第31話 思わぬ出会い

「おいしい!!」


 風呂を終えて俺が作った飯を食べ始めた子供たちは表情を輝かせて口々に喜びの声を上げる。


「たくさんあるからそんなに焦って食わなくていいぞ」


 そんな子供たちを見て、俺は苦笑してそう言った。子供たちに交じってティアがいるのには目を逸らしているが。こうして子供たちに腹いっぱいに飯を食わせて寝かし終わったころ、俺たちの家に二人の客が王都の方で保護した名前のわからない少女を連れてやって来た。


「ちょっとお客さんが来たみたいだ。迎えに行ってくる」


 俺はくつろいでいるティアとリースにそう声をかけると玄関へ向かった。


「護衛はつけなくてよかったのか?」


 玄関から外に出て目にした客を見た俺はそんなことを口にしていた。


「ああ、この人も結構強いからね」


 そんなことを言って返事をしたのはこの国の王子であるエディだった。


「へぇ」 


 俺は王子がの返事を聞きつつ王子が連れてきた人を見る。見た目は二十代くらいの女性で金髪の可愛らしい人だった。


「王城のメイドを引退した人を連れてくるんじゃなかったのか? てっきり高齢で引退した人を連れてくると思ったぞ」


「しっかり王城の引退したメイドを連れてきてるさ。見た目は……たぶん私が生まれたときから変わっていない」


 王子は目を泳がせながらもそう答えた。まじかよ。流石ファンタジー。


「初めまして、リョウ様。私、マリーと言います。王城でメイドをしておりましたが数年前に辞めておりまして、この度、エディ王子殿下に声をかけていただいた次第にございます」


 俺が少し動揺していると王子の隣から挨拶をされる。


「お、おう。リョウだ。よろしく」


 動揺のあまり、少し返事がおかしくなってしまったが何とか言葉を返し、家の中に案内する。


「見た目が変わってないって人間か?」


 俺は王子に小声でそう問いかける。


「私も久しぶりに会って驚いたんだ。人間だとは思うんだが……」


 王子も確信は持てなさそうにそう答えた。


「まあ、子供たちをしっかり見てくれて教育もできるのならばいいっちゃいいんだが……。素性とか知らないのか?」


「私が生まれる前から王城で働いていたそうだ。それくらいしか知らん」


 そんな会話をしながらちらりと後ろに少女の手を引きながらついてきているマリーを見やる。俺は彼女と目が合いにっこり笑ってこてんと首を傾げられた。


「どうかされましたか?」


「い、いや。なんでもない」


 俺はマリーの問いかけに辛うじて返事を返すとティアたちがくつろいでいる部屋に案内した。


「ティア。リース。王城からの客だ」


 そう言って俺は二人を部屋に入れる。ティアは部屋に入って来た俺たちに順番に視線を向けて、マリーと目が合うと驚きの表情で声を上げた。


「え?」


 何に驚いているんだろう。そう思った俺はティアの視線の先であるマリーに視線を向ける。そこにはティアと同様に驚きの表情を浮かべているマリーの姿があった。


「あなたこんなところにいたのね」


 先に口を開いたのはティアだった。口ぶりからはどうやら知り合いのようだが。


「私こそ驚きましたわ。まさかこんなところで会えるなんて……ティアお姉さま」


「「「!?」」」


 今度はティアとマリー以外の全員が驚愕の表情を浮かべる。


「えぇ、もしかして姉妹?」


 二人の会話から察した俺は困惑しながらもそう聞いてみる。


「はい、リョウ様。ティアお姉さまは私の姉ですわ。どこを探しても見つからなくてもういないのだと思っていましたわ」


 まあ、まさか姉が森の中で一人引きこもっているとは思わないだろう。しかし、マリーも何故こんなところでメイドなんてしていたのだろうか。


「王子さん。このこと知ってたか?」


「いや、初めて知ったが……。ちょっと頭が追い付かない」


 エディ王子に聞いてみるも混乱から抜け出せないご様子。さて、どうしたものか。とりあえずこの全員が何かに驚いている混沌とした空気を変えるべきか。


「とりあえず座ってくれ」


 そう言って俺は客である三人に椅子を差し出す。


「あ、ああ。ありがとう」


「ありがとうございます」


 そう言って座る王子とマリー。そして少女はティアの上に座った。


「さて、とりあえず。ティアの妹ってことはマリーも吸血鬼ってことでいいのかな?」


「……」


 マリーはすぐには答えず困ったようにティアの方を見る。これは今まで隠していたってことかな。おそらく話していいのかという確認だろう。そして視線を向けられたティアは黙って頷いた。


「ええ。そうです。もしかしてリョウ様はティアお姉さまのことをご存じで一緒におられるのですか?」


 ティアの許可が出てすぐに返答を返したマリーは逆にそう聞き返してくる。


「ああ、一応知っている。よく寝ぼけて吸い付かれるな」


「ちょ、ちょっとリョウ!」


 俺が冗談めかして答えると、ティアは少し焦ったように声を上げた。しかし俺の返答を聞いたマリーも驚愕の表情を浮かべていた。


「ん? どうした」


 俺はマリーの表情が気になり問いかける。


「リョウ様。ティアお姉さまや私のような古くからいる吸血鬼は、ほとんど人から血を吸う必要がないのです。リョウ様がよく血を吸われるというのは、ただ甘えられているだけかと……。随分とお姉さまになつかれましたね」


「あ、ちょっと、マリー!」


 ティアはマリーが何を言おうとしてるのか分かったのか制止の声を上げるが、マリーはそれを聞かずにそう言ったのだった。

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