第30話 酒場で絡まれる
「何かしら?」
声をかけてきた男たちにティアが興味なさげに返事をする。俺と会話するときと打って変わって視線も冷たく、声音も固い。
「そっちの兄ちゃんよりも俺たちと飲もうって言ってんだ。いいから来いよ」
男はそんなティアの様子に全く気付く様子もなく、ティアの手首を掴もうと手を伸ばそうとする。そこでティアが動いた。
「触ろうとしないでもらえるかした? 不快だわ」
「ああ? ぎゃあああああああああああああああ!!!」
ティアに触れようとした手が手首から先からなくなっていた。ティアの返事に気を悪くした男が凄もうとした途端、痛みに気付いたかの如く手があった場所を抑えて叫び始める。その騒ぎで俺たちは一気に注目される。
「バーノさんっ!?」
ティアに手を伸ばそうとしたバーノと呼ばれる男の取り巻き達が驚いたように声を上げる。そしてバーノの手首から先の惨状に気付き、ティアを睨みつける。
「てめぇ、バーノさんに何をした!!?」
「私に触ろうとした手を落としたのだけれど?」
ティアは淡々と自分のした行動について説明する。それはさも当たり前の行動だと言わんばかりの自然さだ。
「許さねぇ。やれっ! お前ら!!」
バードは怒りで顔を真っ赤にして俺たちを睨みつけ、そう叫んだ。それに呼応するようにバーノの取り巻き達は腰に下げている剣を抜き俺とティアに向ける。
「ティア。どうするよ、これ」
「めんどくさいわね。リョウに任せたいんだけど?」
「俺だってやだよ」
俺とティアは俺たちを囲んでいるバーノの取り巻きを見ながらそう言って相手をする役を押し付けあう。
「あら、リョウはデートの相手を守ってはくれないの?」
「はぁ……」
今日の王都散策をデートと言うかどうかは審議が必要だと思うが、そう言われては俺もこれ以上何か言う気が起きない。俺は溜息を吐きながらバーノの取り巻き達と対峙することに決める。そして囲んでくる男たちに対して俺は口を開いた。
「なぁ、酒場に迷惑だからやめないか? それに絡んできたのはそっちだろ? それを忘れてやるから水に流そうぜ」
「それで許されるわけないだろっ!!」
「そうだっ!!」
「謝るなら今のうちだぞ?」
囲んでくる男たちは自分たちの人数差から勝ちを信じて疑っていない様子で口々にそう言った。そんな様子に俺は「やっぱりか……」と言う気持ちを隠しもしないで再度、溜息を吐く。そんな俺を見ていらだったのかバードが大声で叫ぶ。
「やれっ、お前ら!! その男を殺して女を捕まえろ!! 捕まえたら好きにしていいぞ、裸に引ん剝いて泣き叫びながら許しを乞うまで犯しつくしてやれっ!!!」
バーノが叫んだ瞬間、俺は頭の中がスーッと冷えていくのを感じた。そして殺気を隠しもしないでバーノに問いかける。
「……今、なんて言った?」
「ああ!?」
俺の雰囲気が変わったことにバーノは気付かづに怒鳴り返す。しかし取り巻きの男たちはそれに気付いたのかガタガタと震え始め、さらにその周囲の野次馬も俺を見て恐怖の表情を浮かべていた。
「さて、お前達は俺の許せるラインを超えた。覚悟はいいな?」
「何言ってやがるんだ? お前らさっさとそいつをやれっ!!」
バーノの言葉で気が付いたのか取り巻きの男が気合を入れるように叫びながらこちらに向かってくる。
「やああああああああああああああああっ!!!!!!!」
「遅いなぁ」
男の剣を避けながら俺は呟く。そして男を避け様に後ろから殴りつけ意識を奪う。そこからバーノの取り巻き達が流れるように俺に向かってくるが、それぞれすべてを殴って気絶させていく。やがては残っているのはバード一人になった。
「で?」
俺は一言、他にもうないのかとバーノに問いかける。恐らくだが俺の動きはバーノ程度ではほとんど見えなかっただろう。アデオナ王国の王都で多少喧嘩が強い程度じゃ俺やティア、もしかしたらウカの動きも見えないかもしれないぐらいの実力しかない。
気付けばバーノは俺を睨みつけることも忘れて、俺に対して怯えたように恐怖の表情を貼り付け震えていた。
「ほら、他に何かないのか? なんだっけ、俺を殺してティアをどうするって?」
俺はゆっくりとバーノに近づいて行く。俺が一歩近づくごとにバーノは一歩下がる。しかしそれも終わりが来る。バーノの背中が壁に付き、逃げ場がなくなってしまった。バーノはきょろきょろと落ち着きなく助けを求めるように周囲を見回していた。
「他に何かないのなら、お前はもう死ね」
俺はそう言って収納の魔法から剣を取り出し、バーノに向ける。そしてバーノの首をはねようとした時、野次馬たちが騒ぎ出したことに気付いた。そして間もなくして大きな声で俺たちに向かって叫ぶ声が聞こえる。
「何事だっ!!」
俺はその叫び声が聞こえた方に視線をやる。そこからは警備兵と思われる集団がこちらに来ているのが見える。そして警備兵の上官と思われる男が騒動の中心にいる俺とティア、そしてバーノに視線を向けティアに気付く。
まぁ、どうしてもティアは見た目が少女だし、加えて幼く見えるも可愛い顔立ちをしているため、目につくのは仕方がない。が、その警備兵の上官がティアに向けて欲にまみれた視線を向けているのに気付いた俺は、まだこの騒動が終わらない予感しかせず溜息を吐くのだった。
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