第18話 家宅捜査 ~リョウの場合②

「おーい、戻ってこーい」


 俺は呆然としているウォリックの目の前で手を振りながら声をかける。


「はっ、なんだ夢か」


 すると突然気付いたように声を上げてこちらに焦点を合わせたウォリックは、現実から目をそらすように呟いた。残念、夢じゃないんです。


「夢って、おい。しっかりしてくれよ」


 俺は苦笑いしながらウォリックの肩を軽く叩く。


「はぁ、だめだったか。よし、そこの二人。ここの侯爵の私兵を拘束してくれ。残りは屋敷に突入するぞ」


「「「「「はっ」」」」


 俺によって無理やり現実に戻って来たウォリックは連れてきた騎士たちに指示を出し始めた。しかし、指示を受けた騎士たちは先ほどまで呆然としていたのを感じられないほどきびきびと動いていった。


「じゃあ、俺たちも屋敷に入りますかね?」


「そうだな」


 俺はウォリックに声をかけた後、屋敷の玄関に向かう。玄関にはやたらと華美な装飾が施されていて、夕方も過ぎてあたりが暗くなっているというのにわずかな明かりだけでピカピカと輝いていた。


「趣味悪いな、これ」


「まったくだ」


 俺が思わず呟くと、ウォリックもそれに習って苦笑いして答えた。


「さて、どうやって入る? 普通に入れてくれると思うか?」


「それは無理だろう」


 屋敷の中では屋根に穴が開いたことによってまだ騒然としている気配を感じられる。これは普通に戸をたたいただけじゃダメそうだ。


「仕方ないな。もう一回吹き飛ばすか?」


 俺は普通に開けようとして何かが引っかかっているのか開かない玄関の扉を見てため息交じりにそう言った。


「それは中にいる人が死なないか?」


 ウォリックは雇われているだけの使用人たちを心配したのかそんなことを聞いてくる。


「扉の裏付近に人はいないから大丈夫だろ」


 俺は中の気配を軽く探って人がいないのを確認してからそう答えた。


「じゃあ、頼む」


 俺の返答に安心したのかウォリックはそう言った。


「じゃあ、ちょっと離れていてくれよ?」


「わかった」」


 ウォリックはそう返事をすると騎士たちと共に俺から離れる。十メートルくらい離れてから立ち止まったウォリック達はこちらを見て頷いた。そこまで離れなくてもよかったんだけどな。俺は思わず苦笑いを浮かべながら頷き返すと玄関の扉に向き合って魔力を集めた。


「よいしょっと」


 そんな気の抜けた掛け声とともに俺は魔力をそのまま爆発させる。ドンッ! という腹の底から響く音と共に玄関の趣味の悪い扉は砕け散って中に押し込まれた。入り口ができたことを確認した俺は後ろを振り返りウォリック達の方を見る。


「入り口ができたから行くぞ」


「わかった。よし、お前ら。突入だ!」


「「「「はっ!!」」」」


 ウォリックの指示に訓練された返事を返した騎士たちは装備を確認し始めて突入準備を始める。これ時間かかるのか?


「俺は先行くぞ?」


 待つのに時間の無駄を感じた俺はウォリック達に声をかけて中に入る。中に入るとエントランスホールとでも言えばいいのか豪華なつくりの広々とした空間に出た。


「すげぇな、これ」


 思わずその光景を見てつぶやく。しかし広すぎてどこから見ればいいのかわからねぇな。


「とりあえず人がいそうなところを探すか」


 俺は一人そう呟きながら一階の気配を探る。二階にも気配があるけどとりあえず近いところにしておこうかな。お? あっちかな。俺は捉えた気配の方に向かって足を向けた。気配があるところの扉を開けて中に入る。ここは厨房かな。


「ど、どなたですか?」


 そこには端の方で震えて固まっているメイドが三人いてその中の一人が震えながらも声をかけてきた。


「国王さんからの依頼で来た者だよ。侯爵に用があってね。国王さんの騎士たちも来てるよ。ところでなんでそんなところで震えてるのかな?」


 俺は聞いてきたメイドにフレンドリーに答えを返した。俺の返答にひとまず安心したのか少し落ち着いた様子を見せるメイドの三人。


「だって、外から怒鳴り声とかすごい音とかしてたんですもの。怖かったです」


 最初に話しかけてきたメイドさんとはまた別のメイドさんがそう答える。分かりずらいな。メイドBと呼ぼう。


「屋根に穴が開いてましたし。魔獣でも来たのかと思いました」


 この子はメイドCだな。ちなみにメイドAは最初に話しかけてきた子だ。


「ああ、ごめんごめん。それやったの俺だわ」


「「「ひぃ!」」」


 俺が軽く謝りながらそう言うとメイドABCはそろって悲鳴を上げた。失礼だな。


「ところで侯爵ってどこにいるか知らない?」


 俺はまた震え始めたメイドさんたちにそう聞いた。


「案内しますから殺さないで」


 失礼な。誰が好き好んで人を殺すか。


「殺さないからよろしく」


 俺は諦めの心境でそう言ってメイドさんたちに案内をお願いした。入って来た扉とは反対側から出て奥に進むと廊下に出る。少し歩くと階段が見えてきたところで三人が立ち止まる。なるほど、上には結構な数の私兵がいそうな気配がするな。


「この上の階のどの辺にいるかわかるか?」


 立ち止まったメイド三人に声をかける。


「執務室か寝室かにいると思います。私たちも呼ばれない限り行かないのでわからないです。二階には二階担当のメイドがいますので……」


 メイドAがびくっとしたのちに答えてくれた。ふーん、なるほどね。あと、そんなに怖がらないで欲しいなぁ。もう、いいかな。


「ありがとう。もういいよ。ここからは一人で向かうからエントランスの方に行けば騎士たちに保護してもらえるんじゃないかな? ウォリックって騎士にリョウが保護してくれって言ってたと伝えてくれたらいいと思うから。ほら、行っといで」


「「「は、はい」」」


 俺の突然の指示にびっくりしたのか少しおどおどしながらも一礼してメイドの三人は去っていった。それを見送ってから目線を階段の上に向ける。さて、行きますか。


 俺は階段を上って行って侯爵探しに戻るのだった。

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