。中身が全然見た目らしくない。むしろ物騒だ。
「ちょっと、リョウ。また失礼なことを考えているでしょう?」
「そんなことはないぞ? ただ可愛らしいなぁとは思ったが」
俺は嘘は言ってない。しかし、何故ティアは俺が考えていることがわかるんだ?
「......リョウお兄ちゃん。表情に出てるの」
そう言ってリースが指摘するようにボソッと呟いた。
「え? まじ?」
思わずそう聞き返してしまう。あ、やべ。墓穴掘ったかもしれん。案の定、ティアがこちらをにらむようにむすっとした表情で見ていた。
「悪かったって。あとで言うこと聞いてやるから機嫌治してくれ」
「干からびるまで血を吸ってやるわ」
「やめろよ。怖ぇよ」
ティアは俺の反応に満足したのかそれからは上機嫌にしていた。
「ふふっ。仲がいいんですね」
そう言ってルシルが笑いかけてくる。
「リョウお兄ちゃんとティアお姉ちゃんはいつも仲良しなの」
ルシルの言葉を聞いてリースも肯定するように笑ってそう言った。
「話を戻すか。それでティア。帝国軍は全滅させたのか?」
「誰に言ってるのよ。当たり前だわ」
「それもそうだな。じゃあ、あとは王都内の立て直しくらいか?」
外敵の排除は完了している。俺たちが手伝えるのもここまでかな? 内政のこととかはさっぱりだし。
「そうなると思います。今日できることは私たちがやらないといけないことくらいです」
ルシルもそう言って俺の発言を肯定した。
「じゃあ、俺たちは帰るよ。明日、顔を出した方がいいか?」
「そうですね。いま外に出て手伝ってくださっているフローレス辺境伯の騎士さんたちも送らなければなりませんし、リョウ様達にも報酬をお渡ししますので」
「そっか。じゃあ、また明日な」
こうして王都で起こった帝国からの襲撃は一応のおさまりを見せたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます