第38話 ディール王国動乱④・後始末①
最初に動いたのは男の方だった。男は剣を抜き、こちらに向かって突っ込んでくる。身体強化の魔術を併用しているのかおよそ普通の人とは比べられないほどのスピードでこちらに向かってくる。
「チッ!」
俺は舌打ちをしながら男の剣の攻撃を構えた剣でいなす。男はいなされた剣をこちらの剣に滑らせるように切り返してくる。俺はそれを強引に弾き飛ばそうとした。そこで男はその場から飛びのいた。
男が飛びのく前までいた場所にティアの放った風の魔法―カマイタチが通過した。
「勘がいいな」
俺はそう声をかけた。
「不意打ちは慣れているのでね」
男はそう答えた。距離が離れたため仕切り直しだな。俺はそう考え土の魔法―銃弾を作り出して男を狙う。
「やっかいなっ」
男はそう吐き捨てて回避に入る。そこをティアが雷の魔法―電撃で狙い撃つ。一瞬雷が落ちたような轟音が轟、男に当たる。
「ぐぅっ!!」
男は感電した様にうめき声を上げるとともに震えてその場に倒れこむ。俺はその隙を逃さず男に接近して逃がさないように両腕を切り飛ばした。俺は自分らが両腕程度ならすぐ回復できるため攻撃手段が物騒になっていることに気付いて苦笑いする。
「リョウ、何笑ってるの?」
俺の苦笑にティアが気付いて声をかけてくる。
「いや、俺はもともと戦闘とは無縁に生きていたのに最近物騒だなって思ってさ」
「そう言えばそうね。適応しすぎじゃないかしら?」
「慣れてなくて足引っ張るよりはいいだろ?」
「そうね」
そんな会話をしながらも俺たちは男から視線を外さずに抵抗するかどうかを観察する。
「こいつ生きてるか?」
俺は倒れてピクリとも動かない男に足でちょんちょんとつつきながらティアに聞く。
「反応や気配は死んでないわ。危険なもの持ってないか調べて王城に連行しましょう?」
「そうだな」
俺は男の懐を探って短剣やらほかのやつらが使っていた転移できる魔術が封じられている石やらを押収していく。
「そう言えば、民衆を操っていたのこいつだよな?」
「そのはずよ」
「じゃあ、こいつ気絶したし民衆はもう大丈夫か?」
「ええ。もう魔術の流れは断ち切ったわ」
何時の間にやったんだろう。まあいいか。
「じゃあ、王城に向かうか」
「そうね」
俺たちはそう言って王城の前に転移した。
王城の前に転移するとつい先ほどまで暴れていただろう民衆が一人残らず倒れていた。
「これってさっき原因を取り除いたからか?」
俺は民衆が少し心配になってティアに聞く。
「そのはずよ。あとは記憶があるのかどうかくらいじゃない?」
気軽にティアがそう返事する。国王さんたちはこの辺どうやって後始末するんだろう。
「そう言えばリースはちゃんと指示もらえたかな?」
「意外としっかりしてるし大丈夫じゃないかしら」
俺はティアにそう言ってきょろきょろとリースを探す。
「以外は余計だと思うの」
「うおっ」
ふと後ろからスーッと姿を現したリースに俺は驚く。
「あら、リース。どうだった?」
ティアは気軽にリースにそう聞いた。
「ルシルがぶちのめしていいって言ってたの」
おい、王女。リースになんて言葉遣いを教えるんだ。それにしてもリースは最初会った時よりもだいぶ落ち着いてきて、素を見せるようになってきたな。
「そう。殺してもいいのかしら?」
ティアがそんな物騒なことをリースに聞く。だから言葉遣い。
「いいって言ってたの。やっちゃってだって」
リースも普通に返事すんのかよ。ティアにも怯えなくなったしいいんだけどさぁ。
「じゃあ、リョウはその男の引き渡しと情報を伝えてきてね。私は外からやってくるのを吹き飛ばしてくるわ」
「......了解。リースはどっちについてく?」
「リョウお兄ちゃん一択なの」
「この分も帝国の軍に充ててくるわ」
ティアさんや。リースに選ばれなかった腹いせに帝国軍を使うのはやめなさい。
「まあ、いいや。じゃあ後でな」
「ええ」
「行ってらっしゃいなの」
こうして俺たちはまた二手に分かれたのだった。
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<ティア視点>
私は今、とても上機嫌だ。さっきリースが「行ってらっしゃい」って言ってくれたからだ。最初はあんなに私に対して怯えていたのに。数日一緒にいただけで少しずつ私にも笑顔を見せてくれるようになった。
「はぁ。早く終わらせてリースをかわいがりたいわ」
そう呟いた私は帝国軍の気配がする前方に転移した。転移した先には帝国軍の国旗を掲げた集団が進軍してきていた。
「あなたたちは引き返す気があるかしら?」
私は集団の先頭にいた偉そうな男に声をかけた。
「何者だ?」
質問しているのは私なのだけれど。馬鹿なのかしら。
「もう一度聞くわよ? 今引き返したら生かして返してあげる。どう? 引き返す気はある?」
少しイラっと来た私はわざと挑発するように聞き返した。
「お前ひとりで何ができる? ん? よく見ると可愛い顔してるじゃないか。遊んでやろうか?」
先頭の偉そうな男は私を舐めるような目で見てきてそう言った。本当に気持ち悪いわね。
「そう。もう警告はしたからいいわよね」
そう言って私は帝国軍の集団が逃げられないように周りを障壁で囲んだ。さらに頭上に大きな炎の塊を作り出す。炎はだんだんと空気と魔力を取り込み燃焼を加速させ赤色から白色、そして青色に変化していく。
「な、なんだその火は......」
驚きと恐怖が入り混じった表情で先頭の男は呟くがもう遅い。
「さよなら」
私はそう呟いた後、その青色の炎を無数に分裂させて帝国軍の集団に落としたのだった。私は効果を確認することなく王城の方に転移する。
その場には骨すら残らず高威力の炎が地面を焼き、ガラス化した地面のみが残っていたのだった。
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