商業国の闇

第1話 挨拶回り①

 ディール王国の王都であったあれこれから二週間ほど経った。俺はそろそろ旅に戻ってもいいだろうと考え、ティアに相談することにした。


「そうね、王都の見るところや食べるものはあらかたやったしね」


 ティアはそんなことを言って俺の言ったことを肯定してくれた。


「リースはそれでいいか?」


 俺はティアの隣に座っているリースにも声をかける。


「リョウお兄ちゃんと一緒ならどこでもいいの」


 そんなことを言ってくれるリース。かわいい。


「じゃあ、今日明日準備して、それから行くか」


「そうね」


「わかったの」


 俺がそう言うと二人とも了解の返事を出したのだった。





「じゃあ、俺はちょっと国王さんのとこに言ってくるな」


「ええ。いってらっしゃい」


 俺はさすがに国王さんたちには挨拶しといたほうがいいだろうと思い、王城に向かうことにした。その間、ティアたちは必要な物の買い物だ。


 俺はティアたちと別れ王城に向かって歩いていく。王城の門の前に着くとかつての門番さんが立っていた。


「よっ。お疲れさん」


 俺は軽く手を上げて声をかける。


「リョウ様。お疲れ様です」


 門番さんも敬礼を返してくる。そんなかしこまらなくてもいいのに。苦笑しながら身分証を見せて、王城に入ったのだった。






「ちわー」


 俺はそう言いながら国王の執務室に入る。


「リョウ。お前はちと軽すぎるのではないか?」


 そう言って苦い顔で苦言を言う宰相を無視して俺は要件から切り出す。


「国王さん。俺たち明後日くらいに王都を出て旅にもどるなー」


「「!?」」


 なんか国王さんと宰相が固まってしまった。


「あれ? なんで驚いているの?」


「急すぎではないか?」


 国王が驚いた表情でこちらを見てそう言った。


「いや、戻ろうと思ったら転移でいつでも来れるし。ちょっと働きすぎたから休暇にしてただけだよ?」


 俺はあっけらかんと言う。


「そうか。そうだったな。お前はそう言うやつだった」


 国王は呆れたような諦めたようなそんなため息をつきながらそう言った。


「あ、そう言えば商業国に行こうと思ってるんだけど国境って普通に通れる?」


「問題はないはずだが?」


「そっか。それならいいんだ。じゃ、そう言うことで」


 俺は聞きたいことは聞けたし、言いたいことも言ったしでそのまま部屋を出ようとする。


「ちょっと待て」


「ん?」


 部屋を出ようとした俺に宰相さんから声がかかった。


「出発はいつだと言ったか?」


「明後日くらい?」


 たぶん。


「では、明日もう一度ここへ来てくれんか? よその国でも通用する身分証を渡そう。それがあれば大抵の面倒ごとは片付けても問題にはなるまい」


「ん? それっていいのか? 何か起こればそれはこの国に話が行くってことになるぞ」


「この国はそして我々は、それくらいリョウに恩があると思っている。それに悪用したりはしないだろうしな」


「そっか。ありがとう。じゃあ、明日また来るよ」


「それまでには用意しておこう」


 俺は宰相さんの提案をありがたく聞いた後、国王さんたちのいる部屋を後にした。


「次はルシルのとこかな?」


 俺はそう呟きながらルシルの気配を探る。考えてみたらストーカーっぽいな。なるべくやらないようにしよう。お、見つけた。あそこは中庭かな。


 ルシルの気配を見つけた俺はその場所に向かって転移した。王城広すぎるんだよなぁ。


「よっ」


 俺は先ほどと変わらず軽く声をかける。


「きゃ」


 ルシルは急に現れた俺に驚いたのか短く悲鳴をあげた。


「リョウ様でしたか......。びっくりしますので急に後ろに来ないでくださいよ」


 可愛く頬を膨らませて抗議してくるルシル。


「悪い悪い。ちょっと話があってね」


 俺は軽く謝りながらそう切り出す。


「話、ですか?」


「そう。明後日くらいにさ、俺たち旅に戻るから伝えておこうと思ってね」


「そう......ですか。少し寂しく感じてしまいますね」


 そう少し頬を染めて言うルシル。そう言ってもらえるのはうれしいけどね。


「そっか。まあ、俺たちはいつでも転移で戻ってこれるしね。あ、そうだ」


 俺は携帯電話を思い出す。スマホでもいいが、なにか簡単に連絡できるものがあればいいなと思いついた。


「どうしたのですか?」


 俺が何かを思いついたように考えているのを見たルシルが不思議そうに聞いてくる。


「ちょっと待ってね」


 俺はルシルにそう言って収納から魔法が通りやすい鉱石を取り出した。あの森でティアと共に暮らしていた時に教えてもらっていたものだ。


「これをこうして......」


 俺は魔法を駆使してスマホのような板に作り、そして会話ができるような魔法を込めた。


「はい、お待たせ」


 俺はそう言ってルシルの手に今しがた作ったスマホもどきを渡す。


「これは?」


「魔力を込めたら俺に言葉が届くようにした道具かな?」


「!?」


 ルシルは驚きで固まってしまった。


「なんかあったら連絡してくれていいよ。俺とかティアは念話が魔法で使えるからいいけどルシルとかはあった方がいいかなって」


「ありがとうございます」


 ルシルはスマホもどきを胸に抱きよせて嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ、明日もう一回王城に来ると思うから今日はもう行くね」


「はい。では、また明日......ですね」


「じゃあね」


 こうして俺は王城での用事を終わらしてその場を後にするのだった。

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