閑話 リースの魔法訓練
「今日はどうしようか?」
王都でのあれこれが終わり、のんびり過ごし始めて五日ほどのある日の朝。フローレス辺境伯領に騎士たちも送り届けるという用事も終わっていてやることがなく、リビングでソファーに座ってボーっとしていると、膝の上にリースが乗っかってきた。そこで俺はリースが退屈しているのでは? と思いそう聞いた。
「んー。リースも戦えるようになりたい!」
満面の笑みでそう言ったリース。うーん。戦い方かぁ......。俺のは魔法以外は我流だからなぁ。
「どうしてそう思ったのかな?」
「だってね、リョウお兄ちゃんやティアお姉ちゃんが闘っているときはリースは隠れるしかないんだもん」
「そっか」
「だめ?」
リースも寂しかったのかね? ダメじゃないんだがどうしよう。俺はリースをなでながら考える。
「ティア。どこかリースの訓練にちょうどいい場所ってないか?」
俺は考え付かなくなりティアの知恵を借りることにする。
「そうね。私たちが住んでいた魔の森の家は?」
リースを殺す気か? 知ったのは後になってからだが、あそこは普通は人が寄り付かない場所じゃなかったか?
「私たちがついていけば万が一もないでしょう?」
「そりゃそうだが」
俺の考えを呼んだのかティアがそう言ってくる。そりゃ、ティアがいれば早々問題なんて起きるはずがない。なんてったって神殺しで始祖の吸血鬼だ。今更だが、設定盛りすぎじゃね?
「まあ、いいか。じゃ、今日の予定はリースの訓練で」
「やったー!」
俺の決定にリースが喜びの声を上げる。かわいい。ティアもそれを微笑ましそうに見ていたのだった。
「じゃあ、やるか」
森の中で住んでいた時の家に転移した俺たちはかつて俺が魔法の訓練をしていた時の場所にやって来た。
「リースはどんな戦い方がしたい?」
「えっとね。......どんな?」
「例えば魔法をメインに戦いたいとか、剣も使うとか。戦闘スタイルによって違うと思うんだ」
リースは俺の説明をふんふんと頷きながら聞く。そして少し考えてからこう言った。
「リョウお兄ちゃんと同じがいい!!」
「お、おう」
元気が良すぎて少しびっくりしてしまった俺だった。それにしても俺と同じ戦闘スタイルかー。どうやって教えようかね。
「とりあえず魔法を教えたらいいんじゃないかしら?」
それを見ていたティアが俺に向かってそう言った。そうだな。とりあえず魔法からいくか。
「リースって魔法ってわかるか?」
「うん。神話とかに出てくるやつでしょ?」
その認識かー。俺たち日常的に使ってるんだけどなぁ。
「リースも普段から見てるわよ?」
そこでティアが口をはさむ。リースは「え?」という表情をして固まっていた。
「私たちは普段から魔術じゃなくて魔法を使っているわよ?」
ティアは続けるようにそう言った。
「でも今は魔法はもうないって......?」
リースは混乱している。そこでハッと気づいたようにティアを見るリース。
「ティアお姉ちゃんって吸血鬼だったよね?」
リースは恐る恐るティアに尋ねる。あ、こりゃ気付いたかな?
「そうね」
「じゃあ、神話に出てくる吸血鬼って知ってるの?」
そういえば神話の話は俺も詳しく聞いてないな。まあ、聞いたところでしょうがなさそうだが。
「その神話の吸血鬼はどんな人だった?」
ティアが逆に授業をするようにそう問い返す。
「えっとね。お話の中でね。銀色の髪で、美人な人って言ってたの。あとね魔法がすごいんだって!」
目をキラキラさせてそう言うリース。ティアはそれを少し悪戯っぽい目で見ていた。
「そう。それはこんな感じかしら?」
そう言って魔法を使って体を成長させるティア。するとそこには銀髪を腰当たりまで伸ばし、普段の少女姿より少し大人っぽくなった美女がいたのだった。さらに普段は少女の姿のため平野だった部分が、立派な二つに連なる山脈をお持ちになっている。
「リョウ」
その視線に気づいたのか、ティアがこちらをにらみつけていた。
「んんっ! 何でもねぇ」
俺は慌てて視線を逸らす。
「ふぇ?」
リースはそれを見て呆然としていた。
「お姉ちゃんって神殺しさんなの?」
そしてそう聞くリース。
「どうかしらね」
ふふっと笑ってもとに戻ったティア。ああ、二つのお山が平野に戻ってしまった。まあ、いいんだが。
「というわけで魔法についてやるぞ」
俺は空気を戻すようにリースに声をかける。
「とりあえず魔法の指導はティアに実績があるから任せてもいいか? 俺は飯の準備するから」
「わかったわ」
俺はまだ少し驚きが残るリースをティアに任せて飯の材料となるものを探しに森の中に入っていったのだった。
その後リースは問題なく魔法を使えるようになり、苦手としていた光属性の魔法や浄化の魔法に対しても耐性がついたばかりか使えるようにもなってしまった。ゴーストとはいったい何だったのか。
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